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14 高級誕生日プレゼント

「あー……部隊名【特殊混合特化魔導士部隊】、通称【レガリア】。今年の七月を以て解体予定なんだ」


 アルがフォークを落とした。テーブルには高級品のオルヴィエート産テーブルクロスが覆っている為傷つく事は無いが、シミが付いてないか一瞬ヒヤッとした。いや、いいんだけどね。絹製って知ってると、ここなら洗えるって分かっていてもマズイと思ってしまうあたり僕は平民出身である。貴族の輩はそんなん気にしない。


「……リーン君、僕そんなに運ありませんでしたっけ」

「いや、ある意味物凄く幸運かもしれないけど」


 何処が?と胡乱気な視線で訴えるアルの何と素直な事か。これが僕なら間違いなく相手に毒を吐いていただろうと断言できる。


「【レガリア】の意味は分かる?アル」

「……王権の象徴、でしたっけ」

「合ってるよ。その名の通り、この部隊は国王直属の部隊でね。オーバーS並びにそれに準ずる能力者、というのが入隊の条件だ。逆に言えば、その定義は酷く曖昧で時代によって仕事まで異なる」

「私は現在エンスの補佐、洸は今の所は訓練兵の相手、リーン君はご存知の通り学園の警備、と仕事は千差万別過ぎマス。此処に所属するのは本来戦時の最高戦力という意味でですノデ、平時の今は仕事が無いに等しいんデスヨ」

「だが、遊ばせておくには勿体無い人材の集まりだ。故に私はこの夏を以て部隊を再編成し、七科からなる特別な役職を新たに据え置く予定でな。君には【レガリア】で数ヵ月の研修を積んでから、繰り上がり式で其処に所属して貰いたい」


 そんな大出世にアルの目が大きく見開かれる。一平民がたった数ヵ月でエリート軍団の仲間入りだ。宝くじを当てるよりも遥かに運の良い事だろう。尤も、平時の今だからそう言えるだけだが。


「そ、んな部隊に僕を?」

「【聖痕(スティグマ)】ってのはそういうモンらしいよ?僕も自分以外には見た事無いから他での扱いは知らないけど」

「まぁ、そこに所属してもらう為に夏までに幾つか実績を残してもらうつもりだが、君の能力があれば容易いだろう。そう緊張しないでくれ」


 アルの能力があれば確かに大凡の仕事で実績を上げられるだろう。手っ取り早い物だと宝物庫に眠ってる魔導具等の解析か。呪われた道具の数々の解除にも役立つかもしれない。僕の能力で浄化するとどんな物がかかっていたか分からなくなるので、殆ど使われた例がないのだ。そもそもこんな馬鹿みたいに固い防御力も浄化能力も、普通なら必要ある筈が無いのでアルの有用性の高い能力と比べ、僕の【聖痕(スティグマ)】はそんなに価値が無い。


「……精一杯勤めさせて頂きます」


 多分アルの今言える限界なのだろう。若干覇気が無いのはご愛嬌としておこう。そもそもこうして国王目の前にして軽口を叩ける(ただし僕限定)位に早くも慣れたのだから、間違いなく彼の神経も図太い。

 しかし、あまり自身の無さそうなアルにやる気を出させるとっておきを教えてあげるべきか。勿論言わなくても彼なら熟してくれるだろうが、やる気はあるに越した事はない。


「因みにアル、一つ豆知識を授けようか」

「……何でそんな仰々しいんですか」

「【レガリア】はメイが目指してる部隊だよ」


 アルの首が盛大に音をたてる位早く曲がった。痛くはないのだろうか、とどうでも良い事を考えて居る横で、機械仕掛けの人形のような動きを見せた彼は酷く泣きそうだ。


「……僕の命数尽きましたかね」

「いや、流石のメイも殺しはしない――と、思いたいなぁ」


 メイの【レガリア】への執念は並々ならないものだ。何せ初等部4年の頃には既に朝5時起きで訓練、夜8時からも訓練、という生活を送っているのだから。何度か見た事あるが、あれは習慣では済まないレベルの訓練だ。独力で、あの歳で、軍学校レベルの運動量を熟しているのは本当に頭が上がらない。軍人の筈の僕の方が動いて無いってどういう事だ。


「メイ君――アァ、フォロートの嫡男でしたッケ?」

「そーだよ。下手な陸士よりも実力あるんじゃない?アレ」

「しかも【レガリア】所属希望者か、よく調べたなぁ。地味に不人気且つ知られて無いマニアック部隊なのに」

「……そりゃこんなのが上なら不人気にもなるだろう」


 尚、嘆かわしい事に「こんなの」筆頭はオーバーS全員である。天才と何とかは紙一重という諺が在るが、ローゼンフォールないしはオーバーSに囲まれると先人達は良く分かっていらっしゃる、と遠い目をしたくなるものだ。キャラが濃くなければオーバーSレベルにはなれないのだろうか、と逆の発想にまで至る。


