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2-14 【魔力の源】

ルーナが本尊である池に袖捲りした腕を入れ、魔力の感知を始める。


「うーん、こっちの方から流れてきてるね」


ルーナは池の中心部の方を指しながら言う。


「中央の方か」


ルーナの感知結果にそう答えつつ、試しにタツミも腕を水に入れてみる。


「・・・」


なるほど確かに池の水に腕を浸けてみると、水にタツミが思っていたよりも多くの魔力が含まれているのが感じられる。


このレベルの濃度で魔力が含まれている水であれば、飲むだけでも多少の魔力を回復できるだろう。


もちろん水質の問題や、含まれている魔力とタツミ自身の持つ魔力の相性が悪ければ、回復するどころか逆に体調を悪化させる可能性も考慮に入れると、無暗に体内に入れるのは避けるべきである。


何より飲んだ後に魔力の発生源が魔人の死体だと判明した日には、気分的に立ち直れる気がしない。


「うーん・・・」


タツミは眉間にシワを寄せて声をあげる。


「どうかしたの?」


ルーナがそんなタツミの様子を見て問いかける。


「やっぱ俺には感知の才能は無さそうだなって思ってさ」


水に魔力が含まれていることは感じ取れるが、その魔力がどの方向から流れてきているのかとなると、ほとんど理解できない。


ほとんど理解できない、と感じつつも、タツミが可能な全ての感知力をフル動員して感じ取った「もしかしたらこっちかもしれない」という方向は、ルーナが指した池の中心部ではなく池の畔近くに建っている小屋の方であった。


「全然からっきしわからん」


タツミは池の水から腕を上げ、魔力感知を中断する。

「まぁこんな地下水が涌き出てできた池みたいな場所の魔力の出所の感知は難しいからね、別に出来なくても気にしなくていいんじゃない?」


ルーナが笑いながらタツミの肩に手を置いて慰める。


「魔力の発生源の大体の場所を把握したら後はどうするんだ?」


タツミは、少し不満気な顔をしつつルーナに問いかける。


「そうね」


ルーナは少し考える素振りを見せた後、すぐに答えた。


「一度潜って見てみようか」


そう言うと同時に、ルーナは自らの胸に手を当て、詠唱を始めた。


「女神アクエリアスに仕えし精霊よ、同じ女神に仕えし巫女たる我に力を貸し給え」


詠唱と同時に魔方陣が池の上に小さく展開し、輝きを放ったかと思うと、人の大きさ程もある巨大な亀が二人の目の前で、池の上に浮かんでいた。


「またお前か」


開口一番、その大きな亀はルーナに向けて声を放つ。


「潜りたいの、背中貸して。」


呼び出した精霊に向かって軽口を放つルーナ。


「ふむ・・・相変わらずお前は精霊に対しての口の利き方がなってないな。」


やれやれ、と言わんばかりの呆れた声を放ちながらも、呼び出された大きな亀はくるりと反転し、自らの甲羅の上に乗れと合図を送る。


「やったー! ありがとー!」


ルーナはそう言って亀の甲羅の上に飛び乗り、前の方に座って亀の頭を撫でる。


「ほら、タツミも早く乗って。」


呆気に取られて言葉を放つことすら忘れて立っていたタツミに、ルーナは手を差し伸べる。


「えっと、お邪魔します。」


手を差し伸べられて、やっと我に返ったタツミは、そう言って亀の甲羅の上に乗る


「っ!?」


その瞬間、何らかの力がタツミへと流れ込んできたのがタツミにも感じ取れた。


「さぁ出発!とりあえず池の中央の方に向かってほしいな。」


「・・・」


大きな亀はルーナの言葉に返事を返さないまま池の中央を見据えると


「潜るぞ」


と、一言だけ呟くと、二人を乗せたまま池の中へと潜って行く。


急に潜行を始めた為、咄嗟に眼を閉じ、息を止めるタツミ。


しかし、不思議なことに、いつまで経っても水が身体に触れた感触を感じない。


「眼を開けても大丈夫だよ。」


ルーナがタツミに声をかける。


水中であるにも関わらず、ハッキリとした声が聞こえたことに驚きながらも、おそるおそる眼を開く。


タツミはそこで、地上と何ら変わりない程ハッキリと水の中の景色を見ることができることに気付いた。


「息もできるから呼吸も止めなくていいよ。」


ルーナに言われ、止めていた息を吐いてみる。


無数の泡が水面に向かって昇って行くことを予想していたタツミであったが、全くそんなことは無く、普段同様に吐いた息は見えなかった。


「凄いでしょ? この子の能力、甲羅の上に乗っている限り水中でも地上と同様に行動できる加護があるの。」


ルーナは自慢気にタツミに話しかける。


「凄いな、召喚魔法。俺も王城で教えてもらったことはあるんだけど、俺の持ってる魔力じゃ相性が悪いみたいで何一つ召喚できなかった。」


これはタツミが、と言うよりも勇者アズリードの子供達全員に言えることであった。


どうやらアズリードの持つ魔力の質というものが、召喚魔法に向いていないことが原因であるらしく、タツミの同世代であるキース、魔法に関しては同世代の中でも飛び抜けた才能を見せていたコディや、総合的に見れば、おそらく同世代最優であるダルミアンですらも召喚魔法は会得し得なかった。


