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1-19 【逆転の一手】

目指すのはボス個体の着地地点。


タツミの投げたグロリアスモンキーを跳躍して躱した隙に、一気に距離を詰める。


三匹のサブリーダーらしき個体のウチ、一匹は顎を砕かれ倒れている。

そして一匹は、タツミと共にボス個体の両腕の振り下ろし攻撃を受け、タツミが直前に手を離したことによって直撃こそしていないが、やはりその衝撃を喰らってか動かない。


最後の一匹は先ほどタツミがボスに向かって放り投げた為、まだ空中。


魔人はボス個体の肩の上に乗っており、魔人自身が攻撃してくる気配は全くない。


故に、今タツミの行動を阻害するものは何一つ存在しない。


更に、もっと言えばボス個体は跳躍中であり、空中で咄嗟に動きを変えることは不可能。


完全にフリーの状態でタツミは長棒を構えて迎撃体勢に入る。


「グォォオオオオ」


ボスの個体が吠え、着地とするのと同時に落下地点で構えるタツミへ太い腕を振り下ろす。


それと同時にタツミは長棒を両腕を使い地面に叩き付け、そこを支点に跳躍してその腕を躱す。


手にしていた長棒を離し、空中で腰に挿してある木刀を右腕を使い逆手持ちで抜き、狙いを定める。


目線の先には魔人の顔、そして攻撃を躱したタツミを眼で追うボスの個体の顔があった。


「これなら・・・」


身体を捻り、右腕を真横に一閃。


腕ごと魔人に向かって木刀を降りぬくタツミ。

魔人には腕でラリアット、そしてボス個体の頭部に木刀の切っ先が刺さる絶妙の切払いが


ゴリンッ


嫌な音と共に、攻撃が決まる前に止まった。


「がっ・・・はっ・・・」


空中で血を吐くタツミ。


タツミ自身、何があったか理解できずにいた。

腹部に痛みを感じる。


空中で止まった自分の体へと目線を落として、今自分の身体に何が起きているのかを理解した。


目の前のボス個体が、足を使ってタツミが空中で手放した長棒を掴み、そのままタツミの腹部を貫いていたのである。


「んな・・・ばかな・・・」


ズボンッ


腹部から長棒が引き抜かれ、タツミは膝から地面に落ちる。


タイミングは完璧だったハズ。

実際、ボスの個体はタツミが元々立っていた地面へ向かって攻撃をしていた。

今までの反応速度から見て、少なくともタツミが空中で手放した長棒を足で掴み、タツミの腹部目掛けて突き上げることができるような芸当ができるとは思えない。


「残念だったね~」


魔人がボス個体の肩の上、タツミの真上から声をかける。


「僕へのラリアットはあれかい?直接魔力を流し込むくらいしないと倒せないよ、って教えてあげたことをやろうとしたのかな?そしてそのついでに逆手に持った木刀でこのボスの頭部を貫いて、一気に戦闘不能にする算段だったんだよね。」


