第二話
びりびりと腕がしびれている。
「…痛い」
思わずそう声に出してから、ぼんやりと思った。
私はなぜ今起きたのだろう。起きたということは即ち今まで寝ていたという事である。おかしい。私は今英語のスピーチ原稿を考えていたはずだ。そう、そのはず。なのに。
―――なぜ寝ている自分!?
瞬時に覚醒して時計を見ると7時25分。
9時から始まる生物の授業には十分間に合う。寝坊は免れたらしい。
よくない起き方をしたからだろう、心臓がうるさい。
一旦自分を落ち着かせる為に、深く息を吸った。
パソコンを立ち上げると原稿は完成していた。これで安心して寝てしまったらしい。
英語の授業は午後からだから差支えはない。そもそも英語は苦手ではないから、練習しても30分はかからない。
その前にグループプレゼンの打ち合わせがあるが、気力でなんとか乗り切れるだろう。
お昼を食べる時間があるかは微妙なところだが、一日抜いたところで人間は死なない。よって問題はどこにもない。
ここまで考えが回って、やっと少し落ち着いた。
軽く息をつくと
『――研究をしてみる?』
ふと先輩の声がした。
あの人の声はうるさくて、しつこい位に心に残る。楽しそうで少し雑な笑い声は研究室の端からでも飛びぬけて聞こえた。いつも周りを笑わせて、それ以上に自分が笑っていた。
――やだやだ、ちょっと思い出しちゃった。
もう、ここに先輩はいないのに。気を抜くと頭の中にぽっと出てくる。全く油断ならない。
ちょっと早いけどもう準備しよう。
「よしっ」
立ち上がって思いきり伸びあがる。肩と背中がバキバキとなった。とても19歳の女子大生が出していい音ではないと分かっていたが、仕方がない。こんな状況なのだ。
もう家を出てかれこれ一週間。泊まれる場所があるだけで十分なのである。