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モノローグ ~王立図書館『ミレニアム』~

「ゴミでも理解できる。・・・・だからえーっと、ご、ご、ご」


綺麗に整頓された本棚の中から、目当てのタイトルを見つけると、その場所へ『ゴミでも理解できる。誰でも簡単初級魔術』と書かれた本を置く。


「次はえーっと 『ゴミでも理解できる。誰でも簡単召喚魔法』か。」


今度の場所は手を伸ばしても届きそうにない場所にあった為、脚立を使って目的の場所へと本を返却する。


「思ったよりも重労働だな。」


今日だけですでに数百冊程、本の返却作業をしているタツミ・ウィルフレッドは、まだまだ山のように積まれている要返却の本の山を前に呟く。


「とりあえずこの山を片付けたら一休みでもするか。」


タツミはそう言って、山の一番上の本のタイトルを確認する。


「ゴミでも理解できる。誰でも簡単料理レシピ・・・・ね。」


タイトルがやたらと挑発的なのはこの本の著者の拘りなのだろうか。


先程から返還する本のタイトルの多くに『ゴミでも理解できる。』と書いてあり、よくよく見るとサブタイトルには『これで理解できなきゃお前はゴミ以下』なんて文章が綴られている。


「本の内容に余程の自信があるのか、それともただ単に口が悪いだけなのか・・・」


タツミは著者の名前を確認する。


『著・シズク』とだけ書かれているその本を開いてみるが、著者近影のような絵も乗っていなければその人の人となりが理解できる前書き、後書きの様な文章も存在していない。


今度時間のある時にでも読んでみようかな。ゴミでも理解できるシリーズ。


なんてことを考えながら本を棚に返還していると、脚立の下から声がかけられる。


「タツミ様、私達の分を終えたのでお手伝いします。」


そう声をかけてきたのは猫の亜人であるエリス・シアンブル。


その背後には金髪の長髪を後ろで纏めて作業しやすい装いをしているリオネル・ハルベリアも一緒にいた。


「おぅ、助かる。」


「この作業を終えたら一緒にお昼にしてはどうでしょう。そろそろ良い時間です。」


ハルベリアがそう言いながら脚立の上のタツミに、未返却の本の山の中から『ゴミでも理解できる』シリーズの本を手渡す。


「俺も、この山を片付けたら一休みしようと思ってたところだ。」


タツミはハルベリアの意見に同意する。


「じゃぁ尚更、早めに済ませしょう。」


エリスが両手を胸の前に小さくガッツポーズを取って気合を入れる。


「なんだ、そんなにお腹が減ってるのか。」


「ち、違いますよ。ずっと怪我で治療を受けてましたので・・・その、久しぶりにお昼を一緒に過ごせると思って・・・その・・・別にお腹が空いてるとか食い意地が張ってる訳では・・・ない・・・です。」


顔を赤くして否定するエリスに、ハルベリアと共に笑いながらもタツミは本の返却を続ける。





数時間前、魔人ベンゼエルマとの死闘から数日が経ち、エリア教のシムスやルーク達に意識が戻り、街を復興させる当面の目途が立ったことで王都へと帰還したタツミ、エリス、ハルベリアの三人はそこで其々の右手の甲に魔法陣で印を付けられると同時に、マーリンから正式に『懲罰委員会』へと任命された。


「この印が『懲罰委員会』の一員であることの証になる。この魔法陣は、普段は見えないようになっているのだが、人差し指、中指、薬指の三本を使って二回ずつ連続で手の甲に触れると」


マーリンはそう言って自分の手の甲を、人差し指、中指、薬指を使い、二回ずつ連続で触れる。


するとマーリンの手の甲に、タツミ達の手の甲に付けられた魔法陣と同じ印が浮かび上がる。


「こうやって浮かび上がるようになっている。」


浮かび上がった魔法陣には、簡単な国旗と、ユグドーラ王家の紋が描かれているが、目を凝らしてよく見ると、その模様は魔法陣の表層だけにしか無く、更に奥の方に幾重もの複雑な式が絡み合って構成されているようであったが、タツミではその奥の方に存在する幾重もの複雑な式がどのようなものかを判断するには知識量が足りてなかったようである。


