表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/23

18 天上に座す者達

 頭痛が痛い。間違った慣用句なのは分かっているが、敢えてこれを使いたい位には混乱していた。目の前にある電子端末(防水・防火・防魔力の軍御用達物)を今すぐに破壊したいとすら思う。物理にも強いから破壊方法がほとんど無いが、流石にオーバーSの魔力食らっても壊れない物では無いと思う。うん、ヤれる。


「リーン君、さっきからどうしたの~」


 尚今は休み時間である。珍しく昼間に【レガリア】の方から連絡が来ていたので何事かと見たら、正直見たくない連絡が来ていたのだ。後悔は後からするものである?実にその通りだよ、ちくしょう。


「あー……そうだな、しいて言えば―――馬鹿と鋏は使いよう?」

「全く訳が分からん」


 バッサリソルトに斬られたが、僕だって何と言えばいいか分からないのだ。緘口令が一応とはいえ出ているし、伝えたら大混乱が起こる事必至である。そしてこのクラス、どうも暴走の気が強い。猪タイプが多いので下手な事を言ったら僕に突進して来そうなので、あまり派手な事はしたくないのだ。まぁ貴族って時点でちょっと目立ってるのは諦めるけど。


「分からない方がいい……と、言いたいけれど多分今週中には否が応でも分かるから。お楽しみにって事で」

「ほぉ、っつーことは学園で何かが起こるって事なんだな。しかもお前が端末壊したいと思える程の」

「ところでリーン君、端末握り潰したいんですか。無駄ですから止めた方がいいかと思いますよ」


 無意識に握力に物を言わせてたらしい。勿論壊れないが。

 気持ちを切り替える意味でもふぅと一つ息をつき、改めて端末を眺めるがやはり気分は晴れない。あーあ、もういっそこの日早退でもしてやろうか。出席日数がそれを許さないけれど。


「平穏な日々、カムバック……」


 遠い目をして呟いたら全員が首を傾げたが、この意味が分かる日は近い。だがしかしアル、君だけは死ねば諸共、だからな。





 時は流れて3日後、7時間目に設定されている【形状記憶武器(アーセナル)】を注文した人用の授業、その名も基礎武術Ⅰに彼等は乗り込んで来た。


「あー……今日から非常勤で、国から派遣されて来た方々が教導に当たって下さる。お前等、頼むからちゃんとしてくれ……本当に、先生首飛ばしたくないから……」


 可哀想な銃担当の先生(50代半ば、最近腹が出て来て生徒と娘さんから嘲笑されている)が横に居る二人組を手で示して紹介するが、片手が胃を抑えている時点で本当にごめんなさい。そしてそんな風に紹介された彼等を見て、生徒は声を失っていた。


「えー、本日よりこの学園に特別配属されてきまシター。私、ヴィレット帝国軍【特殊混合特化魔導士部隊】所属のリトス・コーラル少将ト……」

「同じく、洸・シュタット元帥だ。リトスが剣、俺が槍を選んだ生徒の教導に当たる。ま、来れない日もあるかもしれんが今年1年世話になる。よろしくなー」


 灰色のくすんだ髪と目を持つ発音がおかしい将官と、黒髪金目のやけにフランクな勲章付の将校―――どう現実逃避しても残念ながら変わらなかったようで、とても来てほしく無かった二人組が揃ってしまっている。

 何故此処に来やがった。どうせなら貴族御用達、別名学歴目当て用大学のシャペルローヌ大かアルツトホーフェン大にでも行けばいいと思う。守るべき貴族やジェントリの子女がいっぱい居るんだし。


「……リーン君、君が言ってたのって」

「残念ながらこれで合ってる……」


 絶句する生徒の中、何度か話した事もあり彼等に多少の耐性のついているアルが訊いてくるのに、顔を覆いながらも肯定する。と、あまりの沈黙でこの声が聞こえてしまったのだろう。大半の生徒がギョッとした顔で僕を見てくる。止めてくれ、怖い。


「あー、リーンはローゼンフォール前侯爵と俺等がそこそこ親しかったから先に連絡入れといたんだが……」

「彼がボケにも負ケズ、非常識にも負ケ……かけてますケド、ローゼンフォールに染まり切らずにいてくれて嬉しく思ってますヨ。マジデ」


 貴族ですからねー、そこそこ仲良いですよーという旨のアピールで誤魔化してくれるのは嬉しいけど、逆にこれからあの人は知り合い?この人は?と来られそうな所も少々不安だ。有名な人の何人かは革命時の関係で仲悪かったりもするので尚更。仲良くても大半馬鹿と天才は何とやらだったり、多忙だったりするので絶対に会わせられないし。コネ扱いはしないでくれ。


