僕はセロリみたいな人
「ねぇ」料理を作ってる神尾嬢の後ろから覗きこむ。いつも通り、なんかおいしそうだ。
「なーに?って、うわぁ」さすがにいまだかつてない近さに神尾嬢もびっくりしたらしく、ちょっとのけぞる。
「神尾嬢、何作ってんの」今日の僕は、引かないよ。
「え、あ、ミネストローネ?みたいな?」
「ケチャップベースのスープ……好きだな」僕は幼児味覚だから、ケチャップの味はすごく好きだ。今度はオムライス頼んでみよう。
「ねぇ、神尾嬢」神尾嬢は困ってる。今まで見たことのない感じの顔をしてる。少しおかしい。
「セロリって好き?」キスまで持っていける距離に顔を引き寄せて尋ねる。彼女の思っている僕みたいにふるまってやろうと自暴自棄に決定した。それは今の思い付きなんかじゃない。少し前に。
そして、それを決意して僕はここに来た。
「あ、……好き」
「セロリみたいな僕は?」
「……」
僕は、神尾嬢が僕を好きだということを知っていた。態度でわかるようになったのも、彼女の嫉妬深さのおかげだ。……逆に言えば自力で気づいたわけじゃないってことですね。
神尾嬢が無言なのにも構わずにキスをする。残念だけど僕はけっこう仕込まれてるからけっこういいでしょ?神尾嬢あんまり経験ないって言ってたもんな。
僕は大事なものを失った。僕がいまさらこの性格を治しても何にