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1-8 【黒煙の街】

「なるほどな・・・」


昼時から少し時間が経ち、広場に人の姿がチラホラ戻ってくる頃。


タツミとエリスの二人は未だ広場のベンチにいた。


「やっぱりエリスも知らないのか。」


タツミは、成人の儀でウィルフレッドの家の者のみアズリードより語られた『試練』の内容をエリスに話していた。


他の人間と完全に隔離された空間ではなかったので、タツミ達の近くにいた他の人達ならばあるいは聞こえていたかもしれない。

しかしあの時、近くにいたかどうかもわからない上、全て聞き逃すことなく聞けていたのかもわからないので、改めて説明しておくにこしたことはない。


そこで判明したことがあった。


王城の南にある森林地帯。なんてものは王都に住んでいるエリスも知らなかった。


そして、グロリアスモンキーという猿も初めて知ったらしい。


さらにエリスは、よく用事で王都の南方面へと出かけることがあった。というのである。


エリスが言うには王都の南方面には開けた草原になっており、草原を抜ければベイドンという街があり、その先にはまた草原が広がっている。とのことである。


エリスの言うことが真実であるならば、

森林地帯など無い、ということになる。


もちろんここでエリスがタツミに嘘をつくなんてことは考えられない以上、

エリスが森林地帯の存在を知らないことは、元より森林地帯など無かった。と考えるのが妥当である。


いよいよ森林地帯の存在自体が怪しくなってきた。


そもそもエリスの語った王都の南方面の知識はタツミが地図を見て理解していた情報と一致している。


タツミが城で見ていた地図は王城を出て、王都を抜け南に向かえば、草原地帯に入り、ベイドンという街を経由し、再び草原地帯へ、さらにその先は湖となっているはずなのである。



しかし王都のメインストリートにあった、タツミが折れた魔法石の刃を購入した露店の店主は南の森林地帯のことを知っていた風であったのは記憶に新しい。


さらに、タツミが先ほどの食堂で休憩するまで旅の準備で道具を買い足している間にもそれとなく店の人間に聞いて回っていたが、皆、南方の森林地帯のことは知っている様子であった。


「い、一体どういうことなのでしょうか。」


「やっぱり行ってみるしかないか。」


「ですね。」


タツミとエリスは広場を後にし、王都を出ることを決意した。


「ひとまずベイドンを目指しませんか。あそこは王都の南に位置してます。南に進んでいって森林地帯に先に着いてしまうか、ベイドンに先に着くかはわかりませんが、ベイドンまでの道のりなら私が案内できます。」


「そうだな。エリスの知ってる道なら、俺たちの記憶していた地理が、知らない間にどう変わってるのか判断もしやすくなるだろうし。」


タツミはエリスの提案に賛成し、二人はベイドンへと足を向ける。


「今から出れば、その、夕方までには向こうに着くはずです。」


「よし、そうと決まれば善は急げだ。」


すでに二人は広場を出てかなりの距離を歩いている。

そろそろ王都の外れに位置する頃合いである。


「・・・」


タツミはふと、城の方を振り返る。


「やはり、気になりますか。タツミ様。」


「うん・・・やっぱり、ずっと過ごした場所だしな。王都から出れば猿を連れて帰らない限り城に戻っちゃいけないって考えるとちょっと、な。」


明確にどこから内が王都で、どこから先が街の外なのか線引きされているとは思えないが、一体どこまで進めば帰れなくなるのかまったくわからない。


タツミがそんなことを考えながら歩いていると、


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


「!?」


突然大きな地響きが鳴り、王都の端にいるタツミにもわかるほど巨大な石の壁が城の周囲に降り注ぎ、完全に城を包み込んでしまっていた。


「タツミ様・・・?どうかされましたか?」


急に城の方を見て驚いた顔をしているタツミを見て不思議そうな顔をするエリス。


「あれが見えてないのか?」


「あれ、とは?一体何のことでしょうか?」


どうやらエリスには降り注いだ巨大な石の壁によって城が包まれているのが見えていないらしい。。

そして納得した。


「ってことは、あれは」


マーリンの魔法。


おそらくタツミにしか見えない類のものなのだろう。


城に帰れないという条件をわかりやすく視覚に映すための魔法。と、いったところであろうか。


「いや、なんでもない。気のせいみたいだ。」


タツミは振り返るのをやめ、前を向いて歩き出した。


「それなら良いのですけれど。」


エリスは少し心配そうにタツミを見るも、彼の表情がさっきよりも少し晴れやかなのを感じ取り笑顔を取り戻す。


|(少しの間、さよならだ。)










