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13 壊れかけの部隊

 香ばしい良い匂いがした。焦点の定まらない目を瞬かせているうちに、それがコーヒーの香りだと気付いて再び目を瞑る事数秒。漸く何故僕の部屋でコーヒーの香りがするのかという疑問に辿り着いた。カチャカチャという音も気になる。

 起き上がる前に自分の体調を確認するのは最早癖だ。起きたら目が回る、という程酷くは無さそうだったのでゆっくりと上体を起こすと、目の前では何故かブレックファストタイムだった―――おい、ちょっと待て。


「……エンス、何やってるの。人の部屋で」

「お、起きたか。具合はどうだ?」

「済みませんリーン君。アル君が客人扱いに慣れて無いノデ、あまり君から引きはがすのもどうかと思いマシテ。此処で朝食とさせて貰ってマスヨ」

「ついでにエンスと二人でとか慣れない奴には恐怖だろうから俺等も加わってる。お前も食えるか?」


 理由は分かった。エンスとリトスと洸に囲まれたアルが引き攣った顔をしている理由も、嫌と言う程理解した。どうしよう、先程まで感じていなかった筈なのに頭痛が酷い。今日はベッドと友達でいる訳にもいかないのだが。


「……顔洗ってくる。果物残しといて」

「苺でいいかー?」

「構わないよ……」


 アルに謝罪と少し待って欲しい、という意図を籠めて視線を送るとコクリと小さく頷かれた。アルの為に用意された皿の上の物が全然減っていない所を見て、客人怖がらせてどうするんだ、と独り言ちる。身分差的に考えて威圧感が凄いだろう。

 顔を洗うついでに、昨日は結局着替えていなかったのでざっとシャワーだけ浴びて軍服に着替えてから戻るとアルに驚いた顔をされた。


「……本当に軍人なんですね」

「これでも二等空尉だからね。事情説明は朝食食べながらで構わない?」

「はい、それは構いませんが……」


 僕が席に着いた事で漸くアルのフォークが動き出す。朝から重い物は食べたくない、というエンスと一般人であり一般的な食生活のアルにはトーストやジャム等軽く用意されているが、身体資本の軍人二人組の朝食はいつ見ても呆れてしまう。四次元胃袋のメイよりも確実に食べているだろう。リトスなんて細いのによくもそんなに胃に入るものである。

 と用意された物を食べつつ、リトスが用意してくれた紅茶を一口含んでから、さて、と話を切り出した。


「じゃ、まずは本業の自己紹介でもしておこうか。リーンフォース=ユール=イクス=ローゼンフォール二等空尉で此処では通ってるから、それを念頭に置いておいて。役職的には元々はエンス――国王付の補佐官で、今はヴィレット学園の警護に当たってる。正式にはSSランクなんだけど、年齢と役割考えて一部を除いて緘口令出されてるからアルも黙っててね?」

「緘口令――って、そんな重要な事バラして良かったんですか?」


 驚く事にも疲れたのか、若干質問する口調が弱弱しい。昨日の夜あまり寝れてないからかもしれないが、隈は出来ていないから今日一日位は平気だろう。この後事情聴取もやらなければならないから、そう休んでもいられない。僕は溜まっている仕事を片さないと、山積みになっているのが目に見えている。


「まぁ【聖痕(スティグマ)】の能力的に視られてバレる位ナラ、というのもありますカラ大丈夫ですヨ。あぁでも私達の思考を読むのは本気で止めて下サイ。比喩で無く首を飛ばさなくてはならなくなりますカラ」

「ぜ、絶対しません」


 怯えて何度も頷くアルに満足気にコーヒーに手を伸ばしたリトスの性格は本当に性質が悪いと思う。確かに覗かれたら拙いでは済まないが、朝食が不味くなるような真似はしなくて良いではないか。尤も、思うだけで言わない僕も同罪か、と考えながら苺を摘まんで咀嚼する。流石エンスの為に用意された物だ、酸味と甘味のバランスがよく取れている。


「で、後は昨日言った通り僕も【聖痕(スティグマ)持ち】ね。【開く者(アミュレット)】なんだけどさ」

「まさか自分より上位の方に出会うとすら思って無かったのに、ここまで身近に居たとは……」

「世界って狭いね」


 因みに【聖痕(スティグマ)】の能力の上位下位については纏められている資料があるからそう判断しているが、僕としては今一この定義がよく分かっていない。何を以てして上位なのか、そもそもこの位置づけを作ったのが誰なのかも不明だ。資料に製作者の名前も研究者の名前も載っていないのだから。


