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2-16 【這い寄る影】

「そうだね。タツミはまだ今日が初対面だったもんね。まだ説明して無かったね。」


突然のルーナの「一緒に寝てくれないの?」という発言に驚いている様子を見せるタツミに、ルーナは説明を始める。


「私ね、夜が怖いんだ。」


ルーナはすでに眠たそうな眼を擦りながらも恥ずかし気な顔をしながら言う。


「夜が怖い・・・?」


タツミはルーナの言葉を反芻する。


「成人の儀を迎える年齢にもなって何を言ってるんだ、って思うかもしれないけどダメなの。」


そう言ってルーナは布団から手を出し、タツミの手を握る。


「冷た・・・。」


冷え切った手。


昼間はあれほど活発に、そして好奇心旺盛に元気良く動き回っていた彼女が、今は布団の上で微かに震えているのが、手を握ったタツミにもわかった。


「私がまだ幼かった頃の夜中にね。私達の家、と言ってもエリア教の教会本部なんだけど、そこの中にある私の部屋に魔人が侵入してきたの。教会最高戦力の父様や、腕利きの警護の人達が騒ぎに気付いて駆けつけてくれたから魔人はすぐに討伐された。でもね、私の部屋で私を寝かしつけてくれていた母様と、私をとても可愛がってくれていたお手伝いさんがいたんだけどね・・・」


ルーナの声が段々と淀んでゆき、涙声になっていくのがわかる。


「すごく、すごく大好きだった二人なんだけど、父様達が駆けつけてくれるまでの間、私を護る為に二人とも・・・」


ルーナの言葉がそこで詰まる。


だが、それだけでその先の言葉を想像するには十分であった。


「私を護るように抱きながらゆっくりと温度を失っていく母様の身体が、四肢をもがれても私を護る為に抵抗を続け最後には頭を踏み砕かれたお手伝いさんの最後の表情が、夜に一人で寝てると思い出しちゃうの・・・だから、その、恥ずかしいお願いをしてるのは百も承知なんだけど、せめて私が眠るまでは一緒にいて欲しいの。」


涙目でルーナが懇願する。


「そういう事なら仕方ないな。」


タツミはそう言って笑い、ルーナの頭に手を置く。


「その代わり早く寝てくれよ。その、あれだ、俺だって男の子だからな。一緒に寝るのは・・・流石に緊張するからな。」


少し照れながら言うタツミに満足したのか、ルーナは笑顔を見せコクリと頷く。


「じゃぁ電気を消すぞ。」


そう言ってタツミは部屋の電気を消し、ルーナが先に入っている布団へと入った。


「ありがとう、タツミ。」


ルーナはそう言って再び目を閉じるのであった。














どれくらい経ったのであろうか、不意にタツミは目を覚ます。


ルーナが眠るまで見届けた後は布団から出て、一応護衛らしく周囲の警戒をするつもりであったが、どうやらルーナが寝付くのを待っている間に、タツミは布団の持つ微睡の力に抗えなかったらしく、眠っていたようだ。


目の前のルーナはこちらに顔を向け、すーすーと寝息を立てて眠っているのがぼんやりと理解できる。


「あぁしまったな。まさか俺も眠ってしまうとは。」


ルーナを起こさないようにゆっくりと布団から出ようとタツミがゆっくりと身体を動かしている最中、タツミは部屋の中に何か違和感を感じる。


ズルッ・・・


微かではあるが、床を這うような音がする。


外からの襲撃を避ける為、部屋のカーテンを閉め切っているのが仇となり、月明りすら差し込まない部屋となっているので姿形こそ確認できないが、タツミの五感全てがこの部屋の中にタツミとルーナ以外の何者かが存在していることを感じ取る。


タツミはベッドの敷クッションの下に忍ばせていた短剣に手を伸ばしつつ、魔力を身体に巡らせ五感の精度を上げ、床を這う音の出所を探る。


(どこだ・・・・)


ズルッ・・・


タツミの耳が、何かが床を這う音を拾う。


(おいおいおいちょっと待て、かなり近くから聞こえる・・・?)


タツミは布団の中で迎撃態勢を整える。


眼を凝らすが、流石に少しの灯りも入ってこない部屋の中では、たとえ暗闇に目が慣れようともその姿を捉えることはできない。


が、しかしその条件は相手も同じはずである。


(いや・・・)


すー、すー


息を潜めているタツミの隣で、安らかに寝息を立てて眠っているルーナの存在。


その寝息の音を頼りにこちらへとゆっくり、床を這いながら近付いてきているのであれば・・・


ズッ・・・


床を這っている音がタツミ達の近く、すぐ至近距離で止まったのを感じる。


(それなら・・・)


タツミは掛け布団の下から短剣を真上に向かって突き上げる。


「ギィ!?!?」


短剣の先端に何かが刺さった感触、そして同時に人とは思えない生物の鳴き声が響く。


すでに二人の真上まで迫っていた何者かの、どこかしらの部位に短剣による一刺しを与えることに成功したタツミは、そのままルーナを抱きながら布団を転がり出、カーテンを一気に開ける。


月明りによって映し出された何者かは、巨大なナメクジの様な姿をしており、二本の触手が暗闇の中蠢いているのが見える。


「あれぇ?どうしたの?」


急に布団から出されたルーナがぼんやりとした目を向けながら、自らを抱えているタツミを見上げる。


「ピギィィ!」


短剣によって傷を受け、怒っているようにも見える巨大なナメクジのような生物が再び鳴き声をあげる。


「え?何今の声?」


ルーナが、タツミの目線の先へと顔を向けようとしたことに気付いたタツミはそれを防ぐようにしてグッとルーナの顔を自らの胸に軽く押し付ける。


「ちょっと?ねぇ見えない。ねぇ?どういうこと?」


明らかに焦っているルーナにタツミは声をかける。


「見ない方がいい。」


寝る前に聞いたルーナの過去の話を思い出し、目の前の得体のしれない生物を見ることでルーナのトラウマを刺激しないようにと、タツミはルーナの視界にその生物を入れることを拒んだ。


「・・・でも、これじゃぁ」


ルーナが震えているのを抱きながら感じているタツミ。


「母様と一緒の・・・」


ルーナがそこまで言って言葉をつまらせる。


それを聞いて、タツミはしまった、と気付く。


今の状況が、ルーナを護るためにルーナを抱きながら死んでいった母親を彷彿とさせることに気付いてしまった。


「ピギィィ!!」


魔物の声が一段と荒くなる。


その声にビクッと身体を強張らせ、固まってしまったルーナ。


最早、タツミは、自らの腕の中で、ルーナがどうして良いのかわからずパニックになりつつあるのを察する。


もしこのままパニックを起こし腕の中で暴れ回られたりしたら、戦闘が不利に運んでしまうことは目に見えている。


それを防がねば、とタツミはルーナを抱く腕にしっかりと力を込め、そして耳元で優しい声を出して呟く。


「大丈夫。」


ルーナを支えていない方の手に持った短剣の先と目線を巨大なナメクジのような生物へと向ける。



「俺は勇者の息子だからな。安心して眼を閉じて、しっかり捕まってろ。」


そう言ってタツミは全身を巡る魔力を加速させた。







今月は仕事が忙しめなので、投稿時間が遅れぎみになるかもしれませんが、日を跨ぐ程遅れることのないように努力していきたいと思っていますので、よろしくお願い致します。

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