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1-12 【赤の騎士】

「俺の邪魔をするな!」


キースが銀の剣を振り下ろす。


「見えてんだよ!」


タツミは左腕でキースの手首を掴み、キースの攻撃を止めると、右手で握っている長棒を使ってキースの顎を一撃。


「ぐっ!」


肉体の強化によって、ダメージはかなり抑えているものの攻撃を受けた反動でキースの顔が上を向く。


「はぁぁぁぁあああ!!」


キースが吹き飛ばないように手首を掴んだままのタツミの攻撃は続く。


ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!


右手に握った長棒による高速の連打がキースの胴体に降り注ぐ。


「ぐふぅ・・・」


連打を受け、よろめくキース。


「とどめだ!」


最後の一撃を入れる為、両手で長棒を持ち、渾身の一撃を放つタツミ。


「図に・・・」


タツミの足元に魔法陣が浮かび上がり、その中央から火の粉が舞う。


「!?」


足元から熱を感じ、攻撃を中断しつつ、足元の魔法陣の円の中から離れようとするタツミ。


「乗るなぁ!!」


キースが叫ぶと同時に炎が音を立てて空へと柱のように突き上がる。


「ちぃっ!」


攻撃の最中だった分、逃げ遅れた右足が炎に呑まれ、タツミに激痛が走る。


「逃がすかよ!」


キースは続けざまに銀の剣で空中に魔法陣を描く。

描かれた術式から氷の礫が無数に放たれる。


タツミはその礫を、長棒を扇風機のように振り回して防ぐ。


しかし、その圧倒的な礫の数を、長棒をかいくぐった数発が、防ぎきれずにタツミの皮膚を穿つ。


このまま礫を受け続けるのは不利、とタツミは長棒を回転させつつ駆けて移動。


「ふーっ」


一旦距離を取った形になり、タツミは息を吐き出す。


「けっ!」


キースもタツミが自分の攻撃範囲から出たことで礫の放出を止め、次の行動に備える。


タツミが魔力によって身体強化を施し、肉弾戦を得意とするならば、コディはその逆、身体強化よりも魔力の放出を得意とする魔術師タイプ。


そして今タツミと相対しているキースは、その身体強化と魔力放出を同様のレベルで行うことができる万能タイプの人間である。


どちらも高いレベルで扱うことができるキースではあるが、身体強化ではタツミに、魔力放出ではコディに分がある、という悪く言えば器用貧乏なところもある。


故に肉弾戦へ持ち込むことができればタツミは優勢に戦闘を進めることができるが、少し距離を取ってしまうとキースが圧倒的有利な立場になる。


昔からよく絡んできた相手である。


お互いにどういった戦闘を好む傾向にあるのか知っていると言っても過言ではない。


「キース、お前には失望した。お前がその洞窟の奥で沢山のグロリアスモンキーの子供たちを捕まえたことによってベイドンの街がどうなったのか知っているか。」


「駄馬風情が俺の名を気安く呼ぶな。なぜ、この俺が小さな街一つごときを気に掛ける必要がある?」


キースが当たり前のことを聞くな、とばかりに答える。


「お前は、子を全て奪われて怒り悲しみ、人を恨んだ末に街を襲ったグロリアスモンキー達のことも何も思わないってのか・・・」


タツミはキースへと怒りをぶつける。


「そもそもそれが馬鹿らしい話だ。なぜ気付かん。お前も同じことをしようとしていただろう。タツミ。」


キースは嘲笑しながらタツミに問いかける。


「まさかお前はこの猿達と会話でもして、猿共を納得させた上で子供を一匹預けてもらうつもりでこの森を目指していたのか?あぁ?同じだろう?お前も、奪うつもりでいたんだろう?奴らから!そこに何の差がある?」


「・・・っ」


キースの指摘にタツミは言葉を詰まらせる。


「お前が怒る理由は何だ?街が襲われたからか?それとも猿達が怒り悲しんでいるからか?俺の方が先に子を手に入れたからこそ、原因は俺であるかのようにお前は言うが、お前が先に一匹でも子供を奪っていれば同じように猿達は悲しんでいただろう!街は襲われただろう!違うか!?」


キースを否定する言葉が見つからないタツミに、キースは言葉を続ける。


「大事を成す前に小事を鑑みるな。貴様も王城で侍従から教えられたはずだ!『試練』を達成するという大事を前にすればそのようなことは小事にすぎん!」


「・・・」


「貴様はいつもそうだ。大事よりも小事に拘る。だから俺と衝突する。だから俺は貴様が気に入らん!」


ふん、と鼻を鳴らし、見下した眼をタツミに向けるキース。


「確かにお前の言う通りだよ、キース。」


キースの言うことに同意を示すタツミ。


「俺の方が森に着くのが早ければ、多分俺もグロリアスモンキー達から子を奪ってそのまま王都へ帰っていただろう。それに対してグロリアスモンキー達は怒り、悲しみ、街を襲っていたかもしれない。俺たちにとっては『試練』こそが大事で、それが原因で起きるそういった事は小事なのかもしれない。それは俺も認める。」