「で、アル君は【示す者(クルスス)】と。正直何の仕事を任せていいか迷う能力だな……」

「まず任命式の時期からズレた勧誘だからなー。略式の任命にするにも【聖痕(スティグマ)持ち】じゃあそう手を抜けねぇし、かといって公にするつもりはないんだろ?」

「え、任命式……?」


 何それ、と言いたげなアルに此方の常識を詰め込まなければいけなさそうだ。一応あの学園も軍人コースはあるのだが選択が高等部からなのと、軍人にスカウトされるなんて滅多にないから幾ら博識なアルでも知らないだろう。


「本来入軍するには専門学校を卒業する必要があるのは知ってるよね?で、そこでは卒業式イコール任命式になるんだよ。誰が何処に配属されるかっていうのを、国王直々に賜るの」

「ですが時々此方から軍に入って下サイ、と言う必要がある人――主にAランクオーバーや【聖痕(スティグマ)】含む【レアスキル保持者】デスネ。が、入軍するとなると話は変わりマシテ。大体そういう方が見つかる時って勿論その手の専門学校なんか通った事が無い訳ですカラ、特別に(ココ)で任命式開くんデスヨ。参観者として御両親や親戚一同、友人も身分を徹底的に洗った上で見物出来マス」


 国だから強制的に「軍に入れ」と言おうと思えば言えるのだが、現在の上層部の半分が半強制的に従軍させられた人なので、その形を取らない様にしている。洸と僕は自分から入ったが、リトスは強制だったと聞いた。他のSランクオーバーも数人そうらしい。強制徴収、気分の良いものではないだろう。


「尤も、唯一の例外がリーンだがな」


 エンスが行儀悪くフォークで僕を指して来た事で注目を浴びる。こくり、と口の中の苺を飲み込んでから改めて頷いた。


「任命式無し、既存の官位に就かず、どの隊に入隊するかだけ名目上決められたからね。まぁ普通の部隊には受け入れられなかっただろうから、当たり前の措置だけど」

「と、言いますと?」

「リーンが入軍したのが6歳になったばかりだからな」


 5月だったか、と呟いたエンスに首肯すると、アルが信じられないと言わんばかりに紫の瞳を露わにする。因みに僕の誕生日は4月の終わりだ。


「【聖痕(スティグマ)持ち】だったし、その当時でAAAあったからね。封印加工しないと周りに影響出るかもしれないって事と、革命に参加する事が既に決定してたからその布石として入ったんだよ。けど、そんな子供一人部隊に突っ込んでも良い感情持たれないでしょ?」

「寧ろ普通は役立たず扱いするな。俺なら」


 辛辣だが誰から見ても事実なので黙って受け入れる。逆にあの時期にフリーに動けた事は良かったと思っているから今更何も感じないというのも大きいが。


「ただしアレは色々と有り得ない事だらけだった結果だからな。アル君にまで適応させる訳にはいかないんだ。すまないがまだ14とはいえ、君を子供という扱いにするのは正直今のこの国では難しい。君が子供として扱われていると知れば、能無し共が弱みだ贔屓だなんだと難癖つけてつけ上がるからな」

「いっそ土地全部王家に吸収しちゃう?土地媒介の主従関係なんてやってるから面倒事増えてるんだし」

「ローゼンフォールの子ならではの発言デスヨネ、ソレ」


 貴族を全否定した言葉に、流石のリトスも黙っていられなかったらしい。確かに土地全部吸収したら更に煩くなる事が分かりきっているから誰もやりたがらないとは思うが、正直自分の領に拘りが無いローゼンフォールの人間なら全員賛同はすると思う。


「……いつも疑問に思っているんですが、ローゼンフォールって実際にそこまで奇人変人揃いなんですか?」


 アルのある意味純粋な、だが恐ろしい質問で朝食の席の明るい雰囲気が一気に沈んだ。あまりの落差に拙い事を言ったかと焦るアルは可哀想だが、さて何処まで教えるべきだろうか。流石に一度実家に連れ帰って実地で教えるのは拙かろう。アルの常識が崩れかねない。


