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[第59話] 丸金(まるがね)荘の人々

 うらぶれた街の片隅に丸金まるがね荘は立っていた。時折り、住人は変化していたが、住む者は誰もが一見、気味悪い連中だった。街の者は皆、丸金荘の人々を幽霊とかげささやくようになっていた。

 そんなある日、丸金荘に松竹まつたけ立夫たておというホームレスまがいの男がやってきて、一室を借りることになった。アパートの持ち主で管理人をねる八頭やつがしらは、こころよくその男を住まわせることにした。というのも、八頭でさえ丸金荘の建物は気味悪く、月収入がなければ一刻も早くどこかへ引っ越したい・・と思っていたからだ。丸金荘は、住む条件に部屋掃除の決まりはあったが、ただ同然の月¥100で暮らせる気味悪い連中のねぐらになっていたのである。

 暑い夏も峠を越え、ようやく涼風が肌をうるおす頃になると、丸金荘の住人は、すっかり疲れ果てていた。夏の盛りは彼等の書き入れどきで、その気味悪さからか、各地の幽霊大会、お化け関係の催しには引っぱりだこだったからだ。

「いやぁ~お久しぶりです。お元気で!」

「ええ、まあ…。おたくも」

「はい、まあ、なんとか…」

 こんな会話が荘内の通路で聞かれることが、たまにあった。隣同士なのだが、住人達が顔を合わせることは滅多となかった。街の人々が幽霊と囁く所以ゆえんである。

 そんな丸金荘の住人が忽然こつぜんと全員、消えたのは、翌年よくとしのお盆前だった。警察による懸命の捜査にもかかわらず、一件はいっこう解決を見なかった。事件性のものなのかすら分からず、ついに捜査本部は継続を断念、捜査員数人を残して解散した。その頃、人々は松竹を筆頭に、本物のあの世の幽霊にまねかれていた。人々は至れり尽くせりの料理を前に、飲めや歌えのドンチャン騒ぎを日々、繰り返していた。


                    THE END

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