[第81話] 錆(さ)びた人々
壺花美咲は今をときめく新進女流華道家で、創設した壺花流の家元でもあった。
「先生、よろしくお願いいたします」
今日も多くの門弟達が美咲の華道教室に訪れていた。女性のお弟子以外は弟子に取らない壺花流は、他の華道宗家とはひと味違う色彩を華道界に放っていた。
「皆さま、おはようございます。では、観ていきますわね…」
美咲が大広間の和室に入る以前、すでに門弟達は壺に花を生けて、今や遅しと美咲を待っていたのである。
「このお花、錆びてますわね…」
美咲の口癖が出た。彼女は拙い生け花を感じると、そう言うのが常だった。弟子達もそれは分かっていて、美咲にそう言われた瞬間、彼女にペコリと一礼すると生けた壺を手にし、磁石に吸い寄せられるかのように別部屋へと移っていった。何も言われないか、お褒めの言葉を頂戴した者達だけが美咲との同席を許され、そのまま生け続けられたのである。そうはいっても門弟は限られている。数度、生け変えるうちに、門弟達はほとんどいなくなり、1名残ればいい方だった。他の部屋へ移った弟子達は、錆びた人々と呼ばれた。錆びないよう努める・・それが壺花流の流儀とされた。錆びた人々は、どこか赤茶けて見えた。
THE END




