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1-16 【限界を超えた時間稼ぎ】

「見えてきた・・・」


小声で話すタツミの目線の先、そこにはこちらに向かって一直線に走ってくる動物の姿があった。


先頭を走るのは沢山の鹿。地響きを鳴らし、ダルミアンの血の痕に沿って走ってくる。


「行きますか?」


ハルベリアが腰の剣に手を添えながらタツミに問う。


「いや、まだだ。この大群相手に正面からぶつかるのは得策じゃない。」


タツミ達は鹿が通り過ぎるのを待つ。


鹿達もこちらに気付くことはなく、ただひたすらに進み続けている。


まるで命令されたこと以外には何もする余裕がないかのように、ただひたすらに。


「ガゥゥゥゥウウウ」


その次に群れを成して進んできたのは狼の群れであった。


「狼さんもこの森には棲んでいたのですね。」


エリスが一心不乱に進んでいく狼たちを見ながら小声で零す。


よく見れば先ほどの鹿も、今通り過ぎている狼たちも皆、首の後ろに握り拳大の大きさの虫がくっついているのが見える。


「あれがダルミアンの言っていた虫か。」


タツミはその虫の形状、姿を目に焼き付ける。


「キキィィィ」


唸り声を上げて進む狼たちのその後ろから聞き覚えのある甲高い鳴き声。


グロリアスモンキー達が群れを成して進んで来る。


「・・・」


エリスが悲しそうな顔をしているのをタツミは気付く。


グロリアスモンキー達がベイドンの街を襲った際、怒りそして悲しんでいたという猿達。


タツミは当初、それが子供を奪われた怒りと悲しみによって街を襲ったのだと思っていた。


しかし、現実は違っていた。


魔人によって操られ、自分たちを神だと崇め、共生し発展してきた街の人々を、意思に反して襲わされた悲しみ、そして身体の自由を奪われた怒りを感じていたのだ。


「許せねぇな。」


タツミの口から自然と小声が漏れていた。


「ですね。」


エリスがコクッと頷く。


グロリアスモンキーの群れの後半、グロリアスモンキーの中でも特段に大きな身体を持つ個体が、悠々と進んでいる。


おそらくあの大きなのがタツミ達がベイドンの街で戦闘を行ったボス個体であろう。


鹿、狼、ときて森の神である猿が群れを成して行進しているのを見ると、森の中での優劣の順で進んできているのかもしれないな。とタツミは感じつつも、ボスの個体の周囲を注意深く観察。


ボスの個体の周囲には、ボス程の大きさは無いとはいえ、やはり他のグロリアスモンキーとは二回りほど大きい個体が三体程、ボスを守るようにして囲んでいる。


「あの囲んでるでっかい猿達は街じゃ見かけなかったが、様子を見る限りどうやら群れのサブリーダーのような存在なんだろうな。」


ボス個体程の戦闘力は持って無いにしても、おそらくは高い戦闘能力を持っているはずだと予想。


そして、悠々と歩を進めるボス個体の肩の上、そこにタツミ達の目的、魔人が座って乗っていた。


「あれが魔人か。二人とも準備はいいか?」


タツミはエリスとハルベリアの二人に問いかける。


二人は戦闘態勢を取りながら無言で頷く。


その反応を見て、タツミも自分の獲物である長棒を持つ指先に力を込め、目測で魔人との距離を測る。


ザッザッザッザ


段々と近付いてくるボス個体。そしてその上に佇む魔人を見据え、最も距離が近づいたその瞬間に


ダンッ!!


