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20 各々の修練

 武器毎に分かれた為、僕は杖を主とするグループへと向かった。アーセナルは剣から杖へと変え、此方をメインにすると主張すると、あちらこちらから視線が集まって来た。彼等には本当に二種登録する人間が居るのかという驚きと、それを同級生である僕がやっているという戸惑いがあるのだろう。まぁ、正直武器を二種類極めるとか非効率だし、器用貧乏で終わりかねないから普通はやらないしな。


「ローゼンフォール君、君は杖ではどの位戦えるのかな?」


 杖担当なのはやはり女の先生だった。今まで授業を受けた事のある人じゃないからそう詳しいことは知らないけれど、確か美術系の先生だ。……美術なのにある程度人に教えられる位武術が出来るのか。この学園本当に教師のレベル高いな。こんな清楚系で可愛い先生なのに、杖=棒術が出来る、と。


「杖ならさっきよりもメイと接戦出来る程度には。魔法有りなら勝てます」

「あらー……となるとこの授業多分暇よね」

「と言われても出ないと単位出ないんで……」


 ちらりと剣の方を見ると、メイとアル、あと数名暇そうに見ていた。やっぱりこの授業、非効率的だよな。出来る人間はアーセナルに慣れちゃえばそれで済むし。基礎さえ出来てれば残りは実戦で感覚掴んでいくしかないし。


「となると本当にどうしようねぇ。君が教官役をやってくれてもいいんだけど―――」

「ア、リーン君好きに使って下サイ!その子感覚で棒術やってるので正直教えるには向きませんケド」


 ……リトスの声に先生が更にどうしよう、という視線をこっちにやって来た。こういう時ってこっち見んなって言えばいいんだっけ?言わないけど。


「教えるの、苦手?」

「……はい。元々実戦で覚えたので、正直どう教えればいいか分かんないです」

「たまに居るよね。あの時代的に覚えなきゃならなかった口の子。でも、ローゼンフォールなのに?」

「ローゼンフォールだから、です」

「あー……」


 こんな優しそうな先生にまで「あー」って言わしめるかローゼンフォール!憐みとか、呆れとか、諦めとかその辺の感情が籠った生温い視線、とても覚えがあり過ぎる。婿入り、嫁入りしてきたローゼンフォールの人間が必ず味わうこの目、正直とても突き刺さります。くどいと思える程に我が家の人間は憐れまれる。


「そうなると……魔法の練習でもしてる?勿論攻撃魔法は駄目だけど」

「そうします。皆が杖媒体で術使う様になったらサポート回りますので」

「あぁ、それは教えられるんだ。有り難いわ。となると一月―――下手したら二月暇だけど、耐えてね」

「はい。ご迷惑をおかけしてすみません」


 という事でこの授業、当分暇になった訳だ。メイも同じような方針になったようで、魔力固めて遊んでる。アルはどうやら教官役に回ったようだ。構え方の修正をやってあげてる。

 それなら僕はメイでも鍛えてるか。魔法使って良いんでしょ?

 暇そうなメイが顔を上げた時に、掌を上に。くいくいっと指を曲げれば不思議そうな顔をしながらもやって来る。ヴィレットは(混血化が進んでしまっているが一応)多民族国家とはいえ、この手のボディランゲージが同じ点は助かる。少し広めの余ったスペースへ誘導すると、なんだよ、と言われた。


「メイ、暇なら風属性教えるよ」

「え!?いいのか!てかお前教導に回んねーの?」

「君と同じく回れない、が正しいかな。剣なら教えられたから同じ要領で教えられるけど、杖は実戦繰り返して覚えたしねぇ」

「分かる。気付いたら剣使って戦ってたのに、どう動いてるとかそんな考えてねーよな。骨身に沁みてるっつーか、反射で動いてるっつーか」

「そうそう。体で覚えてるものに具体的な説明加えるって難しいよね。こうきたらこう動いて、って伝えても素人に分かる訳無いんだし」


 この通り教えるのが下手、という理由で僕は軍でも教導隊に呼ばれない。そもそも上層部の人間以外には僕の存在―――ましてや【聖痕(スティグマ)】のことなんてトップシークレット扱いで教えられてないから、教導出来る人間も限られているんだけど。

 互いに教官には向かない事を苦笑しつつ確認してから、さて、と話を戻す。風属性、教えると言ったものの、土属性のメイにはどう教えようか。


「んー……そもそもメイ、【風】の何が苦手?」

「何って、あー、イメージのしにくさ?見えないって辛いよな」


 やっぱり。風属性の人間以外は大抵ここで躓くんだ。魔力は人が生まれつき持つ【基本属性】―――要は、火水土風―――とそれらから二種の魔力を混ぜる事で使える【応用属性】―――光氷石雷―――そして、それらどれにも当て嵌められないと除外された【無属性】の計9種類に分かれている。生まれつき多い魔力ってのが勿論あって、最も多い属性が使いやすい事が通常だ。それら個人の属性は完全にそうではないのだが、血縁で同じ属性になりやすい、という傾向はある。メイの実家フォロートは土属性、ヴィレットは水、ゼラフィードは水と他の家と比べると風も多い。ローゼンフォールは火。