(まったくわからん。)


考えが顔にでも表れていたのだろうか、そんなタツミにマーリンが声をかける。


「んー、少年。安心したまえ、この魔法陣はちょっとやそっとじゃ複製できないような厳重なプロテクトをかけてある。おいそれと懲罰委員会を名乗る者が出ないようにする為にね。 まぁ懲罰委員会の知名度はそれほど高いものじゃないから、そこまで心配するほどのものでも無いんだけどね。だから少年がこの魔法陣を見て理解できなくったって何も問題は無いのさ。」


「・・・なるほど。」


「私が少年少女達に覚えておいて欲しいのは、これは相手に見せて自分の権威を示す為のものでは無いってことだ。」


「どういうことでしょうか。」


ハルベリアがマーリンへと問い返す。


「さっきも言った通り、懲罰委員会の知名度はそれほど高いものじゃない。むしろ知名度が高いと仕事がやりにくいのさ、その性質上ね。だからこの印を相手に見せて『懲罰委員会』を名乗ったとしても相手に理解されない場合の方が多いだろう。じゃあ何の為の印なのか、と言うと。これは同じ懲罰委員会の人の為の印なのさ。」


マーリンはそう言うと印を浮かび上がらせたまま、同じく印の浮かび上がったタツミの右腕を取る。


「基本的に正式な立場を隠して動いている私達が、お互いに敵対しない為の印。それがこの印だと思ってくれたまえ。」


「同士討ちを避けるって訳ですか。」


エリスが答える。


「身分を隠して行動するんだ、仲間同士の目印が無いと変な誤解を生むこともある。ちなみに左の掌を魔法陣に被せるように乗せれば印はまた見えなくなる。」


マーリンはそう言って自らの左手を、タツミの手を握ったままの右手に翳す。


するとマーリンの手の甲の魔法陣は見えなくなった。


「おぉ」


タツミは自らの右手の印に左手を翳し、自分の印も見えなくなることを確認する。


「ちなみにこの魔法陣はとてもよく出来ていてね。素晴らしい能力が備わっているんだ。」


マーリンは、タツミの手を持ったまま自らの右の手の甲に、左手で魔法陣を描く。


「今私が自分の右手の甲に描いたのは、さっき少年少女に描いた魔法陣とよく似た偽物だ。だが君たちでは見分けが付かない程度には似ているはずだ。」


その魔法陣はタツミ達の手の甲に描かれた魔法陣とほとんど同じような構成であり、タツミが見ただけでは全く判別できないほど精巧に描かれてた。


エリス、ハルベリアの二人も自分の手の甲に描かれた魔法陣と、マーリンのを見比べるも、どこが違うのか全く分からないような顔をしている。


「この印はね、少年。もう一度印を出してごらん。」


マーリンに言われるがまま、タツミが左手を使って右手の甲の魔法陣を起動したその瞬間。


パァン!


タツミの右腕を握っていたマーリンの右腕が不思議な力で弾かれた。


痛みは無く、ただ強力な反発し合う磁石の面同士を向き合わせたかのように一瞬であった。


「偽物を弾くようになっている。厳密に言えばこの魔法陣を浮かべている状態で、少年少女はこの魔法陣以外の別の構成をしている魔法陣に右手では触れない。まぁ滅多に現れないだろうが偽物を見分ける時に使う場面よりも、戦闘中に右手で魔法陣を描いた武器や道具、防具等に触らないように気を付けることの方が多いだろうから、これには気を付けるように。」


(素晴らしい能力って言う割には逆に不便なような・・・)