「兎に角アル、メイが入ってくるまでにしっかりやらないとメイから八つ当たりが来かねないから、頑張って」

「入るまで?え、入れる事前提なんですか?」

「流石アル君。鋭イ」


 僕の言葉を流さずに聞いてくれた点についてはとてもポイントが高い。最近の新兵は上司の話を一言一句漏らさず聞く、という事が出来ない傾向にあるのだが、ヴィレット学園トップレベルの学力があればそのあたりは余裕のようだ。授業を聞いてるのと同じ感覚なのだろうか。


「【レガリア】解体と同時に彼を勧誘する予定だ。青田買い、というのをやってみようかと思ってな」

「メイの誕生日7月の半ばじゃん?いっそ誕生日プレゼントにでもしてあげようかと」

「……それは、なんとも安上がりなプレゼントですね」


 どう答えるべきか迷ったらしく一瞬間が空いた。メイなら本気で喜びそうなプレゼントだ、という点は理解しているようだが、アルには一足早く軍の常識を学んでもらうべきだろう。これの何処が安上がりのプレゼントなのか。


「アル君、むしろこんなお高いプレゼントはリーン君レベルの高給取りじゃなきゃ出来ませんヨ」

「え?」

「君やメイ君のように推薦で入軍する奴の軍服だとか――あの学園の生徒だと別だが普通なら武器だとか、一しきり必要な物は紹介者が提供するんだよ。半年の仮入隊期間はな」

「君は【聖痕(スティグマ)持ち】だから仮入隊を飛ばして本入隊扱いだが、半年間の待遇は変わりない。その間や前準備でかかる金はすべて紹介者、つまりリーン持ちだ」


 勤務用軍服は僕等学園配属だとそう使わないから数着だけ。礼服一着に野戦服も数着。でも冬季用夏季用で全て分かれるから合計10は余裕で超える。武器は持ってるので渡さなくても良いが、サブで暗器のような何かを持ちたいならそれも用意。部隊間での連絡用端末と、幾つかの魔道具、座学用の教材、長靴(チョウカ)数足、他にもエトセトラ。前準備だけでかなりの金額が吹っ飛ぶ予定だ。僕名義で二人を入れるから、数か月は普通に考えたら目が飛び出る位の金額が差し引かれる予定だ。


「ちょ、リーン君僕のまで負担!?え、待ってください幾らかかるんですか!?」

「あー、人によりけりだけど最低100万位?」

「ひゃっ――!?」


 真っ青な顔で固まったアルは恐らく申し訳無さで押しつぶされそうだ。確かに最低でその金額といえば高い(並の生活を送る平民一家庭が一月暮らせる金額)が、僕の資産を舐めないでもらいたい。


「アル君、安心して下サイ。彼にとってははした金デス」

「そうそう、生活費一切かからないあの学園のお陰で給料ほぼ全部残るからね。二分の一は病院と孤児院に寄付してるけど、それでも有り得ない金額残ってるから」

「おまけにローゼンフォールからも偶に仕事請け負ってるからな、リーンは」


 その仕事は主に暴走する輩によって被ったであろう被害を受けた人への対応である。ローゼンフォール本家の人間がやると火に油を注ぐだけだ。


「……リーン君、そんな大金僕の一言で払わせてしまって本当に申し訳ありません」

「気にしなくていいんだけど……まぁそう言うなら出世払いでもしてよ。あの学園守るだけで最低10万は入ると思うし」

「賊や【異端(ゼノ)】が出たら更に上乗せしますしネェ」

「リーンのように金を溜め込む奴よりも、使ってくれる人に回したほうが経済的にも嬉しいしな」


 言外に僕に返すだけじゃなくて使え、と脅してる訳であるが、冷静でないアルは一つ頷いて納得を示した。出世払いなら多少は気も楽だろう。若すぎる借金持ちと考えると僕もアルも嫌だが、青田買いへの軍資金と考えれば本気で彼への投資ははした金になる。今後の彼の人生全てを、この不安定な国の為に費やさせてしまうのだから、安過ぎると言っても過言では無い。おまけに僕から返せる物は恐らく何も、無い。


「そうだな、給料の10分の1僕に返して、残りは君に回すって事にしようか。豪遊は駄目だけど、適度に使って?」

「分かりました。その形でお願いします」


 返せる、という所が心を軽くさせたのか、青褪めた顔色も元に戻る。因みにこの計算で行くと彼の場合、ざっと5年あれば確実に借金返済し終えるのだが、給金がどれ程かを知らないアルでは遠い未来までの決意を固めている事だろう。面白いから気付くまでは黙っているつもりだが。


