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3-5 【ゴミでも理解できる。誰でも簡単 基礎魔法知識】

「魔法式にこの構築式を編み込むことで消費した魔力がスムーズに循環するのか・・・ふむ。なるほど。」


ハルベリアは自らの得意魔法である魔法式に、今読んでいる本の内容に書かれていた式を組み込んでみる。


流れていく魔力が今までよりも早く魔方陣に満ちていくのが感覚的に理解できる。


ハルベリアが最初に読みはじめたのは『ゴミでも理解できる。誰でも簡単 基礎魔法知識』


日々、本の返却作業をこなしているハルベリアが、シュルリアから渡してもらった本の中から最初にその本を選んだのには特にこれと言った理由は無かった。


強いて挙げるとするならば、渡された本の一番上にあったこと、そして何となく見慣れたタイトルであったことくらいであろう。


もしかしたら基礎の魔法を発展する為の魔法について書かれているこの本の中に何かしら役に立つ知識が載っているかもしれない。


魔力の質には個人差があり、発動できる魔法にも限りはあるが知識として持っているだけでも何かの役に立つことはある。


ハルベリアはそう信じて、本に書かれている内容を一字一句逃さない気概で読み耽る。


「魔力はまず、火・風・水・土の四大魔素に分類され、それぞれが異なる性質を持っている。

個人が扱える魔力の質は血液に含まれる四大魔素の割合によって産まれた時にほぼ決定しているとされている。

火と水、風と土の魔素は互いに打ち消し合う性質を持っており、簡単に説明すると、仮に50の火の魔素を血液中に含んでいる人間が同時に50の水の魔素を血液中に含んでいたとしたら、その個人が扱える火と水の魔力は0になる。

火の魔素を50、水の魔素を30血液中に含んでいるとすれば、その個人が扱える水の魔力は0だが火の魔力は20となる。

仮に火40、水20、風30、土0の魔素を血液中に含んだ個人が存在したとすれば、その魔力の出力は火20、水0、風30、土0となるのが最近の研究で分かっている。

もちろん例外も存在しているが、風の魔力が得意だと思っていたが詳しく検査を受けてみれば魔素的には火の方が多かったりすることもあるので一度は専門の機関で血液検査することを著者としては薦める。」


最初の導入部分からいきなり未知の情報に触れる。


『基礎魔法知識』という名目で書かれている本ではあるが、ハルベリアが今まで知らなかった魔力の仕組みがそこにはあった。


幼少の頃から、父や兄弟、屋敷お抱えの先生から教わるのは魔力の使い方や魔方陣の描き方、簡単な座学くらいであり、この様に魔力の仕組み自体を教わることなど無かった。


この国の騎士団長の娘であるハルベリアですら教わってこなかった知識である、おそらく同年代の人間のほとんどが、いや、もしかしたら同年代に限らず殆どの人が知らないのではないかと思う情報を『基礎』と呼び、説明している本の著者の名にハルベリアは目を通す。


シズク とだけ書かれた著名を見て、この知識を『基礎』と呼ぶ作者に敬意を抱く。


座学は特段得意という訳でも無かったが、疎かにしていたことはなく、むしろ父やお抱えの先生からは女性なのが勿体ないと評される程度には修めていたつもりである。


そんな彼女が今までまったく聞いたことも無かった知識を得、自然と笑みを浮かべる。


『最近の研究で分かっている』と書かれている通り、判明したのが最近のことだとしても、一度知識欲に駆られたハルベリアのページをめくる手は止まらない。


「また、打消し合わない魔素同士を組み合わせることで別の性質を持った魔素として扱うことができる個体も存在する。

火と風の魔素を組み合わせることで発生するのが雷の魔素であり、火と土の魔素で発生するのが金の魔素と呼ばれている。

同様に水と風を合わせることで発生するのが氷の魔素であり、水と土で発生するのが木の魔素と呼ばれている。」


      火

     / \

   雷  ↓  金

  /       \

 風→ 打ち消し合う ←土

  \       /

   氷  ↑  木

     \ /

      水


この組み合わせの知識はハルベリアも知っている。


もちろん、火と風の魔法が得意だからと言って誰もが雷の魔法を使える訳でもないというのは教えられたこともあるし、経験として知っている。


そして魔力の質によって組み合わせることが出来る人間と出来ない人間がいることも知識として知っていた。


「組み合わせることで別の魔素を発生させることができる個体の場合、先程の魔素の量の例を挙げるとするなら火を50、風の魔素を50含んだ血液の場合、雷の魔素を50発生することができる。

火が50、風が30だとすれば発生できる雷の魔素の量は30となる。

あくまでも混ぜ合わせることができる量によって発生量が決まるので、少ない方の魔素の量がそのままその個体の雷の魔素出力となる。」


これは何となく知っていたが、詳しくは理解していなかった情報である。


「しかしこの組み合わせには、先程説明した魔素同士の打消し合いは発生しない。

つまり簡単に説明すると、火と水と風と土の魔素をそれぞれ20ずつ血液中に含んでいる個体がいると仮定した場合、その個体が発生できる火、水、風、土の魔力は0になる訳だが、雷、金、木、氷の魔力は20ずつ扱えるということである。