ベイドンまでの道程は、エリスが道案内をしてくれたこともあり、特に何事もなく順調に進むことが出来た。


「やはり、道は私の記憶通りに続いていますね。」


「俺が地図で見て覚えている知識とも大体合ってるな。」


「そろそろベイドンの街が見えてくる頃なんですけど・・・」


エリスはそう言って遠くを見るように目を細める。

タツミもその仕草を見て、同じようにエリスの見ている方向を見てみる。


「「あれは・・・」」


そして二人は同時に異変に気付く。


ベイドンの街がある方向からうっすらと、黒い煙が上がっている。


「急ぎましょう。何か起きているのだと思います。」


「ああ、走るぞ。」


二人は急いで黒い煙の上がっている方向へと向かって走り出す。


段々と煙に近づくにつれて街の全体が見えてくる。


「ベイドンの街です。」


「黒い煙ってことは、何か燃えてるのかもしれない。」


ベイドンの街の後方に木々が生い茂っているのが見える。

おそらくあそこが森林地帯なのであろう、とタツミは予測するが今はそれよりも煙を上げているベイドンの方が先だ。


二人はベイドンに到着し、その景観に絶句する。


「なんて、ひどい・・・」


「何が起きたっていうんだ。」


ベイドンの街は炎に包まれており、そこらかしこに血を流して倒れている人々の姿が見える。


二人は倒れている人に手あたり次第に声をかけ、呼吸の有無を確認していく。


「これは・・・獣爪痕でしょうか。」


エリスが死んでしまった人間に付けられていた傷を見て言う。


「おそらくそうだろうな、とても鋭利な爪と、そして傷の周囲の肉が飛び散って抉れているのを見ると相当の筋力量だぞ。」


「かなり大型の獣ですね。」


「それも二足歩行のできる動物だ。」


タツミは周囲の地面に付いている足跡を見ながら判断する。


「くそっ、とりあえず生きてる人や助けが必要な人を探す。手伝ってくれエリス」


「はい。」


二人がそう言って周囲に目をやると、視界の端で何かが動いたのをタツミとエリスは捉えた。


「何かいます!」


グルルルルル、という喉が鳴る音が聞こえる。

と、同時に白い毛をした巨大な二足の獣。


太い両腕の先には鋭利な爪が付いており、唸り声を発する口からは巨大な牙が見える。

強靭な上半身と、それを支える為の圧倒的な筋肉で覆われた下半身。

巨大なゴリラのような姿をした化け物が雄叫びを上げる。


「グルォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


まだタツミ達との距離はかなり離れているが、それでも空気が振動するのが伝わってくる。


すると、周囲の物陰からぞろぞろと、雄叫びを上げた巨大なゴリラのような獣よりも一回り小さいゴリラ達が姿を現す。

小さい、とは言っても最初に現れたゴリラがかなりの大きさをしているので小さく見えるだけであって、ゆうに2mは超えるであろうサイズではある。


「どうやらこいつらがこの街をこんなにした犯人のようだな。」


タツミは大巾着を腰に巻き、木の棒を構える。


「そのようですね。」


エリスはフードを外し、両手を突き出し、掌で三角形を作った構えを取る。


「そういえばエリス、君は戦えるのか?」


「えっと、戦える、と思います。人並みには。」


少し自信なさげに答えるエリス。


「グォオアアアアアアア」


二人が問答しているところを一匹の小さなゴリラが跳びかかってくる。


「はぁっ!」


エリスは掌の三角形をゴリラに向けると、その三角の中央から小さな風の塊が放たれ、ゴリラの右肩を撃ち抜く。


「ゴァッ、キキキィー」


思わぬ反撃を喰らった小さなゴリラは少し下がって、集団と合流。


今度は連携を計って攻撃してくるつもりであろう。


「ウィンドバレット。風を圧縮して弾状にしたものを、更に風の魔法で放つ技です。」


風の魔法の応用。

おそらく掌に複雑な風の流れを生む術式を施しているのであろう。と、タツミは想像する。


「タツミ様の足を引っ張らない程度には戦いたい、です。」


エリスは不安げに笑って意気込む。


「グルルルアァァァアアアア!」


今度は4匹の小さなゴリラが息を合わせてこちらへ跳びかかってくる。


タツミは、真っ先にこちらへ飛び込んできた一匹の口内に棒先を突き入れ、後に続いてきた他のゴリラへ向かって勢いよく放り投げる。


2、3匹のゴリラが投げられたゴリラにぶつかり、バランスを崩した隙に頭部を思いっきり棒で殴撃。


その隙にタツミとの距離を詰めてきた一匹には左手で腰に指していた木剣を抜き、一閃。


木剣であるので切断することはできないが、それでも大きくゴリラを吹き飛ばした。


「足を引っ張ってくれても構わないんだけどな。」


タツミはそう言って笑う。


「なんたって勇者の子だからな。」


息一つ切らさずに一気に5匹の小さなゴリラを処理したタツミの姿はまるで勇者のようであった。

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