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19 高みを目指す者

本日付で更新再開します。

 右手に馴染んだ剣を構え、ただただ楽しそうなメイを眼前に据える。生徒の様子は興味津々であるのと同時に、メイの超好戦的な目にドン引きする者、試合よりコウ達のが気になる者、純粋に僕の心配をしてくれてる者に分かれてるらしい。どんだけ僕弱く見られてんのさ。や、確かに見た目アレなんだけどさ。一応杖使って魔法飛ばすだけじゃなくて棒術辺りも齧ってますよ?言わないけど。


「ルールは魔法無し、純粋な剣技のみ。あとはまぁ、寸止めで止める事とフィールド内のみって事位だな。それ以外は好きにやってくれ。一本取った方が勝ちだ」


 考えるのが面倒だったのか、それとも僕等なら平気だと信頼してくれたのか随分フリーダムなルールだなと溜息をつく。多分前者5対後者1位だなとぼんやり考えながら、開始の合図を待つ。重心は下へ、力の無い僕でも威力に負けない様に。


「Ready……GO!!」


 キィン!!

 金属が重なり合い鋭い音が響く。案の定しょっぱなは鍔迫り合いになったが、メイの剣は本当に重い。このままだと押し負けてしまう。


「ぐっ……こ、のぉっ!!」

「おっと」


 一度メイから離れて改めて向かう。ヒット&アウェイの要領でお互い攻めて行くが、決め手が無い。避けて、迫って、避けられて。

 僕の剣はどうしても身体の問題上軽い。その上リーチの短い構造の影響で剣そのものが軽い。一方で身軽な為素早い攻撃が出来る点や、身長的にちょこまか動きやすいというメリットもあるが、毎日鍛えているメイにはこの書類仕事で鈍った体では到底デメリットをカバー出来ない。何せ僕の十八番は魔法で翻弄しながらの剣技だ。


「ははっ、なんだよリーン十分強ぇじゃん!」

「ついてくのがやっとなんだけどね!っと、剣なんて、まともに振るったの、半年振りだよ!」

「マジ?それただの宝の持ち腐れじゃね?うぉっ!?あぶねっ!」

「僕じゃ、どう鍛えても、これが、限界なんだって!筋力と身長的に!」

「あー……」


 何故黙る!

 分かってるさ、平均身長に余裕で到達してない事位!でも仕方ないだろ。こればかりはどう努力しても致し方無いもの。ましてや筋力なんて体質的に肉付かない身体なだけじゃなく、定期的に動けなくなってしまっている間にごっそり落ちてしまうのだ。強くなれない原因が強すぎる魔力とか本末転倒過ぎて泣けてくる。


 キンッ!キンッ!


 こんな間抜けな会話をしている間も勿論動きは止まらない。正面に迫って来る剣をどうにか紙一重で避け、顔の横の剣を思いっ切り僕のそれで弾く。一瞬がら空きになった脇へ攻め込むも、防がれまた鍔迫り合い。

 もうやだ、なんで僕【剣の一族】なんて相手にしてるんだろう。コイツ【ヴィレットの双剣】とか言われる家の片割れだよ。頭は残念でも武道は廃スペックだよ。


「リーン君やる気無くさナイ!あからさまにめんどくさそうな顔になってますヨ!」

「今、心底、メンドクサイと、思ってるもん」


 どんどんやる気を失っていく僕に気付いたリトが茶々を入れて来る。メイもムッとしてるが、そろそろ勝負つくの分かってるからいいじゃないか。僕にやる気があってもこれ負け戦ですよ。息上がってきたもん。


「リーン、ちゃんとやってくれよ!」

「はあっ、無茶、言わんで!も、疲れたよっとぉ!?」


 今頭上掠った。髪の気数本逝ってない?あ、切れ味鈍くしてあるから平気か。でも怖い。


 思惑も分かっていたし、無意識かつ流れるようにメイとのバトルを始めてしまったが、今更ながらに自分が剣を酷く苦手としている事を痛感している。剣が得意なエンスに連続30回位負け続けてブチギレて以来接近戦は諦めて来た道だと言うのに。その後魔導戦を主としてからは五分五分になったけれども。


 ―――と考えると、まだ両手の数に入ったばかりの子供(ぼく)とは言え、オーバーSに食らいつけるエンスは王族じゃなきゃ立派な軍人として大成出来たんじゃないか?まぁ彼が王族に生まれていなければ今頃この国は戦場か、それも終わって荒廃した土地になってたと思うが。あぁでも最悪ゼラフィード公が王を討って王朝新たに建てるって手もあったか。


