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人間観察その3/大輔さん編

11.人間観察その3/大輔さん編



 B型の大輔さんは、ある意味マイペースなのですが、けっこう細かいことにこだわります。

そして私をネコ扱いします。

まあ、ネコなのだから仕方ないと言えば仕方ないのですが、ペット扱いはしないんです。

要するに、大輔さんは私のことを動物だと思っていて、ペットだとは思っていないということなのですが、それってどういうことなの?どこが違うの?と思われるかもしれませんが、大輔さんの中ではペットと動物ははっきり違うみたいです。

まず、大輔さんの言うところのペットですが、カゴや檻に入っているのがペットで、放し飼いにされているのは動物なのだそうです。

しかし、利益をもたらしてくれるのは家畜で、私のように何の利益も生んださないのはただの動物。

一応、家の中に住んでいるので野良ではないから必要に応じて面倒を見ているだけなのだそうです。

でも、私に言わせれば、ちょっと甘いな。

口では格好のいいことを言ってはいても、けっこう私になつこうとしています。

たしかに、私が、ちょっとお行儀の悪いことをしようものなら思いっきり頭を引っ叩きます。

いつだったか私がお昼ご飯のときのさんまの食べかけをつまみ食いしようとテーブルの上に飛び乗って前足でちょこんとさんまをお皿からずらしたところで、仕事から帰ってきた大輔さんと目が合ってしまいました。

大輔さんは大股で一気にテーブルまでの距離を詰めてきたと思ったら、素早い動作で私の頭を引っ叩きました。

はずみで私はテーブルに思いっきりあごを強打してしまいました。

私はびっくりしておじい様とおばあ様の部屋の押し入れへダッシュして逃げ出しましたが、大輔さんはそんな私を追いかけてきて、万年床のおじい様の布団の上の合った枕を押し入れの中の私目がけて投げつけたのです。

まあ、人様の食べ物に手を出した私は、決して良い子ではなかったにしても、普通ここまでやらないでしょう?

桂子さんが見ていたら、「動物虐待だ。」と言って、きっとすごい剣幕で大輔さんをたしなめるでしょう。

しかし大輔さんに言わせると、「しつけだ。」ということになります。

これは、本当に極端な例ですけど、大輔さんは、食事中に私が椅子の飛び乗ったのを目撃しただけでも、すぐに飛んできて私をネコ掴みして放り投げるのです。

私も最近では、目が合った瞬間に身構えるのですが、テーブルの上にあるおいしそうなおかずには未練が残るのでついつい逃げ遅れてしまうのです。

したがって、いつも大輔さんにネコ掴みされたあられもない私の姿が絶えることはこれからもないのでしょう。

しかし、大輔さんが一番怒るのは、つまみ食いをしようとした私ではなくて、お昼の食べ残しを片付けないで大輔さんが仕事から帰ってくる夜までラップも掛けずに置きっ放しにしていることなのです。

 

 大輔さんは、仕事から帰ってくると、いつも、テーブルの上を片付けます。

桂子さんや広子ちゃんが読み散らかした漫画の本やお菓子の袋。

しかし、朝から出しっ放しのキムチや納豆のパック、おそらくお昼の食べ残しであろう、餃子やラー油、醤油などの調味料のたぐい。

これらは、いつもテーブルの端の壁際の方に寄せて片付けられて(たぶん、端に寄せて片付けたつもりになっているのでしょうが、大輔さんに言わせれば、片づけるというのは元あったところに戻すことで、端に寄せただけのものは散らかしっぱなしと同じなのです。)いるものはテーブルの真ん中に戻してひとまとめにします。

そして、自分の席の前は素晴らしくきれいにします。

 これは、出したものは必要なくなったら、きちんと片付けなさいということを訴えているのですが、誰も何と思わないらしく、いつになってもこの状況に変わりはありません。

きっと、この家では1万年後もそうなのだと思います。

大輔さんが家に帰って来た時は、たいてい、おじい様しか家にいません。

桂子さんは彩ちゃんを連れてパチンコ屋さんに行っていることが多いし、おばあ様も、もちろん、いつものように、おじい様が釣り堀に出かけるとすぐに、仕事を辞めてパチンコ屋さんに出かけてしまいます。

