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2-29 【魔人を倒す為のシナリオ】

タツミの高速の動きにリリスが反応を見せ、長棒で繰り出される無数の突きを魔力を纏った素手で逸らし、躱していく。


(俺の身体強化で動く速度にしっかり付いてくる・・・。)


リリスはタツミの攻撃を全て避けきっている訳では無い。


小技をバラまき相手の体勢を崩しつつ、致命傷となり得る一撃を叩き込む近接戦闘の基本を繰り出すタツミ。


対するリリスはタツミの戦闘に合わせて、受けても問題の無いような小技を数発受けながらも、致命傷となり得る一撃は全て回避するスタイルを取っている。


更に、それに合わせたカウンターをも繰り出してきており、逆に一撃でタツミを沈めるチャンスを伺っているようにも見える。


それを可能にするのは、ルーナによって蘇ったリリスが持つ不死性。


そして生前、武道家として全国を回って身に付けた圧倒的経験値だろう。


『この一撃をもらってはマズい』という攻撃を的確に捌き効果的にカウンターを狙って来るリリスの戦法に、タツミは大振り、つまり致命的なダメージを与える為の一撃を繰り出せずにいた。


「ちぃっ・・・」


威力のある攻撃というのは基本的に、それを出す為の予備動作が長くなる。


その予備動作に合わせて繰り出されるカウンターの威力も、タツミの身体強化の魔法が無ければ一撃で内臓が破裂してもおかしくない程の威力。


更に先程見せられた五連蛇柱のこともあるので、必然的にタツミは段々と繰り出す大振りの技の数が減っていく。


すると今度は、小技のみしか出してこないようになったタツミに対して、リリスがその不死性を活かし段々と攻める機会が増えてくる。


「元気が良かったのは最初だけかしら?」


リリスが放つ拳を紙一重で躱すが、段々とリリスの攻撃によって壁の角の方へと追い詰められていくタツミ。


完全に壁の方へと追い込まれてしまえば、壁に退路を断たれリリスの五連蛇柱を躱すことは殆ど不可能。


リリスはそれを狙って、魔力消費量の多い五連蛇柱を確実にタツミに合わせるつもりなのだろう。


だが、タツミの狙いもまた、壁を利用することにあった。


ドンッ!!


腕を顔の前で壁の様に展開しながら、タツミはリリスに渾身の当て身を行う。


「!?」


リリスの攻撃を受けることを厭わずに行われたそのタックルに、リリスの反応も少し遅れ、リリスの体勢が大きく崩れてしまう。


「はぁぁぁぁぁぁ!」


そこへタツミは長棒による渾身の突きを放ち、咄嗟に庇ったリリスの左腕を吹き飛ばした。


「まだまだぁああああああ!」


その左腕が再生するよりも早くタツミは追撃。


片腕のリリスの首へ長棒の柄を当て、そのまま全力でリリスの身体ごと放り投げる。


ゴンッッッ!!


身体強化され、大きな力を込めて放り投げられたリリスは、まるで打ち出された大砲のような速度で吹き飛び、部屋の角付近から、反対側の角の壁へとリリスを叩き付ける結果となった。


しかしまだタツミの追撃は終わらない。


(ここが正念場っ!)


「はあああああああああああ!!」


タツミは、全力の一撃を放つ為に大きく振りかぶって跳躍。


「残念ね。」


吹き飛ばされ、壁に叩き付けられているリリスが声を放つ。


「私、片腕でも魔法陣を描く速度は落ちないの。」


壁に叩き付けられ、かなりのダメージを負っているはずのリリスの前に展開される五つの魔法陣。


右腕一本で書き上げたそれは輝きを放ち、直ぐに発動することを示している。


「腕を一本飛ばしたくらいで描ける魔法陣の数が減ったと思った? なんなら足でも描けるわよ?」


五匹の大蛇がタツミ目掛け、その巨大な顎を開きながら襲い掛かかる。


五連蛇柱(メイルシュトローム)!!」


先程も書いた通り、肉弾戦において、強力な一撃を放つ為には必要な予備動作が増えてしまう。


体勢を崩し、部屋の角まで吹き飛ばしたリリスへと大威力の攻撃を行おうと空中で跳躍中のタツミは、まさにその予備動作の最中であり、そして空中であるが故にタツミは避けることも躱すことも不可能。