火の魔力は使えるが得意ではなく、風も得意と言うほど使える訳でも無いのに、雷の魔法だけはなぜか得意などという個体も見かけることがあるが、そのような個体はよく調べてみれば火30、風30、水25、土15という魔素比率だったりする。」


「30や50等という数字を例として挙げたのは計算をしやすくし、説明を理解しやすくするために簡単な数字にしただけであり、実際に人間が持っている魔素の量の平均値は10程度であることは留意して頂きたい。

一つの魔素を30や40も含んでいる人間なんてそうそう巡り合えるものではなく、ましてや複数の四大魔素を持っている人間なんてのも稀であり、四大魔素の中でも3つや4つ持っている人間はまさしくそれだけで一種の才能であるとも言える。」


雷や氷の魔法を扱える人間が少ない理由にも、ハルベリアはなんとなく合点がいった。


「先に説明した四大魔素に、後から説明した雷・金・木・氷の四つの魔素を含めて基幹八素と呼ばれている八種類の魔素を使って我々は魔力を行使している。

魔力の質と魔方式の関係を簡単に説明するとすれば、個体によって異なる魔素比率で構成されているその魔力の質は、例えるとするならば人によって様々な形をしている積み木のようなものであり、我々はそれを魔方式という穴を通して体の中から外へと排出し、魔力を放つ。

魔方式という穴は簡単であればあるほど大きい穴となることが多く、魔力という積み木がどのような形をしていても通ることができる、つまりは発動することができる。

魔方式に条件を付与すればするほど、その穴は小さく歪になっていく傾向にある。

つまりは直径が1cmの円状の穴に一辺が一cmの立方体の積み木は通らないように、自分の魔力の質(積み木の形)に合った魔方式(穴)を作成する必要がある。

同じ魔法を使う場合でも人によって構築する魔方式が異なっている理由はここにある。

もちろん、あくまでもイメージの話であるので厳密にいえば異なることもあるのだが、この本ではそれについてこれ以上詳しく書くことは題字から離れた蛇足となる為やめておくことにする。」


時が経つのも忘れハルベリアはさらにページをめくる。


「魔法があまり得意でない人はこの積み木の形が大きい人の場合が多い。

複雑な魔法になればなるほど、自分の魔力の形に合った形の魔方式でしか魔法を発動できない。

逆に魔法が得意な人はこの積み木の形が小さい人が多い。

さて、ここまで基幹八素を説明した訳だが、魔素としてはこの八種類のみであるが、出力される魔力としては後二つ程、種類が増えることも説明しておく必要がある。

それが光と闇の魔力である。この魔力は特別であり、どのような魔素構成を持つ個体であったとしても持っている可能性のある魔力である。

もちろん、持っていない人の方が圧倒的に多い訳であるが。

先程の積み木のイメージで例えるのであれば、光と闇の魔力というのは積み木に色が着いているようなものだと考えるのが理解しやすい。

そしてこの光と闇の魔力は未だ解明されていないことが多く、イメージとしてとらえるのであれば積み木の色の明度が明るければ光の魔力であり、色の明度が暗ければ闇の魔力であるといった曖昧な定義しかされていない。

明るい赤色の積み木であれば光の魔力であるし、暗い赤色の積み木であれば闇の魔力である、といった程度に曖昧であるのでこの定義にはさらなる研究が待たれる。

もちろん赤もあれば青も黄色もあり、それぞれ持つ特性も違うのだが圧倒的個体数の少なさからか、あまり研究は進んでおらず、血統で遺伝しやすいということくらいしかわかっていないのが現状である。

勇者として有名なウィルフレッド氏やその一族、五大名家と呼ばれるスノーダム一族等は多くが光の魔力を有しているとされており、一方で闇の魔力を同じく五大名家のツァンドル一族やフェゴストラトス一族、王国最高の魔法使いであるマーリン氏等が有しているとされている。

しかし、殆どの人間の積み木には色が着いておらず、仮に色が着いていたとしてもその効果は色によって様々であるので気にしても仕方ない、くらいに考えていても一般生活には特に問題ないだろう。

そして魔法式を組み合わせて作るのが魔方陣であり、これは穴から出た積み木を組み上げる工程をイメージするのがわかりやすいと思う。

組み上げた積み木を一つの形にしたもの、それが魔法である---」


「すいません。ここよろしいでしょうか。」


そこまで本を夢中で読んでいたハルベリアだが、不意に声をかけられたハルベリアは我に返る。


爽やかそうな男性がハルベリアの隣の席を指しているのに気付き、彼女は自分が持ってきた本の山を整頓することでスペースを作り、どうぞと答える。


読書スペースは個人のものでなく使用する皆のものである。


出来る限り場所を取らないでおくのがマナーであるが、それにしても流石はこの国で一番の蔵書量を誇る図書館である。


よくよく周囲を観察してみれば次から次へと人がやってきては去っていき、せわしなく動き続けている。


一日にあれだけの本の返却量があるのだから、人の数も相当なものである。


「・・・む?」


本を探して本棚を歩いている人たちを何となく眺めていると、妙な違和感を感じたハルベリアであったが、少し思案しても特におかしいことには思い至らず再び『ゴミでも理解できる。誰でも簡単 基礎魔法知識』に目線を落とすのであった。

















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