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1-20 【奥の手】

タツミは腰に巻いた大巾着から一つの道具を取り出す。


先程、噛みつきによって、自分の血を通した魔力が魔人へダメージを与えることができると知った。

それによって、タツミの脳裏には先程まで全く攻撃が効いた素振りすら見せなかった魔人を倒すことができる、という確信を得た。


大巾着から取り出したそれを、タツミの持つ長棒の先へと、大巾着の紐でしっかりと固定する。


「お前のようなひよっこ如きが、この僕に覚悟しろだなんて、くっくっく、笑いが止まらないな!」


そんなタツミの行動を、まるで意に介さないかのように気にもかけず、魔人はこちらを見ながら笑っている。

タツミがどのような行動を取ろうが、自分に致命傷を与えることはできないという自信の表れであろうか。


その自信を裏付けるかのように、先程まで煙の上がっていた魔人の顔部分は修復され、元の形を取り戻していた。


間違いなく効いていたはずの攻撃のダメージが、まるで無かったかのように綺麗さっぱり消えている。


「やっぱ今の傷も治るんだな」


タツミはそれを見て納得の表情。


タツミもただ数の不利を覆しただけで「覚悟しろ」などと言った訳では無い。


「液体の身体の前ではこんなもの傷のうちにも入らないさ」


魔人はタツミの問いかけに答える。


少し前からずっと、懸念はあった。


そして、今魔人の顔の傷が治っているのを見て、その懸念は確信に変わりつつあった。



あれは攻撃を無効化しているのではなく-



-再生しているのだ。



身体が液体で構成されているが故に物理的な攻撃方法しか持たないタツミが攻撃に手ごたえを感じず、さらにエリスのウインドバレットを受けて尚、まったく攻撃が聞いた素振りを見せなかった魔人。

その魔人が「そんなのは効かない」「内部に直接魔力を流し込んで消し去るくらいのことはしないと」などとタツミに対して言った為に大きな勘違いをしていた。


物理攻撃は確かに効いていなかったのだろう。


液体の身体の特性を考えても、今までのタツミの攻撃を無効化してきた様子から見ても、そして攻撃を受けた後の反応を見ても、その可能性は圧倒的に高い。


あの言葉を聞き、タツミは勘違いしていた。いや、勘違いさせられていたのだ。




魔人が魔獣や魔物よりもなぜ脅威なのか、と昔タツミはグレースに質問したことがあった。


その時、グレースはタツミへこう答えた。


「仮に、同じだけの戦闘力を魔人と、魔獣、そして魔物が持っていたとしましょう。戦闘力をそのまま物理的に発揮して我らに牙を向いてくるのが魔獣でございます。奴らの戦闘力は強靭な身体にこそ宿っているのです。対して戦闘力を様々な方法で発揮してくるのが魔物。魔法を使用するものであったり、身体を強化するもの、勿論強靭な肉体が武器のものもおりますが、その戦闘力がバリエーションに富むのが魔物でございます。」


タツミが、


「じゃぁ魔人は?同じ戦闘力なら皆同じじゃないの?」


と質問すると、


「魔人が脅威なのは、その戦闘力を十二分に生かしてくるからなのです。その戦闘力のバリエーションもさることながら、奴らは時に狡猾に我々を欺きそれを効果的に、最大限に利用してくるのです。故にタツミ様も大きくなって魔人と対面なさった時は充分に気をつけなさってくだされ。」


「ふーん」


などと、あの時は分かったような分からなかったような曖昧な理解で空返事を返していたが、今ならばその意味が理解できる。



先程の噛みつきで、タツミの血から魔力を流し込まれ、顔面にダメージを受けた魔人。


少し前に懸念を感じ、疑問に思っていなければ、おそらくタツミは『魔人にダメージを与えたのだからあれは直接魔力を流し込んだ攻撃方法なのだ』と、勘違いしていただろう。


しかし、冷静に考えてみるとあれは魔力を流し込む攻撃などではない。


『魔力を帯びた血を纏った歯による物理攻撃』である。


要は物理攻撃を魔力でコーティングしただけ。


魔力を直接流し込む、なんて行為では決してない。



おそらく魔人の特性は『物理攻撃の無効化』そして『再生能力』、『羽虫による身体操作』の三つ。


魔人は狡猾にも、それを『魔力の直接流入以外の攻撃の無効化』と『羽虫による身体操作』などという風に勘違いさせたのである。


魔力放出を苦手とするタツミは、そもそも近距離での戦闘しか取るべき選択肢は無かったが、遠距離からの魔法攻撃を持つ者に、『魔力の直接流入』を狙わせることによって有無を言わさず近距離戦闘を強いる。