千載一遇の機会。と、リリスに追撃を行ったタツミは、逆にリリスが確実にタツミに五連蛇柱を当てる為の状況を作ってしまう。


「バイバイ。威勢のいい坊や。」


放たれた五匹の大蛇がタツミ目掛け、その大顎による一撃を与えようとしたその瞬間、タツミは振りかぶっていた長棒を横の壁へと振りかぶった勢いそのままに突き刺す。


(あんた程の武闘家ならこの隙を逃さずに打ってくると、そう信じてたぜ!)


壁に突き刺した長棒を足場に、タツミは更に渾身の跳躍を行う。


自らの意思で対象を追いかける五匹の大蛇でも、流石に高速で動きの向きを変えたタツミを追尾できずにそのまま、緩やかなアーチを描きながら石造りの壁へとぶつかり、破壊する。


「なっ・・・!?」


驚いた表情を浮かべ、五連蛇柱によって魔力を使い果たし、動きが鈍くなったリリスとは対照的に、タツミは跳躍の速度のまま懐から短剣を取り出し、リリスの胸へと突き刺す。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


突き刺した短剣に更に力を込め、リリスを壁へと押し込み、貫いた短剣で釘の様に打ち付けたような形になる。


「母様!」


そんなリリスの姿を見たルーナが叫び声をあげ、リリスの方へと走って向かってくる。


「来ちゃダメ!! ルーナ!!」


大声で叫ぶリリスを背に、タツミはルーナへと視線を移す。


「あっ・・・」


タツミの視線に気圧され、ルーナは足を止める。


「やめて、坊や・・・あの子は・・・あの子だけは・・・」


リリスがルーナを庇おうと足掻くが、魔力を使い果たし再生すらしなくなったリリスが胸に深々と刺さり、壁に打ち付けられた短剣を抜くことができず動けない。


「あぁ・・・」


ルーナの脳裏に浮かぶトラウマ。


眼前に広がるあの夜のような景色に、ルーナは長杖を床に落とし頭を抱える。


「母様・・・・母様・・・」


「安心しろ。」


そんなルーナの頭に、タツミは優しく手を置く。


「これ以上攻撃してこないならお前の母親を攻撃するつもりもないし、抵抗しないのならルーナを痛めつけるようなこともしない。」


「・・・!」


「知らない仲じゃないんだ。言い訳だって、理由だって全部聞いてやる。それで納得できたなら、俺が上に掛け合って減刑だって乞うてやる。お前の兄ちゃん達にだって一緒に謝ってやる。」