笑顔のマーリンを前に、タツミがそんなことを思っていると、やはりそれが表情に出ているのか、それとも目の前のマーリンが心を読む能力でもあるのか、タツミに話しかける。


「はっはっは、少年。安心したまえ。この私が素晴らしい能力と言うんだ。今のはほんのオマケだ。本命の能力はこっちさ。」


そう言って、マーリンは右手の本当の魔法陣の印を起動させ、そこへ左手の人差し指と中指、そして薬指を同時に当てて話す。


『どうだい?少年少女達。』


驚くべきことに、マーリンの声が自分の右手、つまりは懲罰委員会の印である魔法陣から聞こえてくる。


「「「 ! ? 」」」


『遠くにいる人間とは話せないが、ある程度の距離であれば離れていてもこの魔法陣を通じて話ができる、云わば簡易の通信魔法のようなことができる。やり方は印に左手の人差し指と中指、薬指を同時に当てるだけ。魔力は君たち自身のものを消費するけどね。どうかな?』


マーリンはタツミ達の反応を待つまでもなく、すでにしたり顔を見せている。


「すごいです・・これ。」


「意思の疎通が便利になります。」


エリスやハルベリアが、マーリンの見せた魔法陣の効果に感嘆の意を示しているが、タツミも驚きを隠せない程に驚愕していた。


『まぁこれの基本的な使い方は今教えた通りさ、後は各々自分で試してくれたまえ。』


マーリンはそう言うと、自らの左手で右手の甲に触れ、印を隠す。


タツミ達もそれを見て、各々自らの右手の印を隠す。


「さて、これで少年少女達は晴れて懲罰委員会の仲間入りを果たした訳になるのだけれども、表向きの立場というものが必要になってくるね。ふむ・・・」


マーリンはそう言うと思案する様子を見せる。


「何か要望はあるかな? とは言っても私が用意できる表向きの職業にも限りがあるのだけれども。」


「もしも・・・希望できるのなら・・・」


マーリンの問いかけに、タツミは病院の地下の石部屋で、魔人ベンゼエルマと父親であるアズリード・ウィルフレッドとの戦いを脳裏に思い浮かべながら答える。


「表向きの仕事を熟しながらでも自分の能力を伸ばせるような、もっと強くなれるような、そんな職業ってありますか?」


「ふむ・・・なるほど。」


マーリンは心で思った事すら見透かすかのような目で、タツミをジッと見つめる。


「漠然とした希望だが・・・・そういうことなら、うん、一旦あそこに所属させよう。」


マーリンは同時にエリスとハルベリアの二人へと目線を移す。


「君たちもタツミ少年と同じで良いかな?」


「はい。」


「お願いします。」


「良い返事だ。では、ついておいで」


エリスとハルベリアの返事を聞いてからすぐに歩き出し、ものの数分としないウチに、タツミ達は王城の近くに聳える大きな建物へと案内された。


「ここは・・・?」


高さだけなら王城内の一番高い建物と同じくらいの高さもあるその巨大な建物を見上げながらタツミは問いかける。


「私が最高顧問を務める王国魔導機関が所有する、この王都最大にしてこの国で最多数の本の貯蔵数を誇る王立図書館『ミレニアム』さ。」


マーリンはそう言うと、くるりと向きを変え、そこで足を止める。


「どうかしましたか?」


エリスが足を止めてしまったマーリンに問いかける。


「ここまで君たちを案内している間にすでに話は通しておいた。ここの責任者の名前は教えてあげるから、ここからは自分で話をするんだ、いいね?」


たった数分の、しかも一緒にここまで歩いていた間にすでに話は通してあると言われても、マーリンが相手である以上、不可能な話ではないが、流石にタツミもこれには驚いた。


「えっと・・・え!?」


「マルコルイス・ティアドロップ。このミレニアムの責任者の名前だ。さぁ、少年少女達、幸運を祈る。」


一方的に会話を切り上げるような形でマーリンは再び来た道を歩いて消えていった。


「どうしましょうか・・・?」


「行ってみるしかない・・・よな?」


「・・・ですね。」








と、不安な気持ちでミレニアムへと入って行ったタツミ達ではあったが、受付の女性にマーリンの紹介で来たことと、マルコルイス・ティアドロップという人物の名前を出せば案外すんなりと、目的の人物の元へと連れて行ってくれた。