「ローゼンフォール……デスカ。そーですネェ……」

「噂以上に変な奴しか居ないとは断言できるが……」

「あそこに関わってから俺は変の定義が分からなくなった」


 きっぱりと洸が宣言したのに同感し、全員が首肯する。


「例えば義叔父、つまり現当主は僕を50倍病弱にしたような人なんだけどね、庭の一角に本格的なアスレチックを用意した位には動くの好きなんだ」

「……それ動けるんですか?リーン君の50倍?」

「3年に一度は使ってるらしいよ」

「3年に一度は危篤の知らせが来るからな」


 つまり無理して動いて寿命を縮めている、というのを理解したのか、アルの表情が形容し難いものになった。他には具体例が居るだろうか、と思考した瞬間に具体例しか居ない事に気付いて考え方を変えた。ローゼンフォールで変な人を探すのは、街中から‘人間’を探す位容易過ぎる事だ。逆に普通の人を探すのは不可能だが。取り敢えず、手っ取り早く思いついた人についてを語ろうとした。


「あと父さんの従妹は警察に勤めてる、んだけど色々と思考回路がおかしいからね……」

「リーン君の誕生日そろそろ近いデスネ」

「……僕も思った」


 言ってから気付いて、自分で落ち込んだ。自分で言った事に自分で落ち込むなんて何してるんだろうか、と自己嫌悪に陥った僕を見てより混乱したアルへはエンスが解説を入れてくれる。


「彼女は、というかローゼンフォールは一族至上主義だからかよく分からないが、一族の人間の祝い事には全力を尽くすんだ。……その方向性が、個人の性格をよく表すが」

「彼女の場合は犯罪者を減らせばその人がより暮らしやすくナル、と考えているラシク、本家の人間の冠婚葬祭日には確実に大物を捕まえて来マス。去年は生まれた甥っ子の為にと何処から情報リークしたのか知りたくもありませんガ、高笑いしながら国際的犯罪者の某研究者を20人程一斉逮捕してましたネ……」

「今年は誰が捕まるんだろうなー」


 良い事をしている筈なのにそうは聴こえないのがローゼンフォールクオリティである。彼女は私利私欲(ただし世の為にはなっている筈だ)の為に部下を扱き使っているので、彼女の部下は違う意味で精鋭揃いになってしまったらしい。精鋭になる素質がある者以外は、全員辞職してしまったという意味で。


「しかも彼女、ローゼンフォールの中では真っ当な方だよな」


 洸が付け足した言葉にアルが僕を凝視した。何度も言うが僕にはローゼンフォールの血は流れて無い。あんなのとは流石に一緒にされたくないのだ。誰だって我が身が惜しい。毎回ローゼンフォールに嫁いでくる、ないしは婿に来る人が胃痛に悩まされているのを見ると、自分はあの家に慣れてしまったのだな、とつくづく実感するが。


「さて、ローゼンフォールについてはここまでにして、元の話に戻そうね」

「……そういえば本題そっちでは無かったんでしたね。何というか、済みません」


 いつの間にか話し込んでしまっていて、紅茶はすっかり冷めてしまっている。保温のカップを使えばよかったな、と後悔しながら全て飲み干して、次は何の話をすべきか、と頭を回転させた。


「えーと、任命式の話だけど、大凡準備に半月はかかると思って。軍服って魔力含ませた特殊な布で織ってるから作るのに時間かかるんだ。しかも僕等みたいに成長期のだと尚更」

「君成長してるんですカ?」

「黙れリト」


 本当に人を逆撫でするのが上手いヤツである。真顔で言った所も怒りを増加させるポイントだ。


「リーンそう怒るな。お前が成長出来ないのはリトスの所為じゃなくエンスの所為だろ?」

「主人を売るなよ!」


 洸がさり気なく怒りの矛先を変えた事にエンスが叫ぶ。流石に王族、自分が主人だという事を咄嗟に出せる位に沁みつかせているらしい。僕には無理な発言だ。多分暫くはアルの上司だという概念を覚えられないに違いない。


「ほら、話戻して」

「あ、あぁ……お前が殴りかかってこないなら続けるか。アル君、君はヴィレット学園への在学を希望しただろう?」

「え、あ、はい」

「その時点で君が入る予定の部隊は一つに絞り込まれてしまうんだが、問題点が一つあるんだ」

「……と、言いますと」


 敢えて遠回しな言い方をしている事に不安を覚えたのか、微かに眉が下がる。実際かなりの大問題なので伝えない訳にもいかないが、初っ端からこれではアルの精神衛生上宜しく無い事だけは確かだ。全員で顔を見合わせて、代表して僕が躊躇いながらも口を開く。


「あー……部隊名【特殊混合特化魔導士部隊】、通称【レガリア】。今年の七月を以て解体予定なんだ」


 からん。


 アルがフォークを机に落とした。

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