タツミ、エリス、ハルベリアの三人がボス個体の真上の木の上から奇襲を仕掛ける。


「ガゥ?」


物音に気付いて上を見上げるボスの個体。


しかし幸いにもボス個体の肩の上に乗っている魔人はまだこちらに気付いてない様子。


チャンスである。


三人のウチ誰か一人でも、ここで魔人に不意打ちによる致命傷を与えることが出来れば後は一気に楽になる。


「ウガァァァァァ!」


ボス個体が腕を上げ、三人を迎撃。


「はっ!」


ハルベリアが剣を構え、その腕を弾く。


「タツミ様!エリス!」


唯一三人を迎撃してきた腕を弾き落としたハルベリアは二人に任せた、と言わんばかりの目線を送る。


「はあああああああああ!」


「もらったぁああああああ!!」


魔法で身体能力を最大限まで引き上げたタツミの長棒が魔人の身体を貫き、

エリスが掌から放つ無数の風の弾丸が魔人の身体に無数の穴を開く。


「!?」


タツミはその手ごたえに違和感を感じる。


ドサァッ・・・


魔人はボス個体の肩の上から力なく大地に落下。


その後に続けて三人が着地。


「やりました!」


エリスが声を上げて喜ぶ。


「お見事です!」


ハルベリアが見事に奇襲を成功させた二人の手並みを褒める。


「まだだ!!気を逸らすな!」


そんな二人をタツミが大声で制する。


「ウガァァァァァァアアアアアアアア!!」


ボス個体が大きく腕を振りかぶってエリスとハルベリアへ向けて腕を叩きつける。


「はっ!」


先にタツミに注意を促されていたエリスとハルベリアはその攻撃を回避。

距離を取り、魔人達の様子を見る。


「グルルルルルル」


こちらへ向かって威嚇を続けるボス個体、そしてその周囲のサブリーダー達。


「やれやれ酷いな」


冷たい声が聞こえる。


「挨拶も無しに急に攻撃してくるなんて、こちらの人間はいつからそんなに野蛮になったのかな。」


その声は大地に落ちた魔人から放たれていた。


「タツミ様!生きてます!」


ハルベリアが叫ぶ。


正直、タツミが長棒で貫いた際に全くの手ごたえの無さを感じたことで、そんな予感はしていた。


「追撃します!」


エリスが掌を三角形に形作り、魔力を放出。

風の弾丸が倒れている魔人へと放たれ、それは魔人の身体に穴を開ける。


「あぁ、ダメダメだ。ダメダメだよ。そんなのは効かない。」


ジュルルルルル


全身穴だらけになって倒れている魔人の身体が音を立てて捩れ、一瞬球体となり、そして再び人の姿を形取る。


その姿はまるで変幻自在の姿を取るスライムのようであった。


「僕を倒すのなら内部に直接魔力を流し込んで消し去るくらいのことはしないと。」


人の姿になった魔人の表面は黒く、表皮には赤い血管のような網目がドクドクと脈打っているのが見える姿へと変貌。


「あれ?君達は・・・さっきの三人じゃないね。その前に僕の前に出てきた威勢のいい男でもないみたいだ。何者なんだい?」


黒い魔人のどこが眼で、どこが口なのかまったくわからない外見をしているが、人の形を取り、人語を話していることを鑑みて間違いなく魔人であることは確かであろう。


「俺の名は-」


タツミは長棒を構えつつ、名乗ろうとするのを魔人が遮る。


「いや、やっぱいいや。どうせすぐに僕に操られるだけの人形になるんだ。名前はこっちで後から付けてあげるよ。」


魔人が手を、正しくは魔人の身体から生えている手のような触端を上に掲げる。


「キィィィィ!」


グロリアスモンキー達が一斉に3人に襲い掛かる。


「撃ち落とします!」


エリスが両の掌を交差させ、魔法を発動。

風の弾丸が機関銃のように打ち出され、襲い掛かるグロリアスモンキー達を次々に撃ち落としてゆく。


「グルルルルルルルァァァ!!」


今度は猿達の前を走っていた狼の群れが三人へと襲い掛かる。


「私が防ぐ!!」


それに反応したハルベリアが剣先を狼たちへと向け、魔法を発動。

術式が展開すると共に、見えない壁のようなものに遮られたかのように狼達が空中で何かに激突。


「騎士になるには防御魔法の取得は必須、狼の群れくらいなら私にも止められる。」


ハルベリアの防御魔法が、狼達がこちらへ向かってくるのを許さない。


「あぁ、君は見覚えがあるね。さっき広場で戦闘した時も、僕の操る猿達の攻撃を次から次へと防いでくれていたね。」


魔人はハルベリアの姿を見て思い出したかのように話す。


ハルベリアの魔法で防いでいる間にエリスが風の弾丸で撃ち落とす。連携を取りつつ動物たちを倒してゆく二人に魔人はさらに追撃の為に腕を振う。