広子ちゃんは、スイミングスクールで帰りはいつも9時頃です。

釣り堀に出かけたおじい様は、釣り堀の終了時間の5時になるとまっすぐ家に帰ってきます。

仕事場を覗いておばあ様がいないと、「またか」と呟いて、部屋でテレビのリモコンのスイッチを押して寝転がってしまいます。

夕食時までには、桂子さんかおばあ様のどちらかが帰って来て支度をするか、買って来たものを並べてからまた出かけて行きます。

その時、戻ってくる方が彩ちゃんをおぶってきて大輔さんが帰っていればそのまま置いて行きます。

大輔さんは、食事が終わると、すべての物を片づけてしまいます。

桂子さん達はまた後から使う、また後で食べるかもしれないと思ったものは決して片付けません。

大輔さんはそれがすごく嫌みたいです。

必要になったらその都度出せばいい。

そうする手間はちっとも惜しくない。

そのためにテーブルの上が片付かないことのほうがよっぽど耐えられないようです。

桂子さん達からしてみれば、細かすぎると思うかもしれませんが、きれいになったテーブルは桂子さん達も気持ちいいみたいです。


 そんな大輔さんだからこそ、私のエサもきちんとしてくれます。

これだけは私も大輔さんに感謝しています。

前にもお話ししましたが、大輔さんがエサをくれる時は、必ず新しい器に入れてくれるのです。

ご飯も水も必ず新しい器に入れてくれます。

それから、エサ置き馬の廻りをきれいにしてくれて、新しい新聞紙を敷いてくれます。

缶詰のエサを器に盛った時には、食べやすいようにほぐしてくれます。

但し、与えられたエサを最後まで食べなかったら、他のものをおねだりしても絶対に分けてくれません。

「ちゃんと自分の食べる分を食べなかったら、他のものはやらないんだよ。」と言います。

食べ残したものは、すぐに下げてゴミ箱に捨ててから器をきれいに洗います。

おばあ様は、食べ残しがまだ入っているのに違うものを継ぎ足します。

交換する時は、食べ残しが入った器をそのまま流しに置いて水を張ります。

大輔さんは、この行為がたまらなく我慢できないみたいです。

特に夏場などは、カビが浮かんでいることや虫が湧いていることなどもあり、「こんなところで虫の養殖をしているのは誰だ?」と大声で怒鳴っています。

悲しいかな、その声は誰にも届きません。

何度注意しても変わりません。

きっと一万年先も…

 そして、もう一つ。

大輔さんは、エサ置き場以外のところでは絶対に私にエサや水を与えることはありません。

桂子さんやおばあ様は、台所や居間でも当たりかまわず、エサやミルクの入った器を置いてくれます。

但し、例によってこれらの器も一度置いたら置きっぱなしで片付けません。

「床を水浸しにしたいヤツは誰だ?」

いつもそう怒鳴っている大輔さんの言葉は誰の耳にも入っていません。

そうしているうちに、いつの間にか五つ、六つ…器がエサ置き場の周りにたまっていきます。

挙句の果てには、人のご飯茶わんやコップまでがネコのエサ入れになっています。

「この家では人間はネコのエサ入れで飯を食うのか?」

大輔さんは、いつも、そう嘆いています。


 彩ちゃんが生まれると大輔さんはパチンコを一切しなくなりました。

それまでは、夫婦仲良くパチンコデートをよくしていたようですが、家にいる時は、極力彩ちゃんの面倒をみるように努めています。

彩ちゃんが二歳になると、近くの保育園に預けることになったのですが、大輔さんは仕事の時間が調整できる時などは、4時の保育園のお迎え時間に彩ちゃんを迎えに行くこともよくありました。

