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[第47話] ピント

 山岳写真家として世に知られた川平静一は、今朝も早くから後家岳ごけだけの中腹で写真を撮っていた。ファインダーをのぞくと、いつもより、どうも今一、ピントが甘く感じられた。川平はカメラ構えを一時、中断し、俺も年か…と、溜息ためいきをついた。ガス雲が下界から吹き上がってきて、たちまち考えたアングルの景観を閉ざしたとき、今回はこれまでか…と川平は思った。

 下山してポジ・フィルムの各コマをスクリーンへ投射すると、これ! という重要写真のピントが何枚もボケていた。川平の眼は、カメラのファイダーわくを捉えていなかったのである。時まさに、女子W杯の真っただ中、テレビはその中継音をガナり立てていた。川平の眼は編集作業を見ているから、テレビは音を聴くのみだった。

「おしいっ! ボールだっ!!」

 アナウンサーが興奮して叫んだ。思わず川平が画面を見ると、シュートした選手が枠をはずしたあとだった。川平は、キーパーに取られるのは仕方ないとして、最低限、枠には入れようや…とえらそうに思った。だが、そう思いながら見た川平の写真は、明らかにピント枠を外していた。川平はポジ写真を見たあと、テレビ画面のゴール枠をアングリした顔でながめた。

「チェ!」

 川平の口をいて出た言葉は、舌打ちだった。


                   THE END

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