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1-21 【悲しき傷痕】

「何故だっ!!何故お前は私を構成するこの液体を体内に吸入してもなお、動くことができるのだ!?」


大地に落ち、上半身のみとなった魔人は、腕だけでタツミから離れて距離を取る。


その間、タツミは残された下半身を輝く魔法石の固定された長棒を使い、再生ができない様に切り刻む。


「まさかこの奥の手をも読んで、さらにその対策まで講じていたというのか」


身体を構成する液体を放出し、塊となった下半身は数回斬断しただけで再生しなくなった。

それを確認したタツミは魔人へと身体を向ける。


「いや、正直その奥の手は読めてなかった。お前が何かしらの方法で相手を行動不能にすることができるってのはダルミアンの話から予想はしてたが、まさか身体から神経毒を含んだ蒸気を一面にまき散らすとは考えもつかなかったさ。」


「それならば何故・・・いや、今はそんなことは最早どうでもいいか。」


魔人は自らを支える腕を大きく広げる。


途端に大きな魔法陣が、魔人の踏ん張る大地に広がり、展開される。


「!?」


タツミは身構える。


「今はこちらに呼び寄せたほとんど全ての操身虫を森の動物たちの支配に使用してしまっているのでな。貴様と戦えるだけの数の操身虫を魔界から呼び寄せる。」


魔人が魔法陣へと莫大な魔力を流し込んでいるのがわかる。


恐らくとてつもない大群の虫を呼び出すことのできる魔法なのであろう。


「喜べ。僕自身が相手してやる!」


魔人が操っていたグロリアスモンキーは既にその支配から解放した。

当の魔人本体も、下半身を失っている。


しかし、まだ魔人は上半身だけでも十分に継戦能力を発揮しており、更にはダルミアンをも苦しめた虫を操った攻撃を繰り出そうとしている。


今までは、既にこちらの世界に呼び出していた虫を全て使用しているという理由で行ってこなかっただけで、呼び寄せればいつでも行うことができたのであろう。


「させるかっ!!」


タツミが同期の勇者の子の中で最も優秀であると考えているダルミアンと、その彼が厳選した精鋭ともいえる配下二人をあそこまでボロボロにする程の戦闘力を持つ虫を操った攻撃を凌ぎ切るだけの力は最早どこにも残ってはいない。


タツミの魔力が、もう残り数分も持たないであろうことは自分自身が一番理解している。


故にタツミは全力で魔人へと駆けた。


「ふふふははははははは!無駄さ!!お前が僕に再生不可能になるほどの攻撃を加えるより先に、虫たちは-」


「はぁああああああ!!」


タツミは刃を振り下ろす。


「-ここへとやって来る!魔界の操身虫はこの魔法陣に反応して-」


「だあああああああ!!」


返す刃で一閃。魔人を切り裂く。


しかし魔人は話すのをやめる気配はない。


「-すぐに  -やって  -くる  -のだ!!」


何度も何度も刃を振り下ろすタツミ。

魔人本体には切り離した下半身とは違い、まだまだ再生を続けている。


「たああああああああ!!!」


叫び声を上げ、何度も斬り続けるタツミ。


「-さぁ!  -さぁ!  -間に合わせてみせ-  」


ズン!


「くそっ!どんだけ切ればいいんだ!」


タツミの刃が魔人の顔面らしき部分を一刀両断する。


「この程度の攻撃ならば -後百程は必要だな -ふはははは」


魔人の再生力にはまだまだ余力があるらしく、優越な態度を崩さない。


魔界より呼び出した虫の群れが、ここに到着してしまえば戦況を一気に逆転できるという余裕が、魔人をそうさせているのであろう。

事実、その自信が魔人にはあった。


しかし、魔人にとって予想外の行為をタツミが取っていたことが、魔人の余裕を奪い去った。


「-おかしい  -何故だ 」


一向に操身虫がこちらに飛んでくる気配がないのである。


魔法陣を展開してからすでに30秒は経っている。

既に数万匹の操身虫が辺り一面を縦横無尽に飛び回っているハズの時間である。


「-この魔法陣に  -反応し   -魔界より魔穴を通じて  -直ぐにやってくるハズ  -の操身虫が何故来ない!」


魔人が予想外の事態に声を荒げる。


「はあああああああ!!」


タツミは魔人が声を荒げている間にも着々と攻撃を繰り出し続ける。


「-まさか  -私がこの森に  -仕掛けていた  -魔穴が」


ズン!


