[第94話] リスク
どんなことでも、新しいことを行えば当然、リスクが増える。スムースに行けばいいが、その新しい行動に対する未知の抵抗が予測されるからだ。
高波静夫は今までより少し遠くで釣りをしようと考えていた。そこは地図では知っていたが、まだ行ったことがなく、少し不安ではあった。要は、少しリスクがある釣りをしようということだ。地図を広げながら高波がテレビを点けると、司会者を中央にして有識者達が政治座談会をやっている画面が映った。地図をひとまずテーブルの上に置き、なんだ? と高波が視聴していると、集団的自衛権の話し合いらしかった。話は佳境に入っているようで、自衛隊員のリスクが増える…とかの、ゴチャゴチャした話になっていた。高波は俺のリスクはどうなるんだ! と思いながら、また地図を見て地形と交通ルートを綿密に計算した。しばらくして、ああ、これならいいだろう…と、調べたルートをメモ書きし、その日は眠ることにした。
一週間が流れ、いよいよ高波はその地へ行くことにした。以前、行ったところまではよく知っていたから、高波は列車に揺られて眠っていた。妙なもので、そこから先の未知の区域に入った途端、高波の目は冴え、眠気も消えた。その港がある駅に降り立ったとき、高波の胸は予想されるリスクで昂った。
「あの…ここはよく釣れるんでしょうか?」
「ええ、釣果は上々のはずですよ、普通に釣れば…」
ニタリと笑い、地元の男が返した。この瞬間、高波のリスクは明らかに小さくなったはずだった。
「店とかは…」
「釣り関係のですか? えっ? 違うんですか? はい! はいはい。休憩するだけですね? それなら、ほら、あすこに…」
地元の男は一軒の旅館らしき建物を指さした。
「どうも…」
高波は教えられた旅館らしき建物へと近づいていった。
旅館へ着くと、高波は玄関で手続きを済ませ、番頭に部屋へ案内された。高波のリスクは、ほぼ消えたようだった。そのとき、なにげなくズボンに手を忍ばせ、おやっ? と高波は思った。あるはずの財布がなかった。切符は先に予約買いをしてポケットに入れていたから、こうしてここまで来れたのだ。財布は? 高波の胸の動悸は急に高まり、リスクもまた高まった。そうだ! 出がけに着替え、前の服へ入れたままだった…と高波は思い出した。リスクは、とんでもないことで高くなった。高波は旅館の主人に事情を説明し、旅費を借りてUタ-ンした。リスクは思わぬところで発生するものなのだ。高波の釣り気分はいつの間にか消え失せていた。家へ戻った高波は、出直さず家にいた。リスクはリスクを考えたばかりに、思わぬところでリスクとなった。リスクがリスクを発生させたのだった。
THE END




