[第24話] 偶数奇数
白樺並樹は、名が体を表すとおり、実直な庭師である。この男、妙なことに拘りを持っている。一日の仕事内容を、すべて偶数奇数で決めるのである。例えば、¥1,000で昼のコンビニ弁当を買い、おつりが偶数なら偶数本の樹木を庭に植え、奇数なら奇数本を植えつける・・といった類いだ。そんなことで、施主を満足させる造園が出来るのかという疑問も生まれるが、白樺はそれを見事に成し遂げ、多くの収入を得ているのだ。変人か? といえば決してそうではなく、ある種の天然ながら、世界的にも数少ないカリスマ庭師だった。外国の場合は、ゴルフ場の設計も手がけ、いや、完成まで拘り通した・・と言った方がいいだろう。造園中、偶然、最初に目にとまったPAR5の文字で、このホールには五本をドコソコに…と配置して指示し、完成させたくらいだ。それがまた、見事に絵になって、プレヤー達を満足させたのだから驚きである。こんな白樺にも弱点があった。循環小数、分かりやすく言えば、円周率3.141592653589793238462643383279…とかの割り切れない数字に弱かった。偶数奇数に拘るあまり、ずっと計算を続けたこともある。
「親方、もう日が暮れます…」
弟子職人の一人が呆れ顔でそう言って促した。白樺は、頭で計算をし続けていたのである。
「おっ! そうか…。今日は、やめだ! 明日、明日! 撤収~~!!」
白樺は叫んだ。このように、いっこう指示されないまま一日が無駄に過ぎ去ったケースの造園もあった。恰もワンカットに拘る映画監督と似通っていた。多くの弟子職人は仕方なくガヤガヤ…と引き揚げた。ついに、偶数奇数への拘りが高じた白樺は、数学の権威者の大学教授の助手になっていた。異色の庭師を兼務する助手だった。
THE END




