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[第41話] 躊躇(ためら)い

 土曜の朝、獅子園ししぞの公二は楽しみにしていた登山に出かけた。時折り、獅子園は登山をすることで日々のストレスを発散していた。

 今回、登る牛窪山うしくぼやま馬糞ばふん山系に位置する小高い山の一つだった。以前から獅子園が登りたかった山だが、登れず今に至っていた。

 登山のれはあったが、獅子園が準備に手を抜いたことはなく、今回も順調に推移した。獅子園の準備はいつも万全で、不測の事態にも対応策を持つ慎重派・・それが獅子園だった。

 ほぼ山の中腹まで登ったとき、獅子園はおやっ? と首をかしげながら地図を見直した。地図には記されていない分岐路に出食わしたのである。さて、どうしたものか…と、獅子園は躊躇ためらいながら、近くにあった岩場へ腰を下ろした。ちょうど、休憩しようと思っていた矢先だったこともある。せせらぎも上手うまい具合に近くにあり、のどうるおしながら獅子園は左右の分岐路を見た。一見、左を進めばゆるやかそうに見えた。いやいやいや、それは甘い甘い…と獅子園はまた、躊躇った。そう見えてけわしいケースも今まで多々、経験していたからだ。じゃあ、右にしよう…と獅子園は腰を上げ、リュックを背負うと右の道を歩み始めた。しばらく行くと、急に道は険しくなった。獅子園はふたたび、立ち止って躊躇った。引き返して左を登ろうか…と。獅子園は分岐路まで引き返し、左の道を登ろうとした。そのとき、待てよ! というふたたびの躊躇い心が獅子園に湧き起こった。獅子園は腕を見た、10時半ばになっていた。ここからだと、隣の羊毛山ようもうざんの方が近いぞ…と思えたのだ。羊毛山も牛窪山と同じように登りたかった山の一つだった。距離的にみても、今の時間ならスムースに登れそうだった。獅子園は躊躇いながら後ろ髪を引かれる思いで羊毛山へのルートをとった。羊毛山へは、分岐路から少し下山したところに迂回うかい路がある。この道は地図にも出ていたから獅子園は以前から知っていた。少し下りて迂回し、羊毛山への道を進んだとき、獅子園はにわかに腹が減ってきた。11時過ぎだったから、それもありか…と思え、獅子園は腰を下ろすと少し早い昼食にした。

 腹も満たされ、さてと! と獅子園は少し重くなった腰を上げた。そして、しばらく歩いたとき、獅子園にまた躊躇いの心が湧き起こった。今日はやめて、今度、登ろう…というネガティブな躊躇いの心だった。今度、朝早くから気分よく分岐路の左を登ろう…という思いだ。結局、獅子園は下山した。

 昼の1時過ぎ、家への帰途についた電車の窓から馬糞山系の山々が見えた。そのとき、全天、俄かにかき曇り、大粒の雨が降り出した。雨はたちまち豪雨となった。躊躇いは、獅子園を助けた。


                   THE END

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