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[第35話] 名曲秘話

 演歌の大御所的作曲家である遠堂豆雄は、最近、すっかりスランプにおちいっていた。その訳は…と原因を日々、探る遠堂だったが、どうしても思い当たるふしがなく、悩んでいた。スランプを脱しようと、遠堂は場末の街へ飲みに出た。

「いつもので、いいですか? 遠堂さん…」

 スナックのバーテン大梶は、遠堂の顔を見た途端、そう言った。

「ああ、頼むよ…」

 遠堂はそういうと、いつも座る定位置のカウンター椅子へ腰を下ろした。

「元気がないですね。どうかされましたか…」

 大梶は気遣きづかってか、小さくたずねた。

「な~に、どうってこともないんだが…ちょっとしたスランプでね」

 遠堂が新進作曲家としてデビューして以来、大梶とは50年来の付き合いだった。そんなことででもなかったが、遠堂はなんでも気さくに打ち明けた。

「そうでしたか…。ダブルにしますか?」

「ああ…」

 大梶は手馴れた所作でグラスに水割りを作ると、遠堂の前へ突き出しのサラミを乗せた小皿とともに置いた。遠堂は、すぐにグラスを手にすると、グビリとひと口、のどへ流し込んだ。

「なにか、いい手立てはないかねぇ~」

 遠堂は大梶に言うではなく愚痴った。そのとき、遠くから偶然、どこで吹くのか夜鳴き蕎麦そば屋のチャルメラの音がびしく聞こえてきた。

「そうですねぇ~…トウシロの私なんかにゃ分かりませんが、アレなんかどうです?」

 大梶は音がした方向をおもむろに見た。

「ああ…アレか…」

 遠堂はうなずくと、残りの酒をいっきに飲み干した。

「有難う…」

 遠堂はいつもの額を支払うと、スゥ~っと店を出た。

 それから十日後、遠堂が久々に世に送り出す曲♪チャルメラ悲恋♪が発売された。歌うは演歌期待の新人、かつお昆布美こぶみだった。

 ひと月後、曲は大ヒットした。有線で飲み屋街を席巻せっけんしたのである。その年の有線放送大賞は申すに及ばず、数々の賞を総なめにし、曲中のひとふしは人々の流行語にもなった。ああ・・涙なしでは語れない名曲の誕生には、こんな偶然の秘話が隠されていた。


                   THE END

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