「取り敢えず話を続けるが、他の武器は大半先生が受け持ってくれる。まぁ俺達も専門じゃない武器を教えるのは難しいからな、そこは諦めて欲しい」

「ですが一つ言えるノハ、基礎体力が付かなければ武器なんて扱えまセン。そこにいるガリヒョロ病弱系のお坊ちゃんも「ちょっと待て」体力は何だかんだありますシ。剣先をピッタリ動かさずに制動の構えをするなんテ、それこそ訓練しなきゃ到底無理デス。マ、要は私達の役目はこの武器ならこういう事を鍛えたらいいんじゃないンデスカー?位のノリだと思って下サイ」


 手合わせなんて一部を除けば遠い未来の話になってしまう。それなら別にリトや洸が来る必要は無かったが、彼等がここに来た本当の目的は別にある。ただ脳筋の洸をここに置いとくにはこれしか言い訳が無かっただけだろう。何せ奴は小学校中退の学歴だ。


「とは言え、俺等が来て何もしないっつーのもアレだしな。ちょっくら遊ぶか。そうだな……フォロート君、リトスと戦ってみないかい?」

「いいんですか!?」


 先程から彼等を輝いた目で見ているから、視線がガンガン飛んで来たんだろう。洸が指名すると周りに花が咲いたような錯覚すら覚える程喜んでいる。だがしかし、これから彼等がやるのは戦闘である。しかもメイは殺す気で行くだろう。何せどうせ勝てない事が分かってるから、久しぶりに本気でかかっても大丈夫という安心感があるだろうし。


「それならリーン君、結界を頼みマス。学校の設備壊すと陛下から苦情が来るノデ」

「あー、国立だもんね、ここ。一応キッチリ連絡行くのか。りょーかい、ちょっと待ってて」


 しかも直属の部下が学校の一部ぶっ壊したとか、エンスもそりゃ頭抱えるだろう。アイツが嘆くだけならざまあみろと言ってやるが、まだまだ革命の余波が残るこの国の金を無駄に使わせたくはない。ウチは産業がしっかりあるから十分立ち直ってるけど、産業基盤やインフラがしっかりしてなかったり農業しか無い地方はまだ経済もガタガタだ。補助出さないとやっていけない。


『隔絶せよ 決して変わらぬ地に』


 魔術を使わないなら大した詠唱は要らない。術の名はあくまでもその術がどんなものかと自己暗示させる為のものであり、詠唱はそれを引き出す為のイメージを固める為の言葉。魔術の基本は世界へ自らの幻想を引き出す事であり、世界を自分の力で染めあげるもの。それさえ出来れば、本来は詠唱すら必要無いのだ。余程イメージ力があるか何度も繰り返し使っていないと出来ない事だけれども。


「あれ?風属性の術じゃないのか?」


 メイが洸に選ばれたというのに悔しがったり納得してたりした生徒たちも、結界の中のメイが言った一言に驚きを示す。ただでさえ‘陛下’の言葉に戦々恐々としていたのに、だ。自分が何かやらかしたら国王に連絡が行くとか、そりゃあ嫌だろう。


「風属性の術じゃこっちに攻撃が飛んでこないようには出来るけど、地面が傷ついたらどうしようもないもん。無属性のその術ならそもそもの空間を隔絶するから周りに一切影響無いし?」

「リーン君、それ、BBBランクの大技じゃない……?」


 ネリアさんがボソッと呟いたのに頷いて肯定すると、周りがさらにざわつく。そういや一部しかしらないもんな、僕が希少な風属性だって事と、BBB程度なら余裕で短縮詠唱出来るって事。この歳ではCCCランクの術が制御できればそれだけで鼻が高い筈なので、実に僕は異常である。


「リーン君は補助魔法特化してますカラ。昔は大変だったんですヨー、補助は平気なのに攻撃魔法ボロボロデ、失敗して自爆したり魔力がちょっとした感情であっという間に制御不能になって爆発シタリ」

