うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
何を考えるわけでもなく、妙に汚い雲を眺めていた。黒くて、不思議な形をした雲。
秋の空には似合わない変な雲。
あ、雨粒――
「なあぁぁぁぁぁぁぁぁっす!?」
――茄子が降ってきた。
茄子だ、ナス科ナス属の果実が降ってきた。黒くてつやつやした瑞々しい茄子が降ってきた。茄子好きには夢のような話だろうが、残念ながら自分としては歓喜するほど茄子は好きじゃない。
降り注ぐ黒光りした果実。日本で千年以上も栽培されている茄子が大量に。そのほとんどが水分で構成された茄子がそれはもう山のように降っている。
今日の天気は晴れのち茄子。庭に回収用の籠を置いておくといいでしょうだなんて、お天気お姉さんは言っていなかった筈である。ああ、放送局に抗議の電話でも入れておこう。
「今日の晩御飯は麻婆茄子かな……麻婆胡瓜とかが良かった」
ぽりぽりと、頭を掻きながら黒いジャージを着た女性が向かいのベランダで呟いていた。
麻婆胡瓜という言葉が、嫌に食欲をそそらないなと考えてから、山野田浩介は声をかける。
「佐藤さーん、これってどういう事なんです?」
山野田は水を利用した兵器、本人は玩具だと言っていたが。それで我が家の一部を破壊した変人に聞いてみる事にする。
「あぁ、山野田君か。私にもよく分からないよ?」
「はぁ…佐藤さんにも分からないことは有るんですねぇ」
「うん。さっきまで作っていたドアの行方も分からないよ。ワープ装置だったのに消えてしまって、困っているんだ。」
佐藤は、その手に持っていた瑞々しいキュウリを乱雑に齧りながら、ぼそりと言った。
「あ、それ原因かもしれませんよ、赤っぽい何かがあそこに浮いてます」
先ほど見ていた雲の間から、赤っぽい何かが浮いていた。
「いや、あれは落ちてきているね、茄子と一緒に」
「茄子の原因はアレじゃないですか?」
「参ったな、私はキュウリの方が好きなのに」
「そうですか。あのドア落ちたら危なくないですか」
「そうかも知れないね……まぁ仕方ない、諦めよう。」
キュウリの最後の一口を頬張りながら、佐藤悠木は部屋の中に入っていった。