魔人の声はとても嬉しそうな語気を含んでいる。


「今の攻撃は意外だったかい?そうだろうね。このボス猿じゃ反応できない攻撃だもんね。」


ズルンッ


ボス個体の肩の上から魔人が降り、膝で立つタツミの前へとやってくる。


「身体を操るって、こういうことなんだよ。僕が反応すれば僕が対応して操ってあげられる。」


それはまるでとっておきの技をキめた子供の様な無邪気な様子であった。


「今までそんなことができる素振りも見せてなかったでしょ?ははぁ~奥の手ってのは取っておくものなのさ」


なるほど、とタツミは理解した。


ボス猿の肩の上に乗り、ボス猿と同じ目線で魔人がいたのはそういう理由だったのかと。

咄嗟に反応する際、同じ目線で見ている方が操る時に判断しやすいということなのだろう。


「しかしまぁ、あの状況でそこまで狙ってやろうとするなんて、いいね。すごくいいよ。」


魔人はドロドロの腕を使って、俯くタツミの顔を持ち、そのまま自分の顔に近付ける


「君は欲しい。是非とも欲しい!このボス猿と同じ僕のお気に入りにしてあげよう。」


魔人は嬉しそうに顔を近づけは離し、を繰り返す。


「名前は何だい?特別さ。君のそのままの名前で使ってあげるよ。」


魔人は嬉しそうにタツミの目を覗き込む。


「へっ・・・近いぜクソ魔人が!」


タツミは口を大きく開き、そのまま真ん前に近づいていた魔人の顔に噛り付く。


「!?」


そしてそのまま魔力を流し込む。


「ぎゃあぁぁあぁあぁぁぁあああああああああああああ」


魔人はタツミを突き飛ばし、タツミから離れる。

顔から煙を上げ、苦しそうにする魔人。


「ペっぺっ!マズい!病気になんねぇよな」


タツミは口に含んだ魔人の一部を吐き出す。


「魔力を放出するのは苦手なんだが、血に魔力を乗せるのは得意なんだ。だからこその身体強化なんだけどな。」


口を拭いながらタツミは言う。


「どうだよ俺の口の中は。お前のお陰で血まみれだったろ?」


「貴様ぁぁあああああああああああああ!!」


顔から煙をあげ、魔人は叫ぶ。


「ころすころすころすころすころすころすころすころすころす!!」


先程までの嬉々とした感情はすでに無くなっていた。


今感じられるのはまさに激怒。


身体が液体のように流動していて顔の表情は全くわからないが、その語気の強さだけは感じ取れる。


「死にかけの分際で調子に乗るなぁあああああ!!」


魔人の後ろでボスの個体が腕を振り上げる。


「あーくそ、流石にもうそれを受けきる力はねぇや」


脚に力が入らず、腹部に穴が開いている状態で、すでに満身創痍のタツミは笑う。


「死ねよお前!」


魔人の声と同時にボス個体の腕が振り下ろされる。


ズンッ!!!


「うぴゃ!?」


腕はタツミの正面、魔人の真上から振り下ろされ、そのまま魔人をその大きな掌で圧し潰した。


ズンッ!!ズンッ!!ズンッ!!


そのまま何度も魔人へと連打を繰り返すボス猿。


ちゅるんっ!!


「何で!?何でお前が僕を攻撃するんだ!?」


耐えきれず液体となって連打から抜け出し、距離を取る魔人。


「予想通りだな。」


タツミはその様子を見て笑う。


「グルルル」


ボス個体は静かに唸り声をあげながらタツミを一瞥。


「眼は覚めたかよ?」


タツミは一言声をかける。


ボスの個体はそれに短く縦に首を振って反応。

まるで頷いたかのように見えた。


「お前ええええええ一体何をしたんだ!?」


魔人は怒りを爆発させタツミへと問いかける。


「さっき、操られそうになった時、羽虫の針に術式が仕込まれてるのをみたからな。」


タツミは右手で持っていた木刀の先を魔人へと見せつける。


「術式から離してしまえば魔法は発動しない。」


その木刀の切っ先には一匹の羽虫が胴体を貫かれ、突き刺さっていた。


「あの時の攻撃の狙いはそれか」


魔人は驚愕した声をあげる。


「考えて見れば簡単な話だったんだ。羽虫で操られるなら羽虫を外してやればいい。とても簡単なことだった。てっきりお前の体液でも羽虫の針から流し込んで身体を操ってるんじゃないか、とかそんなことを難しく考えてしまったからなんとなく最初から選択肢から外していた。」


「ギィイイイイ!!」


サブリーダーの個体がタツミへ攻撃を仕掛けてくるも、それをボス個体が空中で受け止める。


「ギギッ!」


捕まえられ、行動の自由を失ったサブリーダーを捕まえながらボスの個体はタツミを見る。


「あぁ、ここだ。ここの奴を取ってやるんだ。」


タツミは首の後ろを指さし、ボスの個体に、魔人によって操られる元凶が首の裏に付いている虫であることを教える。


教えられたボス個体はすぐさま、首筋の裏に取り付いている一匹の羽虫を引き抜き、プチっと音を立てて潰す。


「ぬぅうううううう!!よくもよくもよくもよくもおおおおおおおおお!!」


魔人の支配下から離れたサブリーダーの個体を見て、更に怒りのボルテージを上げていく魔人。


「そもそも!なぜ!お前は僕が虫を使って、首筋に取りつかせて操っていたことを知っている!お前の前で動物を支配下に置いたことは一度もないはずだ!それなのにお前は、倒れている時も何の迷いも無く首の裏の虫を外したり・・・お前は何なんだ!」


「それを見破ったのは俺じゃない。お前がさっきまで戦ってたやつだ。そして俺はタツミ。タツミ・ウィルフレッド。」


タツミは羽虫で操るということを教えてくれていたダルミアンに感謝しつつ返答。

実際、教えてもらっていなければ今のこの状況は作り出せてはいなかっただろう。


「よっ・・・と!」


タツミは木刀を支えにしながら体を起こす。


「グルルルルルル」


魔人の支配から抜け出したグロリアスモンキーのボスが、そしてサブリーダーがその横に並んで魔人に対して戦闘態勢を取る。


「形勢逆転だ。魔人。」


残り僅かな魔力を再び身体に巡らせ、身体を強化しながらタツミは魔人へと言い放つ。


「覚悟しろ。」


誤字を見つけたので修正しました。

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