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2-15 【何を言ってるんだお前は】

すっかり辺りは暗くなり、タツミとルーナの二人は教会の宿舎の空き部屋で、すっかり寛いでいた。


「視察中の間はずっとこの空き部屋を貸してもらえるなんてラッキーだった。」


タツミは教会から出た街の中に宿を取るか、もしくは最悪、野宿をすることまで考えていたが、その心配はアンドレ・ガルディードからの教会の宿舎を貸してくれるという申し出によって無くなっていた。


勿論、普通ならばエリア教の関係者でないタツミが宿舎に泊まることは好まれないことらしいが、ルーナの護衛という大義名分を背負っているので問題無いようだ。


「私の護衛で良かったでしょ?」


ルーナがタツミへ自慢気な顔を向けながら話しかける。


「そうだな、今日初めてそう思ったよ。それまでは散々だったけどな。」


タツミとルーナは、教会裏の池において魔力の発生源を調べた後、次は小屋の中を調べようと大亀の背中に乗りながら池面に顔を出した瞬間に、ちょうどシムス達の一団とバッタリ出くわしてしまっていた。


タツミの考えでは、視察という名目でこの教会に来た以上は諸々の書類関係が管理されているはずである事務所を調べるのにもっと時間を要するものだと考えていたのだが、どうやらそれは間違いだったみたいで、事務所にある書類は一旦、一括して回収し、この視察の間の十日間を使って調査する心づもりであったらしい。


故にシムス達が事務所で行ったのは諸々の書類や情報の調査ではなく、回収のみであった。


シムス達が回収した書類をルーナとタツミの待っているはずである大聖堂に一旦置きに戻ると、そこにいるはずである二人がどこにも見当たらなかったので、わざわざ探しに来たということらしかった。


二人はシムスの荒れ狂う嵐が来るの前の海のような静かな怒りを受け、それに対しても何か手伝いたいとあくまでも引くことのなかったルーナに、シムスがついに折れ、そこまで言うならばと教会で働く人が住んでいる宿舎の調査を二人に命じたのが大体六時間ほど前の話。


最初に宿舎の管理人のいる部屋を訪れ、そこで視察期間の間は視察の邪魔になってはいけないので宿舎にいる人間のほとんどが、実家や街の宿泊施設に泊まらせていると聞き、宿舎に残っている敷地内の清掃をする為の清掃員二名と、大浴場や本尊である池の水質管理をしている技術者一名と宿舎に残っている四人の話を聞いたところで、ガルディードより与えられた自室へと戻って来たところであった。


一般的にはそろそろ就寝となってもおかしくない時間帯あるが、シムス達が宿舎へと帰って来た様子も無い。


おそらく未だに視察による調査が続いているのであろう。


「ねむたくなってきたねー」


と呟きながらルーナが、タツミの座っている部屋に予め置いてあったソファへと近付いてくる。


空き部屋とは言っていたが、急な来客にも備えられるよう必要最低限の家具は揃えられており、その家具の質も割と高めである印象を受ける。


晩飯は、先程宿舎の管理人が視察期間中の食事の世話を承っているらしく、わざわざ部屋まで持ってきてくれたのを美味しくいただいた。


その際、最初に管理人と会った際に頼んであった宿舎のマスターキーを手渡してもらった。


明日からの調査で、一応各部屋の中も見ておく為である。


信者でもないタツミがいる為、もっと渋られることを覚悟していたが、案外そんなことはなく簡単に渡してくれた。


もしかしたら、思った以上に教主の娘であるルーナの護衛という立場が効いているのかもしれない。


そうだとするならば今日二回目のルーナの護衛で良かったと思う案件なのかもしれない、とタツミは考える。


二人はすでに、部屋に備え付けてあったお風呂で各々一日の汗を流しており、リビングルームで寛ぎつつ、今日一日の出来事を思い返している最中、タツミの耳が微かな物音を捉える。