「あー、俺等も何度か髪焼かれたしなー」

「悪かったね……」


 片手の数程度の子供にこの魔力量を制御するだけの技術は無いし、どうにか出来ても感情の揺れですぐに箍が外れた。確かにエンスをアフロにした覚えも、リトスを丸焼きにしかけた事もあるし、洸をズッタズタにした事もある。でもその分自分だって火傷まみれになったりしてたからなぁ……

 今思うとよく逃げずに訓練付き合ってくれたものだ。やはり同じSランクオーバー、皆似たような経験あるらしくお互い様だと言ってくれたけど。けど、僕のように本当に幼い頃からあそこまで魔力が高い人間というのは歴史的に見ないと居ないレベルなので、あくまでもあれは彼等の気遣いだったのだろう。有り難い事この上ない。


 こうしてポンポン語られる僕と彼等の関係に、多くの視線が突き刺さる。それ程将官以上の軍人とは身分的に上と見られている、という事の表れと共に、あの二人は革命の立役者として非常に名高いのが原因か。僕も実は後方支援とはいえ参加していたが、敢えて名前が上がらない様にしていたから全く目立っていない。だからこそこうして、のうのうと学園生活を楽しんでる訳だが。


「さて、話は戻って戦闘用フィールドは出来上がってんだ。あとはやる事やるか」

「あぁでもその前ニ、メ―――フォロート君の実力を把握させた方が良さそうデスネ。リーン君、一度彼と対戦して下サイ、勿論剣デネ」

「え?」


 あまりにも唐突な指名に目を瞬かせると、メイも戸惑ったような視線を向けて来る。そりゃそうだ、僕は剣は苦手だと豪語してるんだから。

 とは言えリトスの思惑も分かる。洸やリトスレベルになるともう格が違う。この年齢であればメイレベルあれば十分過ぎるのに、武器をロクに扱った事の無い生徒達がリトスVSメイの試合を見れば、ひたすらメイがやられているか、あしらわれているように見えてしまうだろう。それはメイの沽券にも関わるし、これから彼等が成長するためにも良く無い。

 あの二人は憧れる強さであり、目指す強さではないのだから。


「あの……リーンって剣使えないんじゃ、というか、持ってないんじゃ―――」

「その点は大丈夫デスヨ、苦手意識が強い上魔法の方がセンスが良いので使わないだけデ、基礎レベルの剣術は叩きこまれてマス。ソレニ、彼の【形状記憶武器(アーセナル)】は特別ですカラ」


 ニヤリ。悪戯っ子のような笑みでこちらを一瞥したのに溜息で返し、太腿に括りつけたホルスターから【形状記憶武器(アーセナル)】を抜く。そしてそれへ籠める魔力は、杖の1.25倍。


「二種登録!?」


 この武器がただの武器でない所以、それが武器の複数登録だ。何かしらの目的で一人が複数の武器を持つ事は、戦時において体力的に大きな問題となった。それを解決する手段として作られたこれは、まだまだ改良の余地ありとはいえ実際に有用性を戦場で示している。戦争の無い現在では、教官職や、僕のような中遠距離を好む者が咄嗟の時に近距離対応出来る点から高評価されているが。

 そして僕は、一応とはいえこの戦争のない時代で数少ない前線に立つ者なのであり―――


「彼が【形状記憶武器(アーセナル)】を持っている理由ハ、ローゼンフォールというコネだけで無ク、キチンと最低限の前衛職も熟せるよう訓練を積んでいるからデスヨ」


 黒と‘銀’を基調としたこれは、国王から下賜されたオーバーS対応の特殊な細工が込められている。ただの【形状記憶武器(アーセナル)】であれば僕の魔力に耐えられず爆発してしまうからと、革命軍としての功績を認められた象徴でもあるからだ。故に、異常なまでに魔力吸収率と伝導率が低いコイツは長年の僕の相棒である。どれだけ僕が‘エンス’を舐めた態度で扱おうと、彼はこの国の王で僕の主だ。


「さて。メイ、あんまり得意じゃないから手加減してね?」


 手の中に収めたのはマンゴーシュ。本来白兵戦の補助として使われて来た短剣だ。それを見たメイは楽しそうにギラギラした視線を向けて来て、ふん、と一つ鼻を鳴らした。


「何言ってんだ。戦いに手加減なんてねーよ」


 その言葉に成程、と一つ頷いて、僕は自分の作った【戦闘場(フィールド)】へと足を踏み入れた。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