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[第58話] 鰻(ウナギ)の寝床(ねどこ)

 外気温が38℃を超えた夏の昼間である。ギラつく太陽は今日もきびしくジリジリと照っていた。正木省太は部屋の窓からそのギラつく太陽をうらめしげに見上げた。部屋のクーラーはここ数日、朝から晩まで、ほぼ24時間フル稼働している。

「いやぁ~参ったな。こう暑いと何もできん…」

 ひとりつぶやいたそのあとに、『が、腹は減る…』と正木は付け加えて思った。すると妙なもので、美味うまそうな鰻重うなじゅうが心に浮かんだ。当然、鰻重の横では三つ葉を浮かべた肝吸きもすいのわんが笑っている。これはもう、鰻好きの正木にとって、耐えがたい欲望の誘爆を引き起こさずにはいられなかった。

「ああ~~~っ!! ウナギだっ!」

 こうなれば、夏の暑さなど、どこ吹く風である。あれほど暑く感じ、外出など、とても無理無理…と思えていた心境が180°変化した。正木は半袖はんそでシャツを着るか着ないうちに家を飛び出していた。

 正木の行きつけの鰻専門店、益屋は建物からして鰻の寝床ねどこだった。間口が狭くて奥行きが長い店の造りなのだ。狭い店の戸を開けると、長さが7、8mもあろうかという通路状のカウンター席が長く見える。横幅は? といえば、カウンター椅子の背を人が一人、通れるか通れないかという幅で、実に狭い。要するに、縦に長く横に短い鰻の寝床ねどこ状の店なのである。だが、この店の秘伝のタレは実に美味で、江戸時代から継ぎ足し継ぎ足して今に至っているというあるじの自慢話を聞くにつけ、なるほど! と正木をうならせていた。この鰻重を正木は無性に食べたく、いや食らいつきたくなったのである。

 店前まで正木が来ると、[本日は勝手ながら、臨時休業させていただきます]という立て札が表戸にけられていた。正木は、あんぐりした顔で、その立て札を怨めしげに見ながら、家へUターンした。

 ギラつく太陽の中、汗にびっしょりと濡れながら家へもどった正木に気力など、もう残っていなかった。正木は、取りえず身体を水で拭いて、下着を着替えると、クーラーを強にした部屋の陰湿な寝床で横になった。正木はまるで鰻だった。


                    THE END

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