タツミの侍従であったグレースに聞いた話だと、百人以上存在するのアズリードの子供達の中でも召喚魔法を扱えたのは今までに片手で数えることができる程しかいなかったらしい。


「勇者なんだから自分で戦えということですな」


なんて言って笑っていたことを思い出す。


「へぇー、相性悪いんだ。じゃあ残念だけどタツミは宗教家には向いてないね。」


「え、そうなのか?」


ルーナの発言に驚くタツミ。


「だって宗教家の戦闘方法って基本的に召喚魔法だもん。信じる神に仕える精霊に祈りを込めて呼び出し戦ってもらうんだ。」


「なるほど」


王城内において、タツミは宗教家なる人物と会ったことが無かった為知らなかった情報である。


勿論、基本的に勇者の子供達は王に仕える侍従達とのみ触れ合うことを許されている為、勇者の子等にとっては会ったことがないのが当たり前なのであるが。


「残念そうな顔してるね」


前に座っていたルーナが振り返り、タツミを見て笑う。


そこで初めて気付いたことだが、大きいとは言え人間一人程の大きさしかない亀の甲羅の上に二人で乗っているのは若干窮屈であり、タツミが思っているよりもルーナとの距離が近い。


「別になりたかった訳じゃ無いけど、向いてないって言われると少し残念な気持ちになるな。」


基本的に他人とここまで近くで会話をしたことが無く、さらに相手が同世代の異性であることを少し意識してしまい、湧いてきた照れの感情を隠しつつ、そう答えた。


「でも大丈夫。宗教家になれなくても信者にはなれるから。」


神を信じる心に向き不向きなど無いということだろうか。


そんなことを思いながらも先程のルーナの言葉を思い返す。


『宗教家の戦闘方法って基本的に召喚魔法だもん。』


もし仮にアンドレ・ガルディードが何か企んでいたとして、最悪タツミが戦わなければならない場面に陥った場合のガルディードの戦闘方法が予測しやすくなった。


彼がこの教会の神父だというのであれば、何らかの召喚魔法を使用してくる可能性はかなり高く、ルーナの話を聞く限りでは、それはアクエリアスという水の女神に仕える精霊である可能性が高い。


などと思案している間にどうやら池の中央部へと到達したようで、大きな亀が言葉を発する。


「着いたぞ。」


「うーん、この辺に感じたんだけどなー。」


水中にて、ルーナとタツミの二人は周囲を見回す。


すると、水底に何かを発見したルーナが声を上げる。


「あれかな?」


ルーナが指差す先に見えるのは、とても小さな穴。


鉛筆一本入るかどうかくらいの大きさの直系しか無いその穴は、注意深く観察していなければ水底の多量の砂に紛れて見逃していたかもしれない。


そしてその穴からは、少量の黒い粘液のようなものが池の中へと流れ出ているのが見える。


「ちょっと近寄ってもらうことはできるか?」


タツミはルーナに問う。


「あの穴に近付いてみて。」


タツミの要望を聞いたルーナは、自らの呼び出した大きな亀に語り掛ける。


「・・・」


亀は無言で穴へと近付く。


「よっと!」


穴へと近付いたタツミは腕を伸ばし、魔穴と思われる穴へと腕を伸ばす。


ヌルン!


すると、鉛筆一本程の直系程しかない大きさの穴に、タツミの腕が入っていった。


「うん、やっぱりこれは魔穴だな」


実際に一度魔穴を見たことがあり、更にそれを塞いだ経験のあるタツミには、この穴が魔穴であることを感じ取る。


しかし、水底というのもあり、周囲に魔穴を開通させる為の印である魔王印は確認できない。


何らかの原因で次元が不安定になり、自然に魔穴が開いたと考えるのが妥当だろう。


「ここから魔力が流れてきてたんだね。」


ルーナは感心したように言う。


「そうだな。どうやらこの教会の本尊は魔穴が原因で魔力を帯びているらしいな。」


タツミは、今潜っているこの池が魔人の死体によって魔力を帯びている訳ではなくて良かった。


とホッと胸を撫でおろしつつ、全く違う方向から魔力が来ているかもしれない、と感知していたタツミの感知力は、全然ダメだなと思うのであった。



更新が遅れて申し訳ありません。

仕事が思いの外長引いてしまった為、いつもの様に明け方から午前中の間に投稿ができませんでした。



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