[第21話] 解釈
ここは国会の衆議院特別委員会である。朝から昼の休憩を挟んで、あ~でもない、こ~でもない・・と与野党の論戦は続いていた。ある法律の成立に伴う解釈の相違による、あ~でもない、こ~でもない論争だった。これを見ている国民、いわゆる一般視聴者は、どうたらこうたら言うてるでぇ~・・あるいは、どうのこうのと言ってらい!・・的に冷めた目でテレビを観ていた。円藤久彦もそうした一人である。円藤は室内の心地よい暖かさで、テレビ中継を観ているうちに、いつしかウトウト眠っていた。
気づくと円藤は議員として衣倍総理と対峙して座っていた。
「円藤久彦君…」
委員長の飽きたような声がした。総理が答えて座ったから、仕方なく君を指名する・・感がなくもなかった。名指しされた円藤は一瞬、躊躇した。だが、上手くしたもので、円藤の前机の上には答弁用の原稿があった。何のことか意味はまったく分からなかったが、円藤は質問原稿を棒読みしていた。衣倍総理や大臣達、加えて同じ側の与野党委員が訝しげに自分を見つめる様子が、円藤の目に飛び込んできた。今までと明らかに違う部外者を見るような眼差しだった。
「衣倍内閣総理大臣…」
また、委員長のおざなりな眠い声がした。だがその声は円藤にとって救世主の声だった。部外者を見るような眼差しは消えた。
「あなたはA’の危険性があるとおっしゃる。しかし私達は、そのA’の危険性は国民生活を守る上で仕方がない行為だと受け止めています。もちろん、従来の見解は踏襲を致しますが…(略)」
「円藤久彦君…」
委員長は欠伸しそうになり、危うく押し止めながら言った。
「いや、そこが違うんです、総理。AがA’を引き起こせば、これはもう、はっきり言って戦闘ですよ。それはダメでしょ!?」
いつの間にか円藤は議員になりきっている自分に気づいた。スラスラと分からないのに言えたからだ。円藤が腰を下ろすと、また委員長のおざなりな声がした。
「衣倍総理大臣…」
「だから、そういう場合は、行かないんですよ」
「行かないなら、それでいいじゃないかっ!」
野党委員から野次が飛んだ。
「静粛に!! 円藤君!」
委員長は、久しぶりにハッキリした声で強めに言った。
「そうですよ、総理。行かないなら、私の解釈と同じじゃないですかっ!」
「衣倍総理…」
「あなたの解釈と私の解釈は違うんです」
円藤は座った席で笑いながら顔を横に振って衣倍総理を見た。総理が腰を下ろした途端、委員長が完全に目覚めた声で言った。
「解釈は同じだと私は思います。不測の事態に対する認識が違うんじゃないですか? …失礼。審議を進めます。円藤君」
「そうですよ、総理。今起きるときだと私も認識します」
円藤は、そのときハッ! と目覚めた。テレビの国会中継は、まだ続いていたが、いつの間にか質問する委員が変わっていた。円藤は、なんだっ、解釈じゃなく委員が変わったのか…と、つまらなく思った。
THE END