案内された先でミレニアムの責任者であるマルコルイス・ティアドロップを名乗る男性と軽い挨拶を交わし、この場所へ来た経緯を話すと「ちっ」と一瞬舌打ちをしたような様子を見せ明らかに嫌そうな表情を見せるも、「じゃあとりあえず昨日返却された本でも本棚に戻してもらおうかな」なんてことを言われ、今に至る。


最初にタツミ達三人の目の前に置かれた返却の本の量は、流石は王都最大にして最多数の本の貯蔵量を誇る図書館なだけあって、まるで山のように積み上げられていた。


一人だと間違いなく一日では終わらないであろう量。


タツミ達はそれを三人で分担して作業し、何とか終わりが見えてきたキリの良い状況で、昼休憩にしようとしていた。


「ふぅ、とりあえず一旦 昼にするか。」


タツミは脚立から降りてエリスとハルベリアに言う。


「では私がマルコルイス氏に昼休憩の旨を伝えて参ります。」


「いや、俺も行くよ。まだ全然あの人と喋ってないし、もしかしたらあの人がどんな人なのか理解できるきっかけになるかもしれないし」


「そうですね。皆で行きましょう。」


三人はそんな会話を交わしつつ、最初に受付の人に案内してもらったマルコルイスの部屋へと向かった。


コンコンッ


受付の人がやっていたのと同じようにノックを二回。


すると先程と同じように「どうぞ」と声が返って来たので、タツミ達は「失礼します。」と言いながら部屋へと入る。


「おや・・・?あぁそうだった、今日から新しく入った子達だったね。どうだったかな、頼んだ仕事は?」


にこやかな笑顔を向け、マルコルイスは三人に微笑む。


初対面の時に見せた舌打ちしながらの嫌そうな顔がまるで嘘のように、自然に優しい笑顔を向けるマルコルイスにタツミ達も安堵して答える。


「はい、キリの良いところまで進んだので今から昼休憩にしようと思っています。あと少しで終わりそうです。」


「・・・え?」


タツミの答えを聞き、マルコルイスは最初に見せたのと同じような嫌そうな顔を三人に向ける。


「ちょっと待ってちょっと待って・・・えっと・・・終わってないの?・・・もしかして。」


流石に初めて入った図書館の、それも膨大な数の本を三人で分担しているとはいえ、普通にやっていて終わるはずは無い。


本のジャンルや名前によって順に整列されている通りに戻していく作業を、今まで中に入ったことも無かった人間がおいそれとすぐに終わらせることのできる量では無いのは明らかである。


むしろ、普通よりは早い方だとすらタツミ達は考えていた程である。


にも関わらず、マルコルイスはすごく嫌そうな顔をしており


「あーそっかー なるほどー。こういうアレかー。 うーん。」


などとボソボソと一人で呟いている。



「タツミ様・・・えっと・・・どうしましょう?」


横にいるエリスがタツミの顔を見上げて問いかける。


「・・・わからん。」





マーリンに案内された図書館『ミレニアム』で、タツミ達は早速困るのであった。





一週間休憩をいただきました。

また、週刊くらいのペースで書いていければと思いますので、よろしくお願い致します。


今回はお試しで、予約掲載設定というものを使ってみました。

いつもは仕事から帰ってから、文章を書き始めて、原稿が完成次第投稿しているので、更新が夜になることが多かったのですが、昼の方が良いよー。とアドバイスを頂いたのでやってみた次第です。


上手く反映されるかな・・・?

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