誕生日の時などは、彩ちゃんが保育園から帰ってくる前に仕事を抜け出して、部屋の飾り付けをして迎えに行ったりして、それはもう、親バカと言うか、子煩悩と言うか、一週間通して考えると、彩ちゃんと一緒にいる時間は桂子さんより大輔さんの方が多かったかもしれません。

だって、大輔さんが仕事をしている時間は、彩ちゃんも保育園に行っているし、夜は桂子さんはパチンコ、土・日もパチンコなのですから。

そうやって愛情を注いで可愛がった彩ちゃんは、大きくなったらそんなことすっかり忘れてしまっているに違いないのに。

大輔さんは、桂子さんに一か月4万円のお小遣いを貰っていましたが、この頃は夜お酒を飲んで帰ることもほとんどなかったので、お小遣いの使い道はもっぱら彩ちゃんのおもちゃ代に費やしていました。

彩ちゃんがんだ赤ちゃんのころは、定番のシンバルを叩きながら宙返りをするお猿さんだとか、またがって乗れるようになっているハンドル付きの新幹線。

少し大きくなってくると、テレビでやっているヒーローもののキャラクターグッズや合体ロボ。

新商品が出るたびに買い与えていました。

というより、自分が欲しかったのかもしれません。

大輔さんが子供のころは、おもちゃなど誕生日やクリスマスでさえ買ってもらえなかったそうです。

乗り物が変形してロボットになるものや、いくつかのロボットが合体して大きな一つのロボットになるものなどは、夢中で組み立て方などを研究しています。

取扱説明書を睨みながら「ほぉ〜」とか「なるほど」とか「すげぇ!」とかわめきながらなんだかとても楽しそうです。

「へぇ〜、今時のおもちゃはすごいなあ。俺が小さい頃はマジンガーZの超合金ロボが欲しくてたまらなかったけど、こんな機能はなかったもんなあ。せいぜいロケットパンチで腕が飛ぶくらいで…もっとも、買ってもらったわけじゃないから本当のところはわからないけれど…」