そして近距離戦闘には羽虫で操った近距離戦闘に長けた生物を使用する。


ダルミアン一行があそこまでボロボロになっていたのも、その勘違いによるところが大きいだろう、とタツミは解釈していた。


完全に魔人に有利な状況を作り出すその手際を目の当たりにし、まさに狡猾という言葉が相応しい、とタツミは感じていた。



そして、それを踏まえ、タツミは魔人を倒す方法というものを閃いていた。


故に「覚悟しろ」と言ってのけたのである。



タツミが考えついた魔人を倒す為の条件は三つ。


一つは、強力な一撃で全て跡形も無く消し去る。


これは今のタツミには到底不可能な行為。

残りの魔力量から考えても、タツミの攻撃方法から考えても、一撃で跡形もなく消し去るような技をタツミは持っていない。


一つは、再生が追いつかないほどの速度で魔法を打ち込む。


おそらく、エリスが動物の群れ相手に見せた風の弾丸を機関銃のように放つ魔法でも、まだ足りない程の威力と連射力が必要なことから魔力の放出を苦手とするタツミには到底、実現できそうにない。


そして最後の一つ、タツミが取るの事のできるおそらく唯一の、魔人を倒す方法。


魔力を纏った物理攻撃を再生前に連続で打ち込むこと。


実は、そもそもタツミの持つ長棒にもタツミの身体強化の魔力が効いており若干の魔力を纏ってはいる。


今までの戦闘において、ただの訓練用の長棒が身体強化されたタツミの攻撃の衝撃に耐えたり、グロリアスモンキーの攻撃を受けてもその形を保っているのは、偏にタツミの装備している長棒や木剣にも強化の効果が及んでいることが理由なのである。


