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2-12 【兄の心、妹知らず】

「ごめんって。禊の浴場に全裸でいたから、てっきりそういう趣味なのかと」


教会内の廊下を、ルーナが先導しつつタツミと二人、奥の部屋へと進んでいた。


「風呂って言えば全裸だろ。普通は。」


タツミは、知らなかったとはいえ、信者達が一枚布を纏って禊を行う浴場へ全裸で入っていた為に、ルーナから風呂桶をこれでもかと投げつけられたことに少し不満を感じる。


「まぁほら、裸を見せられて私もショックを受けたことだし、おあいこってことで!」


ルーナは笑顔を見せながらタツミの肩に手を置く。


「裸見られてショック受けたのはこっちだけどな。」


肩に置かれた手を軽く払いながら、タツミは溜め息をつきながらルーナの先導に従って教会内の廊下を歩いてゆく。


タツミがこの教会の中へと足を踏み入れるのは初めてなので、まったく教会内の間取りがわからないのは当たり前なのだが、それに対してルーナは、王城の敷地の十分の一にも満たない広さとはいえ、かなり広い教会内を一切迷う様子もなく進んでいく。


(エリア教の教会は、どこもほとんど同じ造りなのかな。)


タツミはそんなことを思い歩を進める。


「えーっと、あれだよ。まぁ綺麗な身体してたよ。うん。ちゃんと鍛えられてる。」


「バッチリ見てるんじゃないか。くそ、フォローになってないぞ。」


「あははははははははは」


軽口を叩き合う二人。


最初に教会の裏手で悪戯をしあったり、禊の浴場でのトラブルがあったこともあり、割とルーナとの距離は縮まっているような気はする。


タツミの表向きの任務であるところの護衛対象と、気軽に話し合える関係を築くのは、タツミの本来の任務であるところの情報収集においても非常に有効であると考えられるので、その点からすると今のところは順調に任務をこなしているのではないかとタツミは考える。


「さて、多分ここにいると思うんだけど」


浴場のあった廊下から、少し入り組んだ道を進んだところで現れた大きな扉を、ルーナが開く。


扉の開いた先には、教会のメインとなる施設、大聖堂があった。


水の女神を崇めている宗教ということもあり、あらゆる場所に流水をあしらったオブジェクトが設置されてあり、ステンドグラスから差し込む光を受けて、その殆どが綺麗な色を水面に映している。


信者達はここで祈りを捧げるのであろう。


「おや、これはこれはお二人様。」


最初にこちらに気付いたのはアンドレ・ガルディード。


「おぉ、いきなりいなくなったから心配したぞ。」


続けて、扉に対して背を向けて立っていたシムス・デャングが振り返り寄って来る。


「えへへー、ごめんごめん。」


兄であるシムスに笑いながら抱き付き、平謝りするルーナ。


「・・・むぅ。無事なら良かった。」


ひときわ体格の大きいルークも、ルーナの頭に軽く手を置き一言だけ言う。


「さっそく妹が迷惑をかけてしまって申し訳ないね。タツミ君。」


ルーナを迎えた後、シムスはタツミへと声をかける。


「いえ、まだ大したこともしてないですし。」


そんな会話をしている間も、シムスとルークの護衛の二人であるソーとマコンは無言のまま、タツミやアンドレ・ガルディードの行動を注意深く観察している。


何かあればすぐに動ける体勢を維持しつつ、それを悟らせないように立ち振る舞うソーとコマンの二人を見ていると、よほどの実力者でもない限りこの二人を突破して、更に戦力が未明のルークとシムスを襲うことは難しいだろう。


「さて、先程マーリン様は急用ができたと帰られましたので、これでやっと全員揃いましたな。」


会話の間を見計らって、アンドレ・ガルディードが話を切り出す。


「それでは視察のご案内を始めましょうか。」


ガルディードが案内を始めようと提案したのに対し、シムスが言葉を挟む。


「折角待っててもらっていてこんなことを言うのも悪いが、ガルディード神父。この二人はできれば視察に同行させたくないのだ。この子の姿が見えるまで心配で、少し待ってもらっていたのだ。」


