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第五話

最初に家出をしたのは昨年の暮れの事だった。


トラブルの原因は私がバイト増やしたことだった。

母の要望を叶える為必要になった金額は、塾だけでは足りなくなり、週一の家庭教師と週三の早朝仕分けバイトを増やしたのだ。

睡眠時間は無くなり、ほぼ徹夜で毎日を送っていた。授業中も寝てしまうことが多くなり、体も限界だった。

ある日、徹夜で課題を片付けていると母がこう言った。

「ノンちゃんが頑張っているから私も起きるわ」

「いや、ママは寝てよ。一緒に起きていてほしい訳じゃないよ」

「あなたが頑張っているのに私だけ寝られないもの」

「生活リズム崩したらまた眠れなくなってきついでしょ。そんなことして欲しいんじゃないよ」

「いいの、いいの。娘が頑張っている時って、一緒に頑張りたいものよ」

必然的に2人とも徹夜し、翌朝5時半に私が出かけるという生活が続いた。

3日後。

「なんでこんなバイト入れたの!?私の生活リズムをぐちゃぐちゃにして!!自分だけに都合が良かったら何してもいいと思ってるんでしょ!?」

「私、ママは寝てって言ったよ。このバイト入れる前に、時間帯も確認したし、ママに許可もとったよ」

「あなたは一人で起きられないじゃない!!私の生活リズムを返してよ!!」

「起きられないって自分で分かってるからベッドで寝てないよ。起きられないのは自己責任でしょ。」

「あなたが寝なかったら私が寝られないでしょ!?」

「なんで?」

「あなたが頑張っているのに私だけ寝られないじゃない」

「いや、だから」

と、このような具合である。翌朝バイトに行くギリギリまで母のヒステリーは続き、課題もままならない状態が続いた。

バイトを辞めろと母は言ったが、一カ月の短期契約を途中で辞めるというのは無理な話である。

「無断で欠席し続ければ問題ないじゃない」

と言った母には、さすがに辟易した。

契約期間が終わるころには家中に物と罵声と暴力が飛ぶようになった。

そんなある日

「あなたの携帯を出しなさい!!!」

「…..」

「出セェェェェ―――!!!」

朝の4時前に家中に響く声で叫び散らす母の眼は狂気じみていた。

(壊されるかもしれないけど、ここで出さなかったら私が先に殺される)

本気で恐怖を感じて私は鞄から携帯を出し、母に渡した。

ひったくるようにして私の手から携帯を取った次の瞬間

――ボキリ。

無残な音を立てて、二つ折りの携帯は真ん中からへし折られた。

爛々と目を光らせて、息を荒げた母は私に訊いた。

「私が折らないと思ってたでしょう!?」

「いや、折られると思ってた」

するとすこし勝ち誇ったような母の表情が徐々に歪んでいき、唇をわなわなと震わせ始めた。

「――折ると思ってて私に携帯渡した訳?私に物を壊させたかったワケ!?壊れた携帯を見て、罪悪感で自分の事攻めればいいと思って私、ワタシに携帯を渡したんかァ!?」

「……え?」

母の言っていることが分からなくなった次の瞬間、

「ああアアアァァァァァアーーーーーー」

叫び始めた母に感じたのは恐怖と絶望だった。

――逃げなきゃ。

頭の片隅に残っていた理性と生存本能が、私を動かした。

帰宅してそのまま置いていたリュックを背負い、家から転がり出た。


12月30日。年の瀬の事だった。




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