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[第31話] 転んだあとの杖(つえ)

 満山みつやま商店は、ついに閉店した。店主、満山はよく頑張った。必死に数十年、養蜂業を営み、数百群の蜜蜂を育て、そして彼らにも頑張ってもらい、せっせと蜜を集め、それで店を切り盛りしてきたのだ。

「残念ですが、今年は…」

 悲しい電話が飛び込んできたのは、つい先だってである。次に養蜂先として予定していたとある地方の土地が売却され、工事が始まったという知らせだった。その土地は菜種の黄色い花が咲き乱れ、あたり一面が菜の花畑だったのである。当然、多くの蜜蜂が飛び回っていた。工事が始まると、土地は埋め立てられ、農業も終わりとなる。それは、土地での養蜂の終わりも意味した。僅かに数人の店ながら、満山はそれなりに切り盛りしてきたのだった。満山は養蜂の才はあったが、経営はズブの素人だった。養蜂業の継続を断念させたのは、なにもこの土地問題だけではなかった。数ヶ所で蜂場を巡る人間関係のトラブルが出たのである。それも連続してだったから、これには流石さすがの満山もこたえた。結果は言うまでもなく、閉店である。この辺が潮時か…と満山は思うようになった。先読みして、転ばぬ先のつえで別の土地を当たっておけばよかったのかも知れない。だが、転んでしまったものは仕方がない。閉店したあと、満山は蜂をすべて売却し、わずかな蓄えともに従業員の第二の人生の足しにと分け与えた。独り者の満山に数万円以外、何も残らなかった。満山はそれで杖を買った。最近、めっきり足腰がもろくなっている自分に気づいてはいたのだ。転んだあとの杖である。満山は今、年金暮らしで細々と生計を立て、過去の豊かだった自然を振り返っている。


                    THE END

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