 で、逆を言えば一番少ない魔力のものが一番使い辛い―――かと思いきや、風がダントツで使えない、つまり魔力を引き出す事が出来てもそれを術式的に使う事は出来ない事が多い。その理由はメイが言った通り‘見えないからイメージしにくい’ため。


「そこで躓いてるって事は、メイはやっぱ感覚派なのか。理論でガッチガチの人は発動してから悩むからなぁ」

「へー。発動以前に使えねーよ、オレ」


 だろうな。そもそもコイツが頭使って何かを出来るとは欠片も思って無いから何もおかしくない。そもそも魔術がこれだけ普及してる世の中、理論詰めで使ってる人間が果たしてどれだけいるのだろうか。僕とリト位か、理詰めで使ってる傾向に在るのは。


「となると、感覚で【風】を認識してもらうのが一番早いかな。大丈夫、野生児ほど早く覚える傾向にあるから」

「お前一応貴族のオレによく野生児なんて言えるよな……いや、合ってるけどさ……」


 自分でも一応とか言っちゃうあたり無駄な主張だ。恨めしげな目はスルーして、次の説明に移る。


「じゃあまずは魔力の流れを感じて貰うよ。魔力によって起こされた【風】の流れ、強さ、あとは嗅覚で捉える人も居たな。兎に角、五感を使って感じてみて。で、何か分かったなって思ったら自分の魔力を僕が流す【風】に同調させてみて」

「同調……?よく分からんがやってみる」


 不思議そうではあるが、素直に五感に集中してくれたので僕も魔力を練り上げる。辺りの生徒に迷惑かけちゃいけないから、精々が微風レベルで。最初は一定の方向、でも途中から右へ左へと流す様に。

 目を閉じて集中するメイの髪が風に煽られ揺れる。僕の括ってあるものの腰まである髪も同じようになびき、僅かに乱れて行くのが分かる。もう少し強弱つけてみるか。


 数分そうして黙っていただろうか。す、とメイが手を伸ばし、多すぎる気もするが魔力を宙へ流していく。風、というかただの魔力の塊のようなそれが次第に【風】に乗り始め、ただの無色の魔力から【風】の魔力に変化していく。一際強く吹く【風】を他の場所へ逃がさないよう僕の方で纏めあげると、その流れにすら乗り始めた。成功だ。


「メイ、目を開けて。今の感覚分かった?」

「ん……?おう?もやーっとだけど、多分?ふーって来るヤツにふわーってするとちょい風が強くなるから多分これで合ってるんだよな?」

「擬音語の辺りは個人差だから良く分からないけど使えてたから合ってるんだと思うよ。今のが【風の魔力】、動かし方もなんとなくでも掴めたでしょ」

「ぼやーっとだけどな」


 納得いかなさそうな顔をしているメイに苦笑して、それは仕方ないことだと声をかける。この短時間で完全に使えるようになるなんて思ってもいないし、それが出来る人間が使い方に迷ったりしてなかったろう。第一、この早さで覚えた事が少し驚きだ。10分強で感じる通り越して動かせるようになるなんて、中々にセンスあると考えて良い。


「あとはそのぼやっとした感覚とやらを確かなものになるまで動かして練習して、はっきり使えるようになったら術に移す。そうじゃないと暴走したり強風過ぎたりするからね。今のだとちょっと魔力込め過ぎ。下手すると突風になっちゃうから」

「マジか、気を付ける。術式に関しては今やったらぜってー暴走させるからやらねぇ」


 真面目な顔で僕の忠告に素直に従ってくれた。こういう所がメイの良い所だ。素直過ぎて少し心配になる時もあるが、上手くこの素直さを保ったまま育ってくれれば領民に慕われる良い領主になるだろう。フォロートは革命の時も現フォロート侯の采配であまり被害が出なかった領の一つだ。この風潮を維持してくれると国政に関わる身としてはとても嬉しい。


 思わず口元を緩めながら再びコントロールに戻ろうとするメイを眺めて待つ。が、メイが魔力を流した辺りで怪訝そうに眉をしかめた。うん?


「あれ?今どう使ってたオレ。風の魔力ってどれだっけ?」


 あー……僕の魔力に乗せてただけだから、まだ自分で引き出す事までは行けてなかったか。視認できない風属性だけに関して言えば魔力を発現できる、というのはあくまでも‘何らかの成り行きで風の魔力を引きだせた事がある'だけ。その時にちゃんと使える人も稀に居るが、殆どの人が何故使えたのか分からないのだ。メイもその類で、もうしばらくは僕が付きっ切りの方が良さそうだな、と判断してもう一度微風を起こす。


「はい、乗せてー」

「あ、行けた」


 感覚で同調させてるから最初どうするかが掴めてないんだな多分。途中でこっちの魔力をふつりと止めてもそのまま制御してるし。うーん、となるとスイッチの入れ方をどう教えるか考えなきゃいけないか。このまま慣れてきたら自然に使えるかなぁ。もうちょっと誘導して慣れさせるか。