 なんて考えてたら。


「ここだッ!!」

「っう!?」


 変な声が出たのは心臓部すれすれにメイの剣が突きだされたからだ。はてさて、やはり負けてしまったか。


「フォロート君の勝利!」


 洸が宣言した途端、わっと湧き上がる周りからの歓声。ふぅ、とお互い息をはいて得物を下ろし、一度礼をしてからぶつくさと言い合いを始めた。


「おいリーン、試合中考え事って酷ーぜ?」

「ごめんごめん、でもどっちみち僕の剣じゃ多分ちゃんとやってても結果は変わんなかったし、そろそろ試合結果ついてたはずだよ」

「て言ってもお前、苦手とか言っておきながら十分実用に耐えるレベルじゃねーか。―――あぁでもそうか、ローゼンフォールなら護身術として必要だったのか。あの家の人間扱いで十把一絡げにされんなら」

「言わないで……お願いだから一緒にしないで……」


 あの人達の同類扱いはほんっとうにやめて下さい。僕の心は硝子で出来てるんです。あんな防弾硝子通り越してダイヤモンドみたいな精神は持ってません。頑丈通り越して傷もつかない。寧ろ奇跡的に傷つけたらその角でこっちが抉れるあの精神、遺伝子の恐ろしさを垣間見る瞬間だ。

 顔を覆って必死の抵抗をしてるとパンパン!と手を叩いた音がした。顔をあげるとリトスが苦笑してた。


「ハイ皆サン、この試合で多少二人の実力は分かったことでショウ。リーン君ちょこっと手抜きしてましたケド、まぁ確かにあれではもって5分だったでしょうし許容範囲デス。という訳デ、メイ君私とやれますカ?」

「ッハイ!勿論です!」


 体力的にも十分余力がありそうなメイが嬉しそうな声で肯定した。ぎゅう、と大切そうに武器を握って顔を輝かせている姿は若干アブナイものを感じるが、そういう性質だという事にはかなり前から気付いていたのでスルーする。

 犬、と言っても差し支え無さそうなその態度に思わず吹き出す洸と、くす、と小さな笑いを漏らすリトス。前者はそのままニヤニヤと彼等を眺め、リトスは左腰に下がった得物を展開させた。

 彼の武器も、長剣の中でも特に長い部類に入るバスタードソード。メイの持つ剣でもあるこれは、その長さ故に重心が独特で訓練なしには使えなく、使用者に非常に負担がかかる本来騎士が持つべきではない剣だ。が、奴はあの細身なのに片手で軽々持ち上げて手足の様に振り回すのだから人間って本当に見た目じゃ分からない。Sランクオーバーだから人外説も確かにあるけど。いや、しかしメイもそれなりに振り回してる。あれ、アイツ人間だよな……?


「それデハ、始めましょうカ。実は私もリーン君と同じで魔術込みの方が得意な口なんですガネ」

「リト、それ嫌味?」

「失礼ナ、君と違って剣は苦手では無いデスケド、事実本領は魔法戦デスヨ」


 この後どっちが勝つか分かってるのにこの言い様。勝者のおごりではなく、ただ事実を宣言しただけというのが腹立たしい。僕は今まで彼に勝った事ないんだけどねぇ。尚、エンスは今の所2割位の確立で勝ててるらしい。アイツ本当に王様じゃなくて軍人やってた方が良かったんじゃね?

 僕等の戦いではそう傷つける事は無かったが、やはりリトス相手だと本気でかかりかねないメイの事を考え、空間保護の術式をもう少し強固なそれに変える。それに気付いたリトスが目元を緩めて目礼してくるのに一つ頷き、僕は観戦してる生徒達の方へ下がった。巻き込まれたくない。


「ルールはさっきと同じ。しいて言うならメイ君、首落とす勢いで攻める事を勧める。大丈夫、リトスは殺した程度で死ぬ奴じゃねえから」

「死にますヨ!!殺されたら流石に死にますヨ!?」


 重々しくコウが言ったとんでもない台詞にリトスが突っ込む。こんな時まで漫才せんで宜しい。お前等本性もう少し位抑えてろよ。初日だぞまだ。


「ほら、とっとと準備しろ。幾らなんでも構えもしないっつーのは失礼だろーが」

「貴方失礼って単語知ってたんですね」

「知ってることは驚かないけど使える事には驚きだなぁ」

「リーンも煩ェ!」


 何故か僕まで怒られたけど気にしない。

 目前のコントに目を瞬かせていたメイも、ここで一旦会話が落ち着いた事を悟ったのか改めて剣を構える。その姿にリトスは満足そうに頷き、同じように構える。両者が準備できたことで、洸がカウントに入った。


「3、2、1、Go!」


 キィィィンッ!!