 と、そこで全員が食べるのを止めた事もあり、最後にもう一度リトスが紅茶を注いで回る。身分的に国王のエンス、客人のアル、貴族の僕が自ら茶を淹れるのは非公式な場とは言え問題、という理由もあるが、リトスがこうしてまめまめしく世話を焼くのは無駄な頭の回り様からだと思っている。仕事にその頭脳を使えば良いモノを、めんどくさいの一言でサボるのは如何な物か。才能の無駄遣いも良い所である。


 値段にあった淹れ方をされた茶に口を付け、この後はどうしようかとスケジュールを思い浮かべた。起きてはいるものの一日やそこらでは回復しなかったので、身体は未だ恐ろしく重いままだ。アル以外には気付かれているだろうが、多分熱も下がっていない。仕事はこの部屋のベッドの上で、が一番マシな選択か。アルの事情聴取も此処でやってもらおう。恐らく守秘義務が発生していると思われるので、アルを城内にうろつかせるのも危険だし、何より下士官にでも見つかったら不快な視線に晒されるだろう。彼等は良くも悪くも身分を見て取るのに長けている。野心も強い。


「さて、私は此処で一旦下がらせてもらおうか。終わる筈が無い書類が待ち受けているからね」

「僕に回すの最低限にしてよ。少なくとも今日は」

「……善処しよう」


 それは限りなく叶わない願いだと遠回しに伝えているのか。そうか、そんなに弟(実弟にあらず)を虐めてたのしいのか。今までの付き合いで、今僕がどういう体調なのかを悟っているのにその対応とは、実に鬼畜である。


「まぁ、仕事が無くならないのは通常運転ですカラネェ。リーン君、諦めなサイ」

「そうか、リーンの分をお前に回せばいいのか」

「どうしてその発想になるんですかエンス!?」

「その案採用。リト、頼んだ。僕は今日一日部屋でゴロゴロして過ごすから」

「自堕落な生活に憧れてたもんな、お前……」


 幼少期から現在に至るまで、一日中(体調不良以外で)ごろごろしていた事が一度も無い。というか体調不良でもごろごろしていた事が殆ど無い。おかしいな、幼少期に関してだけは人並みの生活を送ってたつもりなんだが。


「リーン君が自堕落って想像付かないですね……」

「うん、やった事ないし」

「……因みに普段休みの日は?」

「学校が休みでも警護は年中無休。城の仕事とか報告書とか消化してるけど」

「……ガチの年中無休じゃないですか」


 一応一年に数日は本当にフリーの日があるにはあるのだが、大凡が買い物やら部屋の掃除やらで終わってしまうので休んでいる、という感覚とは恐らく違う。こんな生活も早6年目突入寸前か、と今更ながらに気付いて時の流れの速さを痛感する。いやはや、日々刺激が強い。


「まぁそういう訳でリト、今日位はサボるなよ。仕事終わってからサボれ」

「それサボりって言いませんヨ……仕方無いですネ、リーン君今度何か奢って下サイヨ」

「年下にたかるな」


 第一に彼と僕の休みが合うとは思わない。向こうもそれを分かって言っているだろうから冗談だろうが、アルの前でそれをやらないで欲しい。軍の品位が下がりそうだ。年下の部下(学生)にたかる三十路の上官。一般人に見られたら白い目を向けられる事間違いなしだ。

 その会話に軽く笑ってエンスが出て行ってから数秒後、アルがふ、と肩の力を抜いたのが見えた。やはり緊張していたらしい。


「アル、御免ね疲れたでしょ。あんなのでも王だし」

「疲れた……というよりただ緊張が解けてホッとしたと言いますか……【銀】は別格ですからね」

「あー、まぁ別格といえば別格だな。そもそも一国で同時代に【銀】が複数存在してる事自体スゲェ珍しいんだよなぁ」


 洸が変な感じだよなぁ、とカラリと笑ったのに微笑んで頷くリト。そんな二人にアルが目を丸くした。


「【銀】って今複数いらっしゃるんですか?」

「え、あ、エエ。今はエンスと殿下が正真正銘【銀】デスヨ。まぁ殿下は表に出られませんシ、この情報はオフレコという事でお願いしますネ」


 口元に指を当て、内緒というポーズを作るが三十路がやっても(肉体年齢は20代前半)可愛らしさなど欠片も無い。女性がやるなら笑って流すがコイツがやると鳥肌物だ。


「リーン君、失礼な事考えないで下サイ」

「思考の自由だけは奪えないよ、リト」

「お前が言うと洒落にならねーぞ、リーン」


 そう言ってニヤニヤと笑うコウに、アルが不思議そうに首を傾げた。

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