しかし、その程度の微弱な魔力では、魔人が今まで全くダメージを受けていなかったことは明白。

故に自分の体内から流れる血を介した噛みつきのような、もっと純度の高い魔力を帯びさせる必要がある。


タツミが流している血を長棒に擦り付け、血で長棒をコーティングすることも考えたが、血は乾いてしまえば魔力の伝達力が著しく落ちてしまう。

戦闘中に長棒全てを覆う程の出血量を維持し続けるのは非常に困難である。


だからこそ、タツミは大巾着から一つの道具を取り出し、それを長棒の先に大巾着の紐で固定した。


「なんだそれは?」


魔人は、タツミが構える長槍の先がポウッと光を帯びたのを見て、やっとタツミの行為に疑問を持つ。


「折れた刃を棒の先に固定した。薙刀みたいだろ?」


タツミは王都において、露店で購入した折れた刃を長棒に縛り付けて固定していた。


「僕はそんなことを聞いているんじゃない。それは何だ?と聞いている。」


魔人はその刃が輝きを放っているのを指差し、タツミに問いかける。


「魔法石。魔力を纏うことにおいてはこれ以上無い程に適した金属だ。」


魔人はその魔法石が放つ輝きから、尋常ではない程の魔力がそこに込められていることを感じ取る。


おそらく身体強化に必要な最低限度の魔力量のみを身体に残し、残りは全てこの輝く金属へと費やしているのであろう。


「ふむ・・・」


魔人はそう言うと、さっきまでの怒りが嘘のように静かになる。

まるで、タツミが刃に纏いしその魔力が、自らを倒し得るに足る量であることを悟り冷静にならざるを得なくなったかの様子。


今では最初の邂逅時に発していた言葉のような冷たさが、言葉の端々から感じ取ることができる。


その様子を見て、タツミは自分の立てた仮説が、おそらく正しいものであると、少なくとも当たらずとも遠からずであろうという確信が増幅する。


「なるほど・・・そうか、今までのやり取りでそこまで察したか。良いのがいるじゃないか。今年は。」


先程まで激昂していたかと思えば、急に冷静になり、そして訳の分からないことを言った後、一人で結論を出す魔人。


「なればこそ。」


ゴァァァァァァァァ


「!?」


一瞬で魔人の周囲の雰囲気が変化したのが理解できた。


先程まで、タツミは魔人と向き合っている中で、戦闘中ではあるが、魔人はどこかに楽しさを感じながらタツミの相手をしているのを、感じ取っていた。


しかし、今変化した雰囲気を纏う魔人は微塵もそれを感じさせない。


完全に魔人から、楽しさという概念は消え去っている。


魔人の一挙手一投足を見逃すまいと構えるタツミ。


身体全体が液体で構成されている魔人であるので、表情などは全くわからなず、どの場所に目があり、口があるのかすらイマイチ不明ではあるが、なぜかタツミは魔人と一瞬、視線が交差したように思えた。


ゾアァァァァァァァァ


その瞬間、タツミの全身に鳥肌が立つ。


「・・・っ!?!?」


タツミの体中を殺気が貫く。


「全力で戦っていなかったことを詫びよう。タツミ・ウィルフレッドよ。」


そう言葉を発した魔人の頭上から圧倒的筋力を誇るグロリアスモンキーのボス個体のハンドスクラップが降り注ぐ。


「キィィィィ!!」


ドドドン!ドドドン!


さらに魔人目掛けてサブリーダーらしき個体が石を投擲。


しかし、全身が液体で構成されている魔人は、二匹の攻撃を受けても全くものともせず、気にしないそぶりで続ける。


「ここからは全力だ。」


魔人はそう言うと、身体全身から蒸気を発した。


シュウウウウウウウウウウウウウウウウ


その蒸気は瞬く間に広がり、一瞬でタツミ達の戦闘している周囲を覆う。


「ギギッ!?」


「キィ!?!?」


その蒸気に包まれるや否や、グロリアスモンキー二匹の動きが一瞬で止まる。


「動けないだろう?」


無論、その蒸気はタツミの身体をも包み込む。


「僕のとっておき、奥の手だ。身体を構成している液体を一気に蒸発させ、周囲の生物全ての体内に液体を取り込ませる。」


そう言った魔人の姿は一回り小さくなっており、ドロドロだった身体もどこか水分を失って固まっているようにも思えた。


「この液体には神経毒の一種が含まれている。これを体内に入れた生物は少しの間完全に身体の自由を失うのさ。」


魔人はそう言いながらタツミの傍へと近付いてくる。


「連発はできない上に、使えば少しの間僕の液体の身体である特性を失うことになるんだけど、君はどうやら僕の能力に気付いてる様子だったからね。」


魔人はタツミへと右手を伸ばしてくる。


「君を操ることができれば、僕の能力はずっと増す。この世界を支配することだって-」


魔人が話しながら伸ばしてきたその右手を、タツミは


「俺に触るな!」


ダンッ!!


手にした魔法石の刃の付いた長棒で切り落とした。


「~~~~~!?!?!?!?」


鮮やかな青い色をした液体が、切断された腕から吹き出し、魔人は声にならない声を上げる。


それは戦闘を開始してから初めて見た魔人の血。


咄嗟に数歩下がった魔人をタツミは一歩踏み込んでさらに追撃、振り下ろす刃で魔人の左手も切り落とす。


「っ~~~なぜ!!」


全力で後方へと退がりながら魔人は叫ぶ。


「なぜお前は動けるんだ!?」


しかし、魔人の退がる速度よりも身体強化したタツミの追撃の速度が上回る。


ズンッ!!


再び振り上げた刃が魔人の身体を真っ二つに切り裂いた。


「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


魔人の上半身が叫び声をあげながら大地に落ちた。

更新がかなり遅れてしまい申し訳ありません。

活動報告の方に簡単な理由は書きますが、ちょくちょく書き進めておりますので、どうか長い目で待っていただけると幸いです。宜しくお願いします。

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