「あなたが遊んでどうするの?」

「俺がやり方覚えないと彩に教えられないだろう?彩は説明書読めないんだから。」

「そういう問題じゃなくて、彩にはまだそういうの早すぎるんじゃない?」

「なに言ってるんだ。ほら見てみろよ。こんなに喜んでいるじゃないか。」

彩ちゃんは、大輔さんが買ってきたばかりのおもちゃを手に取って嬉しそうに遊んでいます。

「別になんだっていいんじゃないの?」

「いいや、こいつが欲しかったんだ。なぁ、た・く・み。」

「そう。まあ、いいけど、給料前にお小遣い足りなくなっても知らないわよ。」

「えっ?今日は何日だっけ?」

「まだ10日よ。給料日まで半月あるんですからね!」

桂子さんにそう言われて、財布の中を覗きこんだ大輔さんの顔が急に暗くなってきました。

「まずいな!こりゃあ、日曜日のレースでちょっと稼がないとけないなあ。」

「お好きにどうぞ。」

桂子さんは、洗い物が片付くと、お茶を二人分入れてテーブルに置き、大輔さんに声をかけました。

「お茶入れたわよ。」

「ああ、ありがとう。」

大輔さんは彩ちゃんにおもちゃを手渡し、テーブルの方へきて腰掛けました。

お茶を一口すすって、スポーツ新聞を手に取ると、競馬欄を広げて週末行われるレースの出走予定馬をチェックし始めました。

そんな大輔さんをチラッと見た桂子さんは、クスッと笑って「当たればいいね。」とだけ言って彩ちゃんの方に目を移しました。

彩ちゃんは、彩ちゃんなりに、色々いじって変形ロボを楽しんでいるようでした。

さすがに2歳にもなると少しは成長するものですね。

私は2歳と7カ月。

人間に例えると30歳くらい。

まさに女盛りなのです。


 さて、大輔さんは一人になるとけっこう私に話しかけてきます。

みんながいる時はまるで無視しているかのようですが、一人になるとよく話しかけます。

単なる独りごとなのかもしれないし、そうではないかもしれません。

要は、この家の家族に対して、かなり不満があるようなのです。

面と向かっては言えないことを私に言っているよう秋がします。

例えば、最近よく言うのはこんなことです。

新しくなった家では、南東側の一番日あたりのいい場所におじい様とおばあ様の部屋があります。

この家では洗濯物をこの部屋のバルコニーに干すことが多いのですが、おじい様とおばあ様は万年床で、取り込んだ洗濯物が布団の上の山積みになっています。

大輔さんは休みになると、洗濯物をして、干して、取り込んで…とよく働きます。

「まったく…たまの休みだから遊びたいのは分かるけど、やることやってから遊びに行けよなあ…お前もそう思うだろう?ミーニャ。」

一応、畳んでいるものもあるのですが、下着は下着。TシャツはTシャツ。という風に種分けをしていないので片っ端から積み重ねているため、何がどこにあるのかわからない状態なのです。

だから、お風呂上りに下着を捜そうとすると、結局畳んで重ねている洗濯物をひっくり返す羽目になるのです。

「せっかく畳んだって、こんなところにこんな風に置いていたら、意味ないんだよ。何でタンスに仕舞わないんだろう。なあミーニャ。」

おばあ様はせっかく畳んで置いてあったはずの洗濯物が、遊びに行って帰ってくると見るも無残に散らかっているところを見て「まあ!どうしてこういうことをするのかねぇ?」とまた同じように畳んでは重ねて…を繰り返すのです。

「それじゃあだめなんだよ。なあミーニャ。」

なあ…と言われても…直接おばあ様にそう言ったらいいのではありませんか?大輔さん!

 それから、食器の仕舞い方にもうるさいのですよ。

大輔さんは、大きくて平たいお皿を下にして、段々小さいものや深みがあるものを重ねるように置くのです。

こうしておいておけば割れることがないからです。

ところが、おばあ様や桂子さんは順番など関係なく、手に取ったものから順に重ねて行くものですから深みのあるお皿の上に平らな大きなお皿を乗せて、その上に丼みたいな器を平気で重ねたりするのです。

案の定、数日後に大輔さんが気がつくと、一番下のお皿とその上の平らなお皿は割れてしまっていました。

「なんだ?この家では皿に割れてくれとお願いしているような仕舞い方を平気でするんだなあ…どう思う?ミーニャ。」

だから、直接言った方がいいのでは?

「まあ、お前に言っても仕方ないけどなあ。普通、こんなことはせんだろう。こういう神経が俺には分からんねえ。まったく、この家の女どもは皿を割る名人だな。」

私には何とも言えませんが、多分大輔さんが言っていることは間違ってはいないのでしょうね。

おばあ様が大ざっぱで深く考えることをしない人だということは50年間かけて培われた筋金が入っているのですから、たとえ直接大輔さんが注意したところで、返事した瞬間だけしか頭に残っていないのでしょうね…

三歩歩くと忘れてしまう…皆さんは私たちネコのことをそんな風に言うことがありますが、おばあ様はネコ以下ということんなりますね。

普段は知的で素敵な桂子さんもこのおばあ様に20年以上も育ててもらったのですから行動が似ているのは頷けます。

唯一つ違うのは、桂子さんは洗濯物を畳んだら、ちゃんとタンスにしまいます。


 そして、この休日も大輔さんは朝から前の日の夕食お後片付けから始めて、洗い物をし、洗濯機を回し、朝ごはんの支度をして食べ終わると洗濯物を干します。

干し終わると第2ラウンドの洗濯物を洗濯機に放り込んでから部屋の掃除気をかけます。

もちろん彩ちゃんの様子を見ながらです。

既に、おばあ様と桂子さんは家にいません。

お出かけ?まあ、そうです。

パチンコ屋さんでも一応はお出かけということになるのでしょうね。

「さ〜て、出かけるとするかね?彩君。」

大輔さんはそう言うと彩ちゃんを抱きかかえて、外に出ました。

自転車に据え付けられた子供用の椅子に彩ちゃんを乗せると、颯爽と走りだしていきました。

行ってらっしゃい!当たるといいですね。




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