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[第76話] 煮っころがし

 風呂上りで一杯、ひっかけたい…と、最近、ただの初老男に成り下がっている鰯雲いわしぐも公一は思った。そうなると、ツマミが大事である。なんといっても酒はツマミで喉越しや味が変わる。まあ、酒好きの者なら一合のますに塩をのせ、それをツマミがわりにしてひやをグッ! とやるそうだが、鰯雲の場合は煮っころがしだった。それも、グツグツとくどく煮込んだ里芋さといもが好みだった。

「煮っころがしは?」

「ごめん、ごめん…。今日は切らしてるの。明日あしたまた作っておくから、今日はそれで我慢してっ!」

 妻の久美はポーン! と、ぞんざいな軽さで細長い魚肉ソーセージの袋を投げた。若い頃なら口喧嘩くちげんかになった事態だったが、今の鰯雲は怒る気力も失せた中年で、投げられて畳の上へ落ちたソーセージの袋を無意識にひろって破り、食べていた。そんな自分が鰯雲は無性に情けなかった。プロ野球の実況画面を見ながら、鰯雲は頬に涙が伝わるのを覚えた。

「あら、どうしたのよ? 涙なんか流して…。老眼?」

 今度はデリカシーのない言葉を投げて久美が近づいてきた。鰯雲が見た久美の顔が一瞬、煮っころがしの里芋に見えた。鰯雲は食べて消してしまいたい…と、ぞんざいな軽さで思った。


                 THE END

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