キースは同意を示したタツミに対し、俺の言った通りだろう見てみろ、と言わんばかりの表情を向ける。


「だが・・・どんな小さなものだって、積み重なるから今がある。どんな大きなものだって、小さなことを積み重ねて完成するんだ。だから、拾えるものは拾っていく。小さくても、大きくても。それが勇者だって、俺はグレースから教わった。」


キースの言っていることは間違ってはいない。と、正直タツミは思う。

しかしそれは、幼い頃よりグレースから教えられた『勇者』という姿とは遠いように感じていた。


「勇者なのだぞ!?俺たちは!!大きなことを成し遂げる際に起きる小さな不都合は、俺たち勇者が考えるべきことではないだろう!そういうことを考えるのは物語に名前すら出てこない、下の者がやるべきことだ!自分の立場をわきまえろ!タツミ・ウィルフレッド!!」


自らの意見を間違ってはいないと認めつつも、それに従うことを真っ向から否定してくるタツミに対し、キースが怒りを抑えずに叫ぶ。


「もし、俺が先にグロリアスモンキーの子供を捕まえて、それが原因で彼らが街を襲ったのだと知ったら、俺は間違いなく彼らに子供を返す。言葉は通じなくても、謝る。そしてその上で、何とか別の『試練』を達成する方法を考えてみる。俺はそうする・・・いや、そうしたい!」


ギリッ


歯ぎしりを立て、怒るキースを前にしてタツミは続ける。


「大事も小事も全部うまくやる。それが勇者だって、俺は信じてる!!」


キースの言うことを正しいと思いつつも、納得いかなかったタツミであったが、会話するうちに自分の中で納得のいく結論にたどり着く。


長棒を握るタツミの腕に、もう迷いは無くなった。


「だから貴様は駄馬なのだ・・・やはり貴様を『試練』に合格させる訳にはいかん。」


それに対し、キースも剣を握る腕に力を込める。


「そんな甘い考え方をしている奴に、俺たちと同じウィルフレッドの家を背負って生きるのが務まるとは到底思えねぇ。決めた。お前はここで、この俺が、ぶっ殺す!!おぉい!テメェらぁ!出てこい!!」