「・・・っ!?」


タツミは部屋の隅に置いてある木棒へと手を伸ばす。


「? どうかしたの?」


急に真面目な顔をして木棒を手に取ったタツミの様子を見て問いかけるルーナを尻目に、身体中に魔力を巡らせて身体を強化し耳を澄ます。


魔力によって感知する能力はほとんど無いに等しいタツミではあるが、身体を強化することによって研ぎ澄まされる五感は他者のそれを圧倒的に抜きんでている。


「二人か・・・。」


普通に玄関の方からの近付いてくる足音であればここまでの警戒はしない。


しかし今回、タツミの捉えた物音は玄関とは反対の窓の外から聞こえており、しかもわざわざ足音を消して近付いてきているのがわかる。


十分に警戒して対処すべきである。


一応、部屋に備え付けてあったカーテンは閉めてあるので、外から中の様子を覗き見られることは無いが、それは同時に、中から外の様子も伺えなくしている。


タツミは自らの背後にルーナを呼び寄せ、窓の方向に対して警戒を強める。


と、不意にコンコンッと窓側の壁を叩く音がした。


まるで軽いノックのような軽快な音。


(来るかっ!?)


タツミはそう思い、身構えていると、壁の向こうから聞き慣れた声が聞こえてきた。


「タツミ・ウィルフレッド様はいらっしゃいますか。」


「あれ・・・その声は」


タツミはその声を聞くや否や警戒を解いて窓を開け、外を見る。


「お前ら・・・」


そこにいたのはエリス・シアンブルとハルベリア・レオネルの二人であった。


「どうしてここに?」


二人はペコリと一礼した後、エリスが話し出す。


「王城でタツミ様を探していたら丁度マーリン様と出会い、そこでタツミ様を勧誘したというお話をお聞きした後、こちらにいらっしゃると教えていただいたので」


「いや、それはそうだろうけど、よく教会の宿舎の、この部屋にいるってわかったな。」


何でも見通していそうなマーリンとは言え、流石に彼女が去ってからの流れでこの部屋に泊まることになったことまでも見通しているとは考えにくい。


彼女から教会の宿舎の、それもこの部屋にタツミが泊まっていると教えられたとは考えづらい。


そう思って質問するタツミに、ハルベリアが答える。


「マーリン様が言うには、視察の為に宿舎内に住んでいる人間を外に出していると聞いているので、おそらく会話の流れによって宿舎への宿泊を進められているかもしれない。とのことでしたので、まずは宿舎を探ってみようとエリスと調査していたのです。」


「・・・」


彼女はすでに視察の為に宿舎内の人間をほとんど全員外に出しているという情報を掴んでいた、ということに驚く。


マーリンが依頼を受けてから初めてこの地へと足を踏み入れたのはタツミと同時に馬車に乗って来たあの時であろうが、もしかすると予めこの街に先に諜報員を忍ばせていたとしてもおかしくはない。


先に忍ばせていたのならば、その諜報員が、いつもは教会に寝泊りしている人間が急に街の宿に住む場所を変えているということに気付き報告していることも全然あり得る話である。


「十中八九、宿舎にいるとは思う。もし何か起こすつもりであるならば、教会の敷地中で始末をつけるのが一番、後処理に都合が良いからね。と言っておられました。」


エリスがそう補足する。


渡りに船、とガルディードの提案を飲み、教会の宿舎で宿を取らせてもらっていたが、よくよく考えると

最も危ない場所こそがこの敷地内である、ということを改めて気付かされる。


例えば先程、管理人が用意してくれた食事にしても、もし毒などを混入させられていれば二人とも今頃は死んでいるかもしれなかった。


このような任務に就くことは初めてで、これまでは王城から出ずに生活していたこともあり、こういった駆け引きとは無縁の生活を送っていた為少し世間知らずな所もあるタツミであるが、言われてから初めて気付いた自分の危機感の無さに、エリスやハルベリアに悟られないようギュッと拳を握り、自分へと感じた苛立ちを隠す。


「そして宿舎の灯りの付いている部屋すべてに気配を消して近付いてみたのですが、この部屋だけが唯一、気配を消した近付いた際に外への警戒からか、一切の物音がしなくなりましたので声をかけてみたのです。」


確かに宿舎にいる他の人間であれば気配を消した二人に気付くことは無いだろう。


一度話を聞いた際に身振り手振りや立ち振る舞いの姿を観察していたが、管理人も清掃員も技術者も全員が、戦闘訓練を受けた人間、とは感じられなかった。


なるほど、とタツミは頷く。


「もしここにいなければ街の宿を一軒ずつ回って調べていくつもりでしたけどね。」


エリスは笑う。


それは確かに少し骨の折れそうな行動だな、とタツミも笑った。


「後は詳しい説明は全てタツミ様から聞くように、とマーリン様から伺っておりますが・・・えーっと、その後ろの方は?」


ハルベリアがそう言ってタツミの背後を指差す。


その指の先には、警戒していた相手が、実はタツミの知り合いであると分かり、敵ではないとわかるや否や「誰?どんな人?」と好奇心をむき出しにしてこちらを見ているルーナの姿があった。