「じゃあ次はギリッギリ、風吹いてんのか?って位ギリッギリにして」

「いきなり難易度上がってね?」


 うんうん唸りながら少しずつ、というかカクカクと放出される魔力は減っていってる。が、あまりにも減らす事に意識が行き過ぎて完全に風も吹かなくなった。これただの魔力の塊だろ。若干【風】の色を留めてるだけマシだけど。


「メイ、風にして風に」

「うえ!?消えてた!?うー……やっぱりどうしてたか分かんね。誘導頼む」

「はいはい」


 僕は元来風属性だからスイッチの入れ方なんて言われなくても分かっていた。だからこそどう教えればいいのか少し悩む。こういうのが上手いリトは勿論新しい武器に目を輝かせる少年少女の相手を楽しそうにしているし、洸はメイと同じ野生児的なカンを持つから上手くいけば教えられるかもしれないが、アイツ小学校中退レベルの学力だからなぁ……それに今はリトと同じく教官役だし。

 メイのサポートをしつつ頑張ってる皆の方を見ていると、なんだか僕が剣を教えられていた時よりも上手いなぁと思う人も居て若干悲しくなってくる。才能無しの烙印押された僕は、当然最初からリトとエンスの生温い視線にさらされながら習っていた訳だ。

 お、ちょうどソルトがやってる。あのへっぴり腰じゃ駄目だな。でも払う時の筋は良い。事情があって選んだようだが、これは中々モノに出来るんじゃないか。


「リーン、何見て……ソルトか?ド素人って感じだな、アイツの動き」

「突く動きはね。でも横に薙ぐのは様になってたよ。何年か経てば僕の剣となら良い試合出来るかも」

「そりゃ楽しみだ。でもアイツ、途中で辞めたりしないよな?」

「訓練を?」

「いや、槍を」


 【風】は維持しつつも、真面目な顔でソルトを眺めるメイの瞳に少し驚く。新緑色のソレは何かを見透かそうとするように細められていて、少しだけフォロート侯が考え事をしている時に似ていた。親子ってやっぱり似るものなんだな、と親を知らない僕は少しだけ違う事を思った。


「武器を途中で変更しちゃうってこと?それとも、訳アリっぽいから」

「訳ありそうだから、だな。アーセナル貰った時アイツちょっと嫌そうだったろ」

「え、僕そんなの見てない」


 複雑そうだなぁとは思ったけれども嫌そう?そんな顔を見た覚えはない。どういう事だと目で訊ねると、メイは悩むように数瞬地面に目を遣り、それから僕の目をしっかり捉えた。少し声を落としたのはあまり広めない方が良いと判断したからか。


「なんつーか、オレも感覚的に嫌なんだなーって思っただけだから特別そういう反応見せた訳じゃねぇんだけどな。アイツがアーセナル手に持った瞬間、そんな感じがしただけで。普段はごくフツー……ってこの学園入れたんだから普通じゃないのは分かってるんだけど、まぁ一般人って感じの言動だろ?でも……そうだな、前に陛下の話に移った時とか、少し雰囲気変わった」

「どういう風に?」

「……怖がってるってか、怯えてる?」


 特段落とされたその声に、ヒクリと喉が鳴った。エンスへの恐怖?貴族の僕等へそんな反応無いって事は、王族だから?それとも革命期に何かあったのか?


「陛下にって、何あったのかと思って実は父さんに相談したんだけどよ。生まれた時からダノター領に居て、父親不明。母親は商人の家に生まれて一時期オルヴィエートに住んでたけど、ソルトが生まれる前の年にこっち戻って来て服飾雑貨で働いてる。んで後はテンプレ通りみたいなこの国の生活。ダノターだからテンプレよりちょい経済状況よくねーっぽいけど」

「よくそんな事調べたね……正直犯罪スレスレじゃない?」

「まぁちょっと他にも理由あったから調べついたっていう位には微妙なラインだな。お前は何にも調べたりとかしなかったのか」

「しないよ。だってわざわざそんな事する理由無かったし、時間も無かったし。てか他の理由?聞いて良いライン?」

「いや、アウト。これ言ったって事父さんにバレたら一発殴られる可能性もあんな。だから黙っててくれ」


 こういう所が貴族の嫌な所だよなぁ。お家の為の薄暗い部分はどうしてもあって、それは墓まで持っていかなければならない。もしかしたらそこまで重要じゃないかもしれないけれど、隠し事しなきゃいけない点は同じだ。

 そうは言ってもローゼンフォールとフォロートを不仲になんてしたくないので頷いて了承する。それにサンキュ、と返され、彼はさらに言葉を続けた。


「槍が嫌なら多分その辺に理由ある筈なんだ。ありがちな革命期のゴタゴタだとは思うんだけどよ、選んじまったって事は槍使いたい理由もあんだろ?だから正直辞めないでほしいんだよな。まぁオレのエゴなんだけど」


 感情に合わせて強まった風の所為で髪が顔にかかって鬱陶しい。風を制御しなおしてから、僕等はもう一度ソルトを眺めた。

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