タツミの一言で安心したのか、ルーナは膝から崩れ落ち、リリスは胸の短剣を抜こうと抵抗しているのをやめる。


「タツミ・・・」


パチパチパチパチ


戦闘がひと段落し、静寂の訪れた石造りの部屋に拍手音が響く。


「いやぁーこれはこれは、まさか目の前でこんな感動劇が見られるとは。」


拍手の主、白衣の男ベンゼエルマが祭壇の上からこちらを見下ろし、高らかに笑う。


「まさかこれでハッピーエンドだと思ってませんよね。タツミさん・・・でしたか?」


「もちろん、アンタを倒してハッピーエンドだ。そうだろ?」


「ははっ、感動劇だと思えば喜劇でしたか。私を倒す?貴方が?その状況で?」


短剣はリリスの胸に、長棒は足場にする為の壁に刺さっており、タツミは今、手元に武器を持っていない。


併せて先程までのリリスとの戦闘で負ったダメージも軽いものではない。


ルーナとリリスは恐らく、もう抵抗はしないであろうが、戦力として見込めるハルベリアもまだ満足に動ける状態では無いだろう。


確かに、現状だけを見ればまだ未知数の力を持っているベンゼエルマとこのまま戦うのは無謀とも言える行為。


「そうか? 案外やれるかもしれないぞ?」


だが、タツミは自信あり気に答える。


「ほぅ、どこからそのような自信が出てくるのかは知りませんが-」


「タツミ様!お待たせしました!!」


そんな二人の会話に急に割って入って来たのは額を赤くしたエリス。


タツミをこの部屋へと案内した後、姿を消していた彼女が再び石部屋の入り口に現れる。


「いや、良いタイミングだ。エリス。 丁度これからアイツと戦おうってところだ。」


タツミがそう声をかけると、エリスは部屋の中へと足を踏み入れる。


だが、そのエリスの後に更に人が続いて入って来る。


「ふむ・・・なるほど、病院の地下の石部屋ですか。」


「このような部屋があったとは・・・」


「教会の中をどれだけ探しても怪しい点が見当たらない訳ですな。」


「ルーナ・・・」


エリア教教主の息子 シムス・デャング。その弟であるルーク・デャング。

更には護衛であるマコンとソーの四人が部屋に入ってくるなり周辺を見回す。


「ほぅ・・・これはこれは、視察に来ていたエリア教の本部の方々ですか。」


ベンゼエルマが四人の姿を見て少し驚いた顔をする。


タツミを地下の石部屋まで案内したエリスは、タツミの指示でその後すぐに地上へと戻っていた。


そしてシムス、ルーク、マコン、ソーの四人を見つけ出し、事の顛末を伝えることでここまで連れて来ていた。


「あれは・・・母上?」


シムスが短剣で壁に打ち付けられているリリスを見つけて声を出す。


「詳しい話は後です。とりあえず今はあの白衣の男を倒すことに集中してください。」


「ふむ、エリスという女性の話を聞いただけでは半信半疑だったが、なるほどな。この現状を見せられては彼女が嘘を言っていなかったのであろうことは大体察しがつく。」


実際、エリスとシムス達に面識は無く、ほとんど初対面の人物をこんなところまで連れてくるなんてことは中々難しいことだっただろう。


ハルベリアが、タツミを連れてくる為の時間を稼ぎ、そしてタツミが四人を連れてくる為の時間を稼ぐ。


「魔人クラスの相手がいるかもしれません。」


最初にタツミがエリスからそう聞いた時に考えた魔人を倒す為のシナリオ。


魔人と呼ばれる存在がどれほどの強さを持っているか、ということをタツミは嫌という程知っている。


偶然に偶然が重なって勝つことができた成人の儀での魔人戦。


今回も自分達だけで勝てる相手とは考えず、最初から実力者を連れてくることを想定してタツミは動いていた。


エリスがどのような説得を行い、彼らをここまで誘導することに成功したのかはタツミにはわからないが、それもまた相当な難題であったはずである。


「よく来てくれました。」


戦闘態勢を取りつつ、横へと並んだシムスに、タツミは声をかける。


「あのような少女に何度も土下座までされながら真剣に、そして必死に頼まれたのではな・・・無視する訳にもいかないさ。神に仕える身としてはな。」


倒れているハルベリアの元へと駆けつけ、声をかけているエリスの方を見てシムスは答える。


赤くなっている額の理由を知り、タツミは思わず笑みをこぼす。


「そう、でしたか。」


「さて、タツミ君、後はゆっくり休んでいてくれ。あの男は我々が相手する。」


シムスがそう言うと、その両隣にはマコンとソーが。


そして数歩後ろでルークがそれぞれ戦闘準備を完了してベンゼエルマの方を睨んでいた。


「我が妹を利用し、母上までもを利用していた貴様に慈悲は与えん。」


隠しきれない怒りの感情を露わにしているシムスに対して


「どうせ貴方達を倒すのも私がやるつもりだったのですから、まぁ手間が省けたってことですかね。」


ベンゼエルマはそう言って怪しく笑うのであった。

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