 澄んだ金属音が一際高く鳴り響き、その後短くも連続した音が鳴り続く。片や踊るように、片や荒々しく。リトスは自ら仕掛けようとはせず淡々とメイの攻撃を受け流し、時には攻撃する事もあるが、それはメイが打ち合える速さで。首や心臓といった急所をしっかりと、それこそギラギラした目で狙うメイの攻撃はとても鋭いが、軽くあしらわれているのが分かる。ワルツでも踊っているかのようなリトスも楽しそうなので、案外似た者同士なのかなとも思う。


「メイ君、脇締めテ。重心をもう少し左ニ。ソウ、そうデス」


 あれだけの猛攻撃を食らいながらも、メイの動きを見てしっかりとアドバイスが出来るのだから流石は教官殿である。軍で毎日教えられてる生徒は幸せ者だろう。あそこまで優しく扱われているかは知らないけど。

 僕も一応リトスに習った身ではあるから、彼が本当の【天才】だということは骨身に沁みている。きっと今あの楽しそうな顔の裏で頭脳がフル回転しているのだろう。どうすればメイに最適な剣を教えられるのか、どうやればあの攻撃の鋭さは増すのか、どうして彼があの攻め方をしてしまっているのかと。リトスは元来脳筋じゃない。寧ろ理詰めの人間だ。理論で考えた動きを高い運動神経が可能にし、人外と称される魔力でブーストする。それが自分にだけじゃなくて他人にまで働くのだから、本当に頭が上がらない。普段はバカのようなのに。


 キィン!!


 また高い金属音。二人とも楽しそうな点は何よりなのだが、そろそろメイの手数が減って来ている。もう暫くすれば潮時だな、とぼんやり見ていると斜め後ろから声がかかった。


「リーン君、メイ君今若干ハイになってません?」

「なってるねぇ。体力配分間違えてるよ、アレ。最初から全力全開過ぎ。余計な力入ってる。でもリトは敢えて指摘してないんだろうなぁ、性格悪い」

「はー……俺から見てるとぜんっぜん分かんね。次元違うだろアレ」


 それなりに戦えるアルが指摘した事実に肯定する。しかし素人のソルトはそんな把握は勿論出来なかったようで、呆れたような目で試合を眺めていた。こういうものは自分が出来るようにならないと本当の凄さは分からないからそれも仕方ない。これを数年後に見せたらメイの規格外さも伝わるのだろうと思うと少し惜しい。この映像、魔導具に残しておこうかな。


「同じ武器なのに戦い方って違うのねぇ。メイ君はこう……勢いで戦ってるみたいに見えるけど、コーラル少将はステップ踏みながらって感じ?」

「お、ネリアさん目良いね。その差って、勿論剣術の差って意味もあるんだけど、それ以上に実力差なんだよ。リトはメイの動きをしっかり観察して、何が悪いか全部見極めた上で攻撃受け流してるだけ。たまに攻撃してるのは行動パターン読むためだろうね。で、メイはひたすら攻撃。守ってたら絶対負けるって分かってるからね」


 その解説に周りの生徒もほぉー、と感心した声を漏らした。うん、君達にこの戦い見せてるの正直勿体無い。分かる人が見てたら瞬きも惜しいような戦いなんだけどね。自分がメイならどう攻めるか考えるだけで一時間は過ごせるような。僕は見ようと思えばいつでも見れるからこうして眺めてるだけだし、洸もあの位なら軍で毎日見てるから完全にメイ観察にシフトしてるみたいだけど。働け審判。


「うぉっ!?」


 カン!!


 メイの剣が弾き飛ばされてグッサリ空間保護の結界に突き刺さる。うぅ、折角作った術式だったのに崩れかけたじゃないか。どうにか維持してるから剣は宙に浮いているように見えるが、その実壁にめり込んでるのと同じ状態なのだ。


「ハイ、終了デスネ。ありがとうございマシタ」

「ありがとうございました!!」


 勢いよく頭を下げ、そのままメイは剣を取りに行く。が、かなり高くに飛ばされたため彼の身長では届かない。多分2m以上の位置だよな、あれ。


「あー……ほらよ」


 ぐぐぐ……と唸りながらメイが手を伸ばしているのに見かねた洸がひょい、と取る。それを見てからリトスが一つ視線を寄越してきたので術を解いた。あのままじゃ落ちて来るの分かってたから解けなかったのだ。下手に解いて地面にグッサリ、とかそれこそエンスに何か言われる。書類がこれ以上増えるのはもう御免被る。のーせんきゅーです。


「ありがとうございます……」


 身長高いコウを見上げて羨ましそうな顔をしているが、正直僕はメイすら羨ましい。

 そんなこんなで無事に試合が終わったという事で、パン!とリトスが大きく手を打って注目を集めた。


「サテ、皆さんの目標はまずはリーン君レベルと思って下サイ。3年であの域に達せれば十分デス。正直なれなくてもおかしくは無いんデスガ、まぁ夢は大きく行ってみまショウ。という訳でまずは基本の構えカラ。槍の方はコウヘ、剣の方は私ヘ、他の武器は各先生が受け持って下さるノデ、各自移動して下サイ」


 そう言ってニヤリと笑う彼に、メイが悩まし気な視線を向けていた。

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