[第66話] イラッ!
学校へ通じる細道と新幹線がクロスする高架下である。自転車で走る中学1年の穴道進の頭の上を、轟音とともに新幹線が通過していった。進は無性の負けず嫌いだった。新幹線が通り抜けた瞬間、イラッ! ときた。僕の頭の上を断りもなしに通過するとは…と、怒れたのだ。度々(たびたび)、新幹線が通過する姿を進は見てきたが、幸か不幸か、高架の下へ入った瞬間の遭遇はなかった。それが今日は、タイミングよく同時となったのである。進としては最悪の事態だった。自転車を漕いでいて高架が近づいたとき、今までにも新幹線が通過すると進はムカッ! とはしていた。それでも、イラッ! とまではしなかった。今日はムカッ! ではなくイラッ! としたのだ。それからが大変だった。そのことが大きな事件を引き起こしたのである。その日から進の姿は忽然、と消えた。当然ながら、家族から警察へ捜索願が出された。誘拐、事故、失踪の三面から捜査は開始されたが、明確な情報は得られず、月日は流れていくだけだった。
「ただいま…」
なんの前触れもなく突然、進が家へ帰ってきたのは、それから数ヶ月先だった。両親は驚きと喜びを同時に露わにした。
「イラッ! としたから、家を調べに行ってやったんだ…」
「…」
両親は進の天然さに返す言葉が出なかった。
THE END




