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1-15 【行進】

「おそらく王城へ着くまでに2時間程、そこから王か父上へと話を通し討伐隊をこの地へ連れてくるのにどれだけかかるかが勝負になる。父上ご自身が動いて下されば、そう時間はかからないはずだ。」


魔人と唯一戦った経験のあるダルミアンは、タツミに対して一通り気付いたことや、気を付けるべきこと、特徴などを話し終えると直ぐに立ち上がり、洞窟の中でキースを待っている髪を無造作に束ねた背の低い女性を連れ出してきた。


彼女はダルミアンから軽く説明を受けたらしく


「ほえ~キース様に勝ったのですか~」


なんて間延びした声を出して驚いていた。


洞窟から出てきた彼女の髪の先には三十数匹の、子猿が縛られていた。

子猿たちは親と離れた不安からか、それとも恐怖からか小さな鳴き声をあげている。


「さて~どうやって運びましょ~か~」


髪を操り子猿たちを縛ってはいるものの、その全てを持ち上げる程の力は彼女には無い。


三十を超える子猿達を纏めて連れて移動するなんてことは至難の業である。


「それについては問題ない。ギューダン。」


「任せてほしいんだなぁ。」


ギューダンと呼ばれた巨漢の男が返事をする。


成人の儀で、タツミとキースの殴り合いを何かしらの能力を使って止めた大男である。


「よっこいしょっと」


ギューダンが彼女の背後に回り、その足元に触れ、指先で陣を描く。


描かれた術式が光り、彼女の足元の影に吸い込まれたかと思うと


「あれ~軽くなりました~」


なんて言いながら急に身軽になった様子で話し出す。


「なんだその魔法!?」


タツミは見たこと無い魔法を目の当たりにして驚く。


「軽くなったからって、急に動かないでほしいんだなぁ。僕の影と君の影が交錯している間だけ、君の重さを僕が受け取ることができるんだなぁ。」


ギューダンはそう言うと足と手を畳み、首を縮め身体を丸める姿勢を取った。


「サッヒン、よろしくなんだなぁ。」


ギューダンはもう一人の配下に声をかけると、サッヒンと呼ばれた男が身体を丸めたギューダンの後方に立ち、押して頃がしていく。


まさに大玉転がしを見ているかのような光景がタツミの目の前に広がる。


「限界はあるが、子猿三十数匹分の重さと彼女の分の重さをギューダンが魔法で請け負った。重みで彼は歩けないのでサッヒンと私で押して進む。」


ダルミアンは真面目な顔でタツミに説明する。


「この軽さなら頭の上に乗せて歩けますね~」


髪で子猿を捕まえている彼女はそんなことを言いながら髪を縮め、軽くなった子猿を全て頭の上で絡めてしまう。


「そして最後に私が」


ダルミアンはそういうと頭上に魔法陣を描く。


描かれた魔法陣から光の玉が発生、それは強烈な光を発生させながらダルミアンの頭上にゆらゆらと輝く。


「この玉を常に頭上に展開しておけば、影が途切れることもない。さぁ急ぐぞ。」


先頭に頭上に三十数匹の子猿を乗せた背の低い女性。

その後ろに身体を丸めた大男。

その頭上には燦々と輝く光の玉が揺らめいており、その後ろには男二人が大男を押す体勢。


「・・・」


タツミはまるで何かの娯楽でも見ているかのような気分になったが、それは言わないでおいた。


「あぁ~そうです~。」


女性がくるりとタツミの方を振り返る。


「私の名前はリコリス。リコリス・ガイタンと言います~。またどこかで会ったらよろしくです~」


「お、おう。よろしく。」


笑顔で手を振るリコリスのバランスがどう考えても悪そうなのに違和感を感じつつタツミも手を振って見送る。


「さぁゆくぞ!ガイタン氏、一旦停止する時は予め声をかけるように。」


ダルミアンの注意に


「はい~」


とガイタンは元気よく答え


サーカスの一団が、もとい4人と三十数匹がゴロゴロと大地を転がる音を鳴らしながら広場から去って行った。




「・・・真面目な顔して真面目にあんなことするから笑うに笑えなかった。」


タツミはそう言って振り返ると、エリスとハルベリアは下を向いて肩を震わせ必死に笑い声を堪えていた。













「聞こえてきました。断定はできませんがおそらく魔人です。音からして、こちらに真っすぐ向かってきてます。」


エリスが猫の耳を立て、聴力全開で音を拾い、足音を察する。


姿を隠し森の中に紛れている三人は息を潜める。


「やはり血の痕を追って来てるってのは間違いじゃないようだな。」


タツミは小声で会話しつつ、ダルミアンから聞いた話を思い出す。







「私達が奴と戦って今も生きていられるのは、偏に奴の攻撃の威力の無さにある。」


ダルミアンは魔人を冷静にそう分析する。


「おそらく奴は自ら直接戦うタイプの魔人では無い、ということだ。おそらくグロリアスモンキー達を操っていたことから分かるように、あの魔人は何かを操って戦うスタイルが本来の戦い方なのだろう。奴自身は何ら攻撃を仕掛けてこない。」