「あー、そうだな色々と説明が必要か。」


タツミはルーナに二人のことを、そして二人にはルーナのことと、マーリンから受けた勧誘の話をしようと部屋の中に入ることを促そうとするが、冷静になって動きを止める。


「どうかしました?」


エリスがタツミの様子を見て問いかける。


マーリンがこの二人に詳しい説明をしていないことを考えると、必然的にタツミは懲罰委員会の話もすることになる。


マーリンの話では基本的に、懲罰委員会のメンバーというものは秘匿されているのが原則である。


もちろん、タツミは目の前の二人に対して秘密を作るつもりもなく、むしろまだ勧誘期間を終えた後にどうするのかを決めてないのであれば二人を誘おうとも思っている為、この話をするつもりでもあるが、その内容をルーナに聞かれる訳にはいかない。


エリスやハルベリアとは異なり、ルーナはタツミの部下でもなく、むしろ別の組織の人間と言ってもいい存在である。


そんなルーナがいる前で懲罰委員会の話をする訳にはいかないが、その話をしなければなぜここにいるのかを説明するのがとても難しい。


そう考えたタツミはエリスとハルベリアの二人に声をかける。


「今日はもう遅いから明日にしよう。明日、教会の外で全部説明するよ。明日の朝に教会の入り口が見えるところでひっそりと待機していてくれ。入り口でじっと待ってると目立ってしまうかもしれないから。」


タツミの提案に、エリスとハルベリアは一瞬目を合わせる。


てっきりこのまま部屋に通され、説明をしてもらえると思っていたに違いない。


それをしない理由、そして一瞬タツミが見せた考えるような素振りから何かを感じ取ったのか、エリスが


「わかりました。」


と、一言だけ言う。


続けてハルベリアも


「明日の朝、お待ちしております。」


とだけ言うと、二人は再び完全に暗くなった夜の世界へと消えて行った。


「えー、ちょっと!今の説明は?ねぇ?」


タツミの背後でルーナが不満そうに話しかける。


「・・・明日するよ。」


タツミはそう言って窓を閉め、再びカーテンを閉める。


相変わらず宿舎内にシムス達が帰って来た様子は感じられない。


視察が長引いているのか、もしくはすでに何かの調査を行っているのか。


最悪なところだと、シムス達四人の身に何か起きているかもしれないが、それは恐らく未だ無いだろう。


仮に襲われていたとするならば、戦闘音がどこかで起きているはずである。


広い敷地内とはいえ、さすがにシムス達四人相手に行動を起こすのは、それなりの音が響くはずである。


教会の宿舎は一切の喧騒も無く静かな夜を迎えており、そのような様子は一切感じられない。


「私には今日してくれたっていいじゃん。」


ルーナが興味津々な様子で説明を聞きたがっていたが、タツミはそんなルーナの言葉に反応せずにベッドへ誘導する。


「さぁ寝よ寝よ。明日の朝に用事もできたことだし。」


「ぶー、じゃあ明日絶対だからね。」


そんなタツミの様子を見て、ルーナが諦めたのか、布団を被る。


「私の安眠をよろしくね。護衛さん。」


ルーナはそう言って目を瞑る。


タツミはルーナが先程もねむたくなってきたと言っていたことを思い出す。


もしかしたら諦めたというよりも、眠気が勝ったから諦めたんじゃないだろうかとも思う。


「あぁ、ぐっすり寝かせてやるよ。」


タツミはそう言ってベッドから離れ、荷物入れの大巾着を広げ身体を冷やさないように被る。


「えっ、ちょっと待って。」


そんな様子のタツミを見て、ベッドの上からルーナが起き上がって声をあげる。


「どした?」


急に起き上がったルーナに驚いて、ルーナの方を見るタツミ。


「え、一緒に寝てくれないの?」


ルーナが驚いた表情をしてタツミに問いかける。



「何を言ってんだお前は。」



ルーナの予想外の言葉に、タツミは驚いた表情を見せながら答えるのであった。






午前中にPCを操作して、完全に投稿した気でいたのですが、帰宅してから画面を見てまだ最終確認のページで止まっていることに気付きました。


遅れてしまい申し訳ありません。

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