シムスはタツミとルーナの二人の方を見る。


「えー、なんでよー」


ルーナはふくれっ面を作りながら不満をあらわにする。


「折角来たんだから私も見たい!」


情報収集としての観点から考えると、この視察には是非とも同行しておきたいのでタツミもルーナに同調する。


「お、俺も興味あります。王城を出てから、宗教に関連した建物に入るのも初めてなので。」


ルーナにタツミも同調したことで、シムスは少し考える素振りを見せる。


「ふむ・・・」


「よろしいのではないですか。エリア教を知っていただく良い機会となりますし、これを機に我らがエリア教の考え方に触れ、入信していただけるかもしれませんよ。」


ガルディードから思わぬ形で助け舟が出る。


視察する人間が何人増えようが、別に問題は無いということだろうか。


それとも何か別の意図でもあるのだろうか。


タツミがそんなことを考えながら、ガルディードを見ていると、シムスが結論を出す。


「いや、君たちはやはりここで待機していてくれ。」


「えー」


シムスの決定にルーナが声を出して不服を表明する。


「エリア教についての話であれば、今日の視察を終えた後の夜にでも私から直接語ろう。教主の息子から直接ご教義が聞けるのだ、悪い話ではないだろう。」


「・・・」


タツミは視察に同行したい理由を論破されてしまい、黙りこむ。


「いーやーだー私だって役に立ちたいー」


それでも駄々をこねるルーナの頭に掌を乗せ、すこし屈むことで目線を合わせ、シムスはルーナを宥める。


「ルーナ、あまり兄を困らせないでくれ。そんなことじゃいつまで経っても母様に笑われるぞ。俺も。お前も。」


シムスの宥めるような口調に、ルーナは不満を見せつつも首を縦に振り、受け入れの意思を示す。


「むー・・・」


「わかってくれたようだな。ありがとう。」


シムスはそう言って、ルーナの頭から掌を降ろし、屈んだ姿勢から立ち上がる瞬間に、ルーナの隣に立っているタツミへと耳打ちする。


「私たちが纏まって行動することで、全員同時に排除されるリスクがある。それを防ぐ為にも君たちに別行動をさせる。妹を任せた。」


シムスはそう言うと、タツミの顔をじっと見る。


「・・・」


タツミはシムスから目線を逸らさずに、軽く一度頷くことで応えると、シムスは振り返り弟であるルーク、そして護衛のソーとマコン、こちらを待っているガルディードの方へと振り返り歩き出す。


「さぁ、それでは案内を頼めるかな。ガルディード神父。」


「畏まりました。ルーナ様とタツミ様はこの聖堂でお待ち下され。残りの方々は、私の後へと続いて下さいませ。」


そう言って、ガルディードが扉の方へと歩き出す。


その様子をふくれっ面をしながら見ているルーナを、一度心配そうに振り返りながら、シムスはガルディードの後へ続く。


シムスの後にはルーク、そして最後に護衛の二人が出て行く。


「禊の浴場と大聖堂は先に入って頂きましたので、まずは教会の事務室、宿舎、そして本尊として崇めている水源である池と、そこを管理する小屋の順で本日は案内するとしましょう。」


ガルディードは扉を出る際、今日の視察のルートを説明しながら大聖堂から去って行くのであった。


バタンッ


扉が閉じられ、大聖堂に二人残るタツミとルーナ。


この場所で待っていてくれと言われた手前、ここから動くこともできないな、と思いながらルーナの方を振り返ると、さっきまでそこでふくれっ面をしていたルーナの姿は無かった。


「えっ!?」


「こっちこっち」


タツミが声のする方を見るとルーナは、先程ガルディード達が出て行った廊下と繋がっている壁に耳を当てている。


「そんなところで一体何を・・・」


タツミが言うのを遮るように、ルーナは口に人差し指を当てて静かにするようにジェスチャーする。


「・・・」


仕方がないのでタツミもルーナと同様に壁に耳を当ててみる。


(それでは事務所はこちらの方向となります。)


壁ごしにガルディードの声が聞こえてくる。


(神父殿、すまないがその前にトイレに案内してくれるかな。)


この声は聞き覚えがない。


おそらく護衛の二人、マコンとソーのどちらかの声だろう。


(そうだなマコン、案内をしていただく前に私も用を足しておこう。先に案内をお願いしよう。)


これは、シムスの声。


(構いませんとも、トイレもこちらになりますので、事務所に行く前に寄りましょう。)


ガルディードのそんな言葉を最後に壁越しに伝わる声が聞こえなくなってゆく。


おそらく、この場所から離れていったのだろう。


タツミがそんなことを思っていると、ルーナが話しかけてくる。


「行ったね。」


念のためもう少し壁に耳をつけて音を聴いてみるが、もう何も聞こえてこない。


「みたいだな。」


タツミはルーナに返事をしつつ、壁から耳を離す。


丁度良い機会なので、この待機している時間を使ってこれからの方針でもゆっくりと考えようかと思い、聖堂後方に位置する長座椅子に、タツミは腰をかけようとするが、ルーナの意外な一言によってそれは阻まれる。


「じゃぁ行こう!」


ルーナが先程ガルディード達が出て行った扉に手をかけながらタツミに向かって声をかける。


「は?」


先程この場所で待機することを受け入れたのだとばかり思っていたタツミは思わず声を出して反応する。


「私達も視察に行こう!大丈夫、兄様たちが帰って来るより先にここに帰ってくればバレないって。」


そう話すルーナの顔は無邪気に笑っている。


「お転婆妹、とシムスが言っていたがまさかここまでとは――」


タツミが言い終わらないうちにルーナは扉を開く。


「別に一緒に来なくてもいいけどね。私の護衛さん?」


意地悪そうな笑顔をタツミに向けると、ルーナは扉の外に踏み出す。


「だぁー、くそっ!」


タツミはそう言うと、ルーナを追って扉の向こう側へと進むのであった。



この時のタツミは、すでに歪みを生じ始めていた違和感に、未だ気付いてはいなかった。




なんとか一週間に一話のペースで進めることができてます。(できて・・・います?)


この話の結末はほとんど出来ているので、後はそこへ向かってひたすら文章を書いていくだけなのですが、タイピングが遅いので思うように進まないです。


慣れねば・・・

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