[第7話] 使い捨て
朝から池田次郎はバタバタと動き回っていた。大事にしていたレジ袋が見つからないのである。
「そんなもの、その辺にあるんじゃない…」
妻の芳子は素っ気なく言った。小一時間、探し回った池田だったが、結局見つからず、とうとう諦めて探すのをやめた。居間へ腰を下ろした池田は、溜め息混じりに湯呑みの茶を啜った。
「妙だなあ~、昨日、確かにここへ仕舞ったんだが…」
池田は昨夜、仕舞ったレジ袋の場所を指さした。その指先を何げなく芳子が見て叫んだ。
「あらっ! その袋なら捨てたわよ、寝る前…」
「なにっ! どこにある」
「どこにって、もうないわよ。朝早く、ゴミ回収で出したから…」
「そんなっ!」
池田は大金を失くしたような切ない声を出した。
「たかだか使い捨てのレジ袋じゃない。同じものなんて、いくらでもあるわよ」
芳子は慰めにもならない言葉を吐いた。
「たかだか使い捨てとはなんだっ! たかだか使い捨てとはっ!!」
池田の怒りが爆発した。池田には、そのレジ袋に深い思い入れがあったのである。
━ 池田は職がなく、空腹で辺りをさ迷っていた。みすぼらしい格好の池田がパン屋の陳列棚を見ていると、それを見かねたのか、一人の老女がスゥ~っと池田に近づいた。
「これ、よろしかったら、お持ちなさいな…」
そう言うと老女は手に持った二つのレジ袋の片方を池田に手渡した。躊躇する池田を尻目に、老女は微笑みながら立ち去った。老女の姿が街頭の人ごみに消えたあと、池田はレジ袋の中を見た。袋の中には焼きたての美味そうな数種類の菓子パンが入っていた。池田は老女の立ち去った方角に思わずお辞儀した。そして、口へパンを押し込み、飲み込むように食べていた ━
ふと、池田が我に返ると、芳子は奥へ去ったようで、姿は消えていた。目の前の卓袱台の上には、仕舞ったはずの畳まれたレジ袋がポツンとあった。
THE END




