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二人のまともじゃない出会い

 ――スッゴくチャラチャラしてる。


 有坂莉子は、目の前でガムシロップたっぷりのアイスミルクティを飲む青年をじっと観察した。

 同年代だから、16、17歳くらいだろう。均整のとれた体と整った華やかな顔立ち。流行の髪型に気取らない服装。それでいてどこか清潔感がある佇まいは、はっきり言えば格好いい部類だ。口元にたたえた笑みも人懐っこく、誰もが好感を抱くだろう。

 だが莉子は苦手だと思った。初対面の人間にお茶に誘われてついてくる所なんか特に。誘った当人が言えた義理ではないが。


「あ、すみません」

「いえ、こちらこそ」


 青年と出会ったのは、ほんの十分ほど前のこと。

 駅前の、出入り口が本棚にふさがれた書店。よけ違いざまに肩がぶつかり、定型文のようなやり取りをしてから通りすぎようとした、その時。


 脳裏にひらめいたのは、断片的な映像。

 薄暗い道を一人歩く青年。車のヘッドライト。ハイビームなのか、辺りが真っ白になるほど明るい。運転手の顔も見えない。車はスピードを落とさないまま、青年の方へ――


「あの、大丈夫ですか?」 

 うつむいて動かなくなった莉子を、先ほどの映像と同じ青年が、気遣わしげに覗き込んでいる。

 ほんの少しためらった。何を言っても変な顔をされることは目に見えている。けれど、見過ごすことが自分にできないことも、よく分かっていた。莉子は思いきって顔を上げた。

「あの、よかったらお茶でもしませんか?」

 言った途端に後悔が込み上げてきた。それこそ定型文だ。しかも、相当使い古された、ナンパ目的の。

 その時の苦い気持ちを思い出してしまって、眉間を軽く揉んだ。今は目の前のことに集中しよう。

 莉子は改めて向き直った。

「私、有坂莉子と申します。突然誘ったりしてすいませんでした」

 一応礼儀を重んじ名乗っておく。青年の方も慌てて頭を下げた。  

「あ、オレは大上樹です。よろしく」

 何がよろしくなんだか、と思いながら、莉子は早速切り出した。回りくどいのは好きじゃない。 

「あの、私、未来が視えるんです」

 大上が凍り付いたのが、顔を上げなくても分かった。想定内のことなので一方的にまくし立てた。

「正確なところは分からないけど、夕方です。あなたは車にひかれそうになる。とにかく歩道のない道は通らないとか、夕方は出歩かないとか、それだけでいいんです。信じてくれなくてもいいから、気を付けてほしい」

 大上は何も言わない。分かっていてもこの沈黙が何より辛い。いたたまれなくなりその場を立ち去ろうとした、その時。

「つまり、助けてやるんだから診断料寄越せとか、そーゆう?」

 思わず振り返ると、大上は難しい顔で莉子を見上げていた。

「⋅⋅⋅えっと。そんなつもりないけど」

「そっか。ならいいや」

「⋅⋅⋅え?それだけ?もっと引かれると思ってたんだけど」

「引かれると思ってて、それでも声かけてくれたんでしょ?ホントかどうかはともかく、その気持ちが嬉しいじゃん。めっちゃいい子だよね。しかもかわいいし。いやぁ、オレってツイてる~」

「⋅⋅⋅へ?」

 事故に遭うかもと言われたのにツイてると断言できる神経がスゴイ。温度を下げる莉子の視線の先で、彼は大型犬のように笑った。

「ねぇねぇ、連絡先交換しよーよ」

「お断りします」

「ええ?そこまで言っといてあとは放置?この先オレがどうなってもいいと。やっだ~、冷た~い」

 きっぱり断っても、大上は全く落ち込んだ素振りを見せない。どころか、状況を見事に利用している。

 ――なんて厚かましい奴。

 莉子の視線は冷たくなる一方だが、彼はものともしない。

「莉子って呼んでいい?」

「駄目です」

「えー、冷てぇなぁ。じゃあ、莉子ちゃん」

 ――莉子ちゃんも許してない!!

 テーブルの上のこぶしが震えた。あまりの図々しさに声も上げられない。

「莉子ちゃん、家はどの辺なの?オレは坂槻」

 坂槻というと、莉子が住んでいる場所からごく近所だ。僅かに顔をしかめるのを、大上は見逃さなかった。

「あ、もしかして近い?やった、じゃあ明日デートしよーよ。放課後デート」

「やだよ」

「一緒に帰ろーよ。オレ星田高校なんだ。校門前で待ち合わせね」

「だから、やだって⋅⋅⋅」

「約束ね。ずっと待ってるからねー」

「ちょっ⋅⋅⋅」

 ミルクティを一気に飲み干すと、大上は振り返りもしないでそそくさと立ち去ろうとする。こちらの言い分などまるで無視だ。

 莉子は一人頭を抱えた。もちろん、行かなければいいだけの話なのだが――。

 

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