「じゃぁどうやって攻撃してくるんだ。」


タツミは浮かんだ疑問を声に出して問う。


「奴は握り拳大程の大きさの角と針を持った羽虫を操り攻撃してくる。基本的にはこれだけだ。」


「それだけ?」


「あぁ、奴は虫を使い相手の体力を徐々に削ってゆき、動けなくなったところを操る。そういう相手だと、私は分析した。」


実際に戦ったダルミアンの分析である。

多少の差異はあるかもしれないが、おそらく大きく間違っていることはないだろう。


「動けなくなったところを操る、ってのはどうやってやるんだ?」


タツミは次に気になったことを聞く。

自分たちが魔人によって操られてしまうことは絶対に避けたい。

相手の操る為の所作を知っていれば、防げる可能性だってある。


「奴の操る虫を対象の首の裏に取りつかせる。そしておそらく針を刺して何らかの液体、もしくは魔力を注入するのだろう。そのようにして操っていた。少なくとも私の前ではな。」


「首の裏・・・か」


タツミは呟く。

もしかしたらベイドンの街で戦ったグロリアスモンキー達も首の裏に握り拳大の大きさの虫が取り付いていたのかもしれないな、とタツミは考える。

あの時は、グロリアスモンキーの首の裏まで見る余裕など無かった為、まったく気付かなかったことではあるが。


「もちろん虫に取りつかれたとしても動けるうちは引きはがすことができる。故に動けなくなるほどダメージを受けるまではタツミ達が操られることを危惧する必要はないだろう。実際、私達もそうやって防ぐことができたからな。」


「なるほど・・・」


実際、目の前にダルミアンを含めた三人がそのまま帰ってきている、ということが彼らが操られなかった、ということの何よりの証である。

この情報はかなり大きい。


「最初のウチはグロリアスモンキーと奴を引き離すことに成功していた為、まだなんとかなった。しかし時間をかけるに連れ、キースの方にいたグロリアスモンキー達が段々と魔人の方に呼び寄せられ、奴の操る対象があっという間に増えてゆき、最終的に私達三人では手に負えなくなるほど大群の猿共を引き連れ、それを操り攻撃するようになった。」


「つまり・・・倒すなら速攻か」


「うむ。そうだ。奴を倒すのであれば奴の戦力が整う前に倒してしまう他ないだろう。もちろん、倒すのが目的ではなく、あくまでも時間稼ぎが本題だ。タツミよ。奴が何か動物を操りだしたら、その数が手に負えなくなる程増えるまでに一匹ずつ潰してゆくのだ。」


ダルミアンはそれこそが必勝の法であると言わんばかりにタツミに伝える。


「奴の操る虫自体の攻撃力なんてものは知れている。強力なのは猿共の攻撃だ。」


ダルミアンはそう言うと、周囲へと目を配る。

まだ魔人がこちらへと来ている気配は無いが、そろそろゆっくりしていられない頃合いである。


なんとか、魔人に追いつかれる前に移動を開始したい。


「要は猿を増やさない。増やされる前にケリを着ける。ってことだな。わかった。」










なんてことをダルミアンから聞いていたのを思い浮かべ、脳裏にイメージを思い浮かべる。


「た、タツミ様・・・」


脳内で戦闘のイメージを整えていたタツミに、エリスが少し慌てた様子で声をかける。


「どうしたエリス?」


タツミは小声でエリスに慌てている理由を問いかける。


「あ、足音が・・・その、一つじゃありません。」


「!?」


エリスの報告に、タツミとハルベリアは驚きを隠せず、焦った様子を見せる。


「この音・・・かなりの大群です。」


タツミは肝心なことを失念していたことに気付く。


ダルミアンが当初、魔人と一対三で戦うことが出来たのは、偏にキース達がグロリアスモンキー達を引きつけていたからにすぎない。


キース達の前から撤退し、ダルミアンと戦う魔人の下へと集った操られしグロリアスモンキーの集団、そして街を襲った集団、さらにダルミアン達を追ってる間にも順調に森に棲む生物達を操り、増やしていたのだとすれば。


その数はすでにタツミの手に負えるものでは無い。


そう、ダルミアンの場合とタツミとの場合とでは、

そもそもの戦闘開始の状況がまるで違うのである。


「おいおいおいおいおいおい、ちょっと待て。」


「タツミ様、ここは一旦退きますか。」


ハルベリアがタツミに小声で提案する。


タツミは眼を閉じて冷静に考える。


「もう少し下がって作戦を練り直しますか?」


エリスも足音を聴き続けながらタツミに一時撤退を提案する。


「・・・いや」


タツミは眼を開け、エリスが見ている方向、つまり魔人が向かって来る方向へと目線をやる。


「アイツに時間をやる訳にはいかねぇ。この辺にはもう操れる動物なんていないのかもしれないが、それでももっと増える可能性だってある。そしたらもっと手に負えなくなる。」


段々と獣達の無造作な鳴き声がタツミの耳にも聞こえてくる。

着々と距離が詰まってきているのであろう。


「当初の予定通りここで迎え撃つ。」


数百は下らないであろう無数の獣の群れの雄叫びが森に響き渡り、その行進が周囲の大地に地響きとなって響き渡る。




圧倒的な物量を持って、魔人がタツミ達へと近付いてきていた。



書き始めてから早、2週間程経ちましたが、お陰さまでユニークが通算500を超えそうです。このサイトに載っている方々の素晴らしい作品と比べると大した数字ではないかと思いますが、私としては大きな一歩です。

1000、2000、あわよくばもっと上を目指してこれからも頑張っていきたいと思います。

いつも読んでいただいてありがとうございます!

そして、これからも『父親が勇者なんだけど肩身が狭い』をよろしくお願いします。

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