表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/100

[第74話] 心がける

 古舟こぶね物産の課長、底板そこいた抜雄ぬけおは失敗をよくする男だった。いつも何かが脱落しているのだ。自分ではすべてが整ったと思っていても、他人から見れば何かが一つ足りなかった。

 つい一週間前にも、こんなことがあった。

「すまんね、底板君。ひとつよろしく頼むよ!」

 今年、執行役員に昇格した古舟物産の屋形やかたが底板に頼み込んだ。明日、間にあわなければ、間にあわせます! と上役に胸をたたいた屋形のメンツは丸つぶれになるのだ。

「ああ、それはお任せ下さい。ちゃんと明日には都合をつけますので…」

「ははは…いや、助かる助かる…」

 翌日、屋形は、ちっとも助かっていなかった。数量がひとけた違ったのである。発注数は一万個ではなく、十万個だった。メンツをつぶされた屋形はそれ以降、今朝まで底板と口をいていない。その屋形と底板がどういうはずみか今朝、会社の玄関でバッタリと鉢合わせてしまった。双方とも別に喧嘩けんかしている訳ではない。同じ会社の人間である以上、挨拶しない訳にはいかなかった。

「おはようございます…」

 底板がやや深めに頭を下げお辞儀した。その言葉の奥には、『先だっては、どうもすみません。二度と、ああいうミスを犯さないよう心がけます…』という文言もんごんが秘められていた。そうなのだ。事あるごとに失敗をよくする底板は心がけることにしたのである。言うまでもなくそれは、すべての物事に注意を心がける・・というものだった。

「おっ! おお…おはよう」

 罰が悪そうに屋形も言葉を底板へ返した。その言葉の裏には、『まあ、ミスは仕方ないが、十分、注意しなさい。まあ、君には頼まんが…』という文言が秘められていた。そうなのだ。完全にメンツをつぶされた屋形は心がけることにしたのである。言うまでもなくそれは、今後、底板には頼まないよう心がける・・というものだった。


                    THE END

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