「じゃぁこれも防げるかな?」


「ピィィィィィィ!!」


戦闘を走っていたはずの無数の鹿達が鳴き声を上げて猛突進。


「グァァァァァァオオオオ!!」


そこへ狼の群れの爪牙攻撃が加わり、さらにグロリアスモンキー達がそこへ追撃。


「くぅっ・・・数が・・・」


剣を支えるハルベリアの腕が震える。


「今助ける!」


ハルベリアの展開する見えない壁へと群がる獣達を一掃しようと動きを見せるも、


「君はこっちだ。」


タツミの眼前にグロリアスモンキーのボス個体が立ちはだかる。


「邪魔をするな!」


長棒を振りかぶりボスへ一撃をお見舞いしようとしたタツミの上方からサブリーダーらしき個体の一匹が攻撃。


「っ!?」


視界の外からの予想外の攻撃に反応が遅れ、一撃もらってしまう。


「ちっ!」


一撃自体は身体を強化しているタツミにとって軽傷で済むような威力ではあったが、そこでバランスを崩してしまったタツミへと、ボス個体の一撃が降り注いだ。


「ウガァァァァァァアアアアアアア!!」


ボス個体の一撃の威力は、身体を強化しているタツミにとってもかなりのダメージを負ってしまう程の威力。


「がはっ・・・」


圧倒的な衝撃がタツミを吹き飛ばす。


「タツミ様!」


それによってハルベリアとエリスが一瞬、タツミに気を取られ


「あれあれ?集中を乱しても大丈夫なのかな?その防御魔法。」


ビキビキビキ


一瞬、炸裂音が鳴り響き、ハルベリアの防御魔法が決壊。


「しまっ・・・」


「きゃっ!!」


エリスとハルベリアは動物達の突進に巻き込まれる。


数百を超える動物たちの群れの突進である。

普通の人間が巻き込まれれば、まず命は無いだろう。


「エリス!ハルベリア!!」


吹き飛ばされた先で二人の名を叫ぶタツミ。


ドォン!!


叫び声に呼応するかのように群れの一部が吹き飛ぶ。


「こちらは大丈夫です。」


エリスは咄嗟に周囲の獣ごと特大の風の弾丸を大地に放ち、吹き飛ばしていた。


しかし、口から血を流しているのをみるに、自分にも多少なりともダメージがあるようだ。


「こちらは気にせず、タツミ様は魔人とボスの猿に集中してください!」


ハルベリアも立ち上がり、タツミへ向かって叫ぶ。


完全に二人の処理能力を超えている数の獣を前にして、二人はタツミに心配をかけまいとしているのだ。


「・・・くっ」


タツミは眼前に立ちふさがるボス個体と、いつの間にか再びその肩の上に座り直している魔人、そしてそのボス猿を囲むかのようにして立っているサブリーダーのような猿三匹を見据える。


「わかった!そっちは任せる!絶対に立ち止まって戦うな!常に動き続けて立ち回れ!」


対他数を相手に戦う時の基本戦術を二人に叫びながらタツミは長棒を構える。


「へぇ、戦う気なんだ。こんな状況なのに。」


魔人が楽しそうな声を出してタツミに話しかける。


「はっ!こんな状況だから戦うんだよ!」


額から流れる血を拭いながらタツミは答える。


「勇者だからな!」


一瞬、勇者という単語を聞いた時に魔人がピクッと反応したように見えた。


「へぇ・・・」


ザザザザザザッ


サブリーダーらしき三体がタツミに向かって駆けてくる。


この三体の攻撃力は、タツミの防御力を持ってしても無視はできない程度にはある。


一体一体の動きを見て、攻撃を回避するタツミ。


しかしこの息の合った連携を見せる三体に気を取られ過ぎると


「ガァァァァ!!」


ボス猿の驚異的な一撃がタツミへと放たれる。


「くっ!あぶねぇ!!」


何とかボスの一撃を回避したタツミに、今度はサブリーダーの三匹が


「キキィィィィ!!」


その爪で、その牙で、その腕で確実な一撃をタツミへと入れる。


「ぐあっ・・・!」


一発一発は軽傷、とはいえそう何発も喰らっていては間違いなくタツミは倒れてしまう。


魔人によって操られ、意思を統一された4匹の圧倒的なコンビネーション。


ベイドンの街で戦った時のボス+その他の猿達、の時とは全くもって別次元の戦い。



「ははっ、なんか笑えてきたぜ。」


タツミが、そしてエリスとハルベリアが、共に自身の処理できる能力を超えていると感じる程の敵の軍勢を前に、時間を稼ぎを開始するのであった。

誤字を見つけたので修正しました。

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