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[第78話] ド忘れ

 どうも最近、忘れっぽくなった…と、滝村陽二は思った。一度、診てもらおうと、病院の門をくぐった。

「先生。どうでしょう?」 

「別に、どうということもないですな…。こんなことを申してはなんですが、お年のせいでしょうか」

 CTスキャンされた写真を見ながら、初老の医者はニヤリとして言った。滝村は、アンタだって…と思ったが、思うに留めた。

 滝村の場合、完全に忘れている訳ではなかった。忘れていても、数時間して不意に思い出すこともあった。

「そうそう、干梅ほしうめ裕香だった。最近の子は多くて覚えにくい…」

 テレビで唄う女性アイドルグループを見ながら、滝村はド忘れした自分の甘さをメンバーの多さに転嫁てんかした。

 ある日のことである。滝村は演奏会のチケットを手に入れようとチケット売り場へ向かった。その途中である。

「やあ! 滝村さんじゃありませんか!」

「ああ! これは、これは…」

 通りすがりの男に声をかけられた滝村は、? と、その男の名前が出てこなかった。ド忘れしたのである。

「お元気でしたか?」

「ええ、まあ…」

 顔はしっかりとおぼえていたが、名が出てこない。そうこうするうちに世間話は進んでいった。

「ははは…、それじゃ、また」

 相手の男は立ち去った。とうとう、相手の名を思い出せなかった腹立たしさが滝村の気分を悪くしていた。

「まあ、仕方ないか…」

 滝村はそのうち思い出すだろう…とあきらめて歩き出した。そのときである。おやっ? 自分はどこへ向かってるんだ? と滝村は思った。ド忘れの挙句あげく、ド忘れしたのである。ああ! ややこしい…と思いながら仕方なく滝村は自宅へ引き返した。家の玄関を開けたとき、そうだ! 吉川さんだった! と、男の名を思い出した。ただ、演奏会のことはド忘れしたままだった。 


                 THE END

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