叫びながら斬撃を繰り替えすタツミによって、段々と再生の限界が近づいているのを感じる魔人。


「-閉じられているのか!?」


タツミがまだキース達と戦闘を行う前、タツミ達は道中において魔穴を見つけ、それを塞いでいる。


それはまさに単なる偶然であったが、その行為が、魔穴を通じて操身虫を魔界から呼び出すつもりであった魔人の最後の手段を潰していた。


「-おい  -ちょっと待て  -これ以上は」


残りの全ての力を振り絞ってタツミはラストスパートをかける。


「消えろおおおおおおおおおお!!」


切り落とした魔人の肉片の再生が止まる。


「そんな-   この僕が-   この世界で・・・?」


ズッ・・・


最後の突きが、魔人の脳天を貫いた。


「話が違う・・・話が違うぞ!!マアァァァァァァァァリン!!!」


シュウウウウウウウウウウウウウウ


大きな叫び声を上げ、最早原型も無い程に切り刻まれた魔人は力なくその場に倒れ、動かなくなった。


「はぁっ・・・はぁっ・・・」


ドサッ


同時にタツミもその場に倒れ込む。


「はぁっ・・・ギリギリだった。」


全身を駆け巡る魔力が消えていく。


最早タツミの魔力は底を尽き、身体強化も維持できなくなっていた。


「なんて化け物だよ・・・まったく」


動物を操り、物理攻撃を無効にし、再生能力を持ち、神経毒を振り撒き、そして虫を操る。

一体どれほどの攻撃手段を持っていたのであろうか。


タツミは魔人との戦闘を思い返す。

魔獣や魔物とは比べ物にならない程の能力を持っているとは聞いていたが、まさに圧倒的な脅威。


魔人一人いれば軍が一つ壊滅する。とはグレースから聞かされていたが、まさにその通りである。


タツミがこうやって何とか魔人相手に渡り合っていられたのも、エリスやハルベリア、そしてダルミアン達の手助けと、そしていくつもの偶然が重なったが故の、この結果である


おそらく、面と向き合って最初から一対一で戦闘をしていた場合、勝っていたのは間違いなく魔人の方であっただろう。


それほどまでに魔人とタツミとには戦力差があった。


「ふぅ・・・」


そんな強大な力を持つ魔人を相手に、なんとか勝利することができたタツミであったが、全身に鈍痛が走り、満足に身体を動かすこともできそうにない。

本来ならこの場で倒れ込みたいところではあるのだが、まだ終わった訳では無い。


魔人が倒れたとしても、虫に取り付かれ、操られていた森の動物達の様子や、それらの対応を引き受けてくれていたエリスとハルベリアの安否も気になる。


「くっそ・・・身体が動かねぇ」


重たい身体を引きずり、長棒で身体を支えながらゆっくりと進むタツミ。


そんなタツミの背後から、突然巨大な白い腕が振り下ろされる。


「なっ!?」


気配に気付き振り向きはしたものの、回避する力が残っていないタツミは首根っこを掴まれ、そのままヒョイと肩に乗せられる。


「キキィ」


その巨大な白い腕の主は、先程まで魔人の神経毒によって動きを封じられていたグロリアスモンキーのボスであった。


「お前・・・」


タツミを肩の上に乗せ、その隣にまだ痺れて動けない様子のサブリーダーらしき個体を一緒に乗せる。


「キキッ?」


グロリアスモンキーのボスが何を言っているのかは全く理解できなかったが、何故かタツミは目的地を尋ねられている気がした。


「森の中にいるはずの、俺の仲間のところへ」


タツミがそう言うと、巨大な白い森の主は大きく跳躍。

一気に森の木の上まで登る。


そして木の上の高い所から一通り森を見渡すと、何かを見つけたかのように一直線に駆けだした。


「グォオ!!」


肩の上で力無く座っているタツミが振り落とされないように気を付けている様子を見せつつ、短く大きな雄叫びを上げつつ森の主が速度を上げ、さらに大きく跳躍。


全身が筋肉の塊であるような生物の本気の跳躍である。


「うおおおおおおおおお!?」


振り落とされないように気を使ってくれている|(のだと思いたい)とは言え、タツミは必死にボスの肩にしがみつく。


ズゥゥン!


数秒の無重力感の後に大きく着地の衝撃。


幸い、グロリアスモンキーのボスがタツミを手で抑えてくれていたので大した衝撃も受けず、吹き飛ばされずに済んだ。


そして、その先には急に現れた巨大な大猿を警戒する二人の姿があった。


「エリス、ハルベリア。無事だったか!」


肩の上から姿を見せたタツミを確認し、二人は警戒を解く。


「タツミ様!」


全身泥だらけのハルベリアがタツミの無事を確認し、嬉しそうに声を震わせる。


「勝ったのですね!」


全身傷だらけのエリスが喜びながらタツミの元へと駆け寄る。


「ああ、皆のお陰で何とかなった。ありがとう。」


タツミは心の底から二人に礼を言う。


「先程、急に森の動物たちが我に返ったかのような仕草を見せ、私たちに攻撃してくるのをやめたので、もしかしたらと思いましたが・・・魔人を倒してしまわれるなんて、流石はタツミ様です。」


ハルベリアが感嘆の意を示す。


「動物たちの首の裏に取り付いていた虫達も、いつの間にか全匹いなくなってました。」


エリスが報告する。


「そうか・・・」


周囲には見渡す限りの戦闘痕。


かなりの数の動物達が未だに生存しているとは言え、無数の森に住む動物たちが二人の手によって倒されている。


タツミをここまで運んできてくれた森の主であるグロリアスモンキーのボスも、その景色を見てどこか悲しそうな顔をしている。


「こんなことになって申し訳ない。俺がもっと強ければ、もっと被害は抑えられたはずだった。」


タツミがボスに向かって話しかける。


言葉が通じているのかどうかは解らないが、それに対し森の主は


「グォ・・・」


と一言、優しい声で応えた。


「・・・感謝してるみたいです。」


動物の言葉のニュアンスが大体理解できる亜人のエリスがタツミにそう告げた。


「たくさんの同胞達が死んでしまったのは悲しいことではありますが、それでもタツミ様がいなければもっと被害が広がっていたでしょう。」


「・・・そう言ってくれると俺も少しは気が楽になるよ。ありがとう。」




大きな傷跡と、大きな経験、そして大きな悲しみを残し、魔人の討伐がここに終わりを告げた。



久しぶりに投稿できました。10月はまだまだ忙しいスケジュールなので次の投稿も少し時間がかかるかと思いますが、気長にお待ちいただけると幸いです。

なんとか来週の日曜日には投稿したいなぁ・・・

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