キースが洞窟の中に向かって声を上げると、洞窟からの中から5人の人間が外に現れる。


「あの駄馬を、タツミ・ウィルフレッドを殺せ。」


自分よりも大きな大剣を担いだ男。

最初にこちらに矢を射かけた少年。

赤髪に赤い鎧を着た女性。

鋭い眼光をこちらに向ける長身細身の男。

そして黒髪が無造作に束ねられ、その先が洞窟の奥まで伸びている背の低い女性の5人に対してキースは命令を下す。


「いいんですかい?大将。ウィルフレッド家の方なんでしょう?」


大剣を担いだ男がキースに問いかける。


「構わん。俺が許す。」


キースは答える。


「御意」「おおせのままに」


最初に、こちらに矢を射かけた少年と、鋭い眼光の長身細身の男の二人が命令に同意を示す。


「あの~私はどうしましょう。」


黒髪を無造作に束ねた背の低い女性が、キースに判断を仰ぐ。


「お前は良い、中で猿共を捕まえていろ。」


「はい~」


そう返事をすると、彼女は自分の髪が伸びている方、つまり洞窟の奥の方へと消えていった。


おそらく今の会話から彼女がグロリアスモンキーの子供達を捕まえているのであろうことが予測できた。


「・・・」


赤い鎧を着た赤髪の女性は、ちらっとタツミを見、ふっと微笑んだだけで無言。



「エリス!力を貸してくれるか。俺はコイツを止めたい!」


洞窟から出てきた5人、と言っても一人は奥に引き返していったので実質4人が戦闘態勢に入ったのを感じタツミはエリスに声をかける。


「はい!タツミ様!」


エリスがタツミの隣へ移動、戦闘態勢に入る。


「相手は勇者になるには程遠いような駄馬と、忌まわしき亜人の二人だけだ。さっきまで戦っていた奴よりは全然楽に・・・おい、どこへ行く。レオネル!」


キースがまだ話し終わらないうちに、レオネルと呼ばれた赤髪の赤い鎧を着た女性がタツミの方へと歩いてくる。


「・・・?」


攻撃の意思が全く感じられないまま、こちらに歩いてくる彼女に対して警戒するタツミとエリス。


「初めましてタツミ・ウィルフレッド。私はハルベリア・レオネルと申します。私を覚えておられますか?」


予想外の自己紹介に、タツミは面食らいながらも彼女を見る。


「えっと、どこかでお会いしたような記憶は・・・・あ」


よく見るとこの赤髪の女性に心当たりがあった。


成人の儀が始まる前、キースがタツミに絡んできた際、キースと会話していた女性である。


あの時は式用のドレスを着用しており、今は赤い鎧を着ている彼女を咄嗟に思い出すことができなかった。


「成人の儀の前に、姿だけ見かけた覚えがあります。」


タツミは答える。


「記憶の片隅に覚えていただき光栄に存じます。」


彼女はそう言うと、不意に膝を付く。


「え?え?」


謎の行動にタツミは焦る。


キース達も何が何だかわからない様子でこちらを見ている。


「王城の騎士長を勤めるレオネル家が長女、ハルベリア・レオネル。タツミ様の配下の末端に加えていただく存じます。」


「・・・は?」


その場にいる全員が口を開けてポカンとしている。


「でも君はキースの配下で、今さっきその洞窟から出てきて、赤い鎧がえーっと?」


少し混乱して自分でも何を言っているのかわからないタツミを尻目に彼女が続ける。


「騎士の家系に生まれ、女であるが故に騎士長への道を諦めざるをえないかと思っておりました。しかし、あの時、自分の立場に全く負い目を感じず、生まれの不条理を受け入れ、それでも尚、他のウィルフレッド家の者と対等であろうとしたタツミ様の言葉に心を打たれました。キース様に付いていたのは、彼に付いていれば必ずタツミ様と会えるだろうと思って行動を共にしておりましたが故にございます。あの時はタツミ様と会話する時間がありませんでしたので・・・」


「何をふざけたことを抜かしてやがる!!」


キースがこちらへ向かって怒声をあげているのがわかる。


「タツミ様・・・?」


ハルベリアの行動を受けて、動きが止まってしまったタツミにエリスが声をかける。


タツミは考えていた。

ハルベリアが真っすぐに、こちらへ真摯に本心を打ち明けている。


おそらくこれは嘘偽りない、彼女の本心なのだろう。

打ち明けたタイミングに謎が残ること以外は、彼女を信じない理由がタツミには無かった。


何よりもタツミを騙すつもりであるなら、5人対2人のこの圧倒的に不利な状況で、不利な方へ味方するメリットが見つからない。


「俺でいいのか?」


タツミは問う。


「心がそうしたいと、望んでおります故。」


ハルベリアは答える。


「えぇい!あの女ごと奴らを潰す!!」


キースがしびれを切らし、配下の3人に攻撃命令を下す。


数本の矢が複数同時に放たれると共に、大剣を持つ男と長身細身の男がこちらへ向かって駆け出す。


「宜しく頼む。」


タツミはそう言って、片膝を付いているハルベリアの頭に触れる。


「はっ!」


返事と共に振り返り、ハルベリアは剣を抜く。


「騎士長より伝えられしこの力、存分にお使い下さい!」


そう言って彼女は剣を飛来する矢に向ける。


ファンッ!


矢は空中で何かに弾かれるように威力を失い、地に落ちる。


「でぇぇぇぇい!!」


大剣を持つ男がハルベリアへと、その剣を振り下ろす。


「はっ!」


その一撃を剣で受け止めるのではなく、いなすことで大剣は大地を穿つ。


「ぐはっ!」


攻撃を放った直後の大剣の男の横腹に蹴りを入れ吹き飛ばすハルベリア。


「隙あり!!」


今度はそんな彼女が大剣の男に攻撃した隙をついて、長身細身の男が両腕に魔力を宿しながらハルベリアの腹部に一撃を入れる。


ゴッ!!


「ぎゃぁぁぁああああああああ」


しかし、驚くべきことに悲鳴を上げたのはハルベリアではなく長身細身の男の方。


両腕から血を流しながら、長身細身の男は距離を取るために離れていく。


反対に攻撃を受けたはずのハルベリアの腹部には、無傷の赤い鎧がその存在を主張している。


「父上が私に持たせてくれた無法の鎧だ。魔力を纏った拳を私に放ったのだろうが、この鎧はその辺の下級魔法程度なんぞは通さんぞ。」


つまり、男はほとんど素手で鎧を殴ったことになる。


「す、すごい・・・」


エリスとタツミが一歩も動くことなく、キースの配下3人の同時攻撃を一旦しのぎ切ったハルベリアを見て驚く2人。


「王城を守りし騎士を束ねる騎士長より受け継ぎしこの力、存分にお使い下さい!タツミ様!」


タツミの目の前、


そこには心強い味方が、こちらに背を向け立っていた。



誤字を見つけた為、修正しました。

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