[第4話] 甘辛(あまから)問答
ごく有りふれた会社の一コマである。美津山愛海は最近、プロのモデルからこの会社へ美人秘書として抜擢採用された異色社員だった。会社の社長、毛深の鶴のひと声で、である。彼は美津山の美しさに、すっかりほだされ、メロメロの骨抜き状態になっていた。これでは会社経営に関わると、見かねた専務以下の会社首脳は一応、採用した美津山を出向という形で子会社へ配置転換しようと試みた。ところが、どっこいである。毛深は事前にこの企みを察知した。こんなこともあろうかと、事前に自分の側近に探索させていたのだった。そして、この日の朝、毛深は専務達会社首脳を社長室へ出頭させていた。もちろん、問題になっている当の本人、美津山も、である。
「一応、君達の言い分を聞こうじゃないかっ!」
毛深は捕えた獲物を今にも食べつこうとするライオンのような眼差しで部下の取締役達を見回すと、辛口で言った。社長室の構図は、毛深が社長席の椅子へドッカリと座り、専務以下の取締役が社長関の前に横一列で並んでいる・・となる。さらに、主役の美人秘書、美津山は社長の横に立ち、『どうなのよ?』的な見下す目線で社長と同様、取締役達を眺めている・・という構図だった。
「…」
誰一人として、美津山がいると会社経営にさし障りがあるから・・とは言えなかった。
「だったら、このままでいいじゃないかっ!」
やはり毛深は辛口だった。
「はあ…」
取締役一同は、同時にそう呟いた。
「嫌だよね、美津山君。こんなにいじめられちゃ~~」
毛深は一転して、横に立つ美津山へ甘口で言った。
「はあ、まあ…」
美津山としては出向でもよかったのだが、一応、そう言った。
「ははは…だよねぇ~」
毛深は、さらにベタベタの甘口で言った。顔は、『余は満足じゃ』とでも言いそうな笑顔だった。
「もう一度、話し合ってみます…」
取締役を代表し、見かねた専務が口を挟んだ。
「なんだって! 話し合う? 話し合う必要なんかないじゃないかっ!」
次の瞬間、毛深の口調がまた一転し、辛口へ変化した。
「はあ…」
「腹が減った! 美津山君、食事に行こう、行こう! こんな連中は放っておいて…」
毛深は社長席を立つと美津山の手を握って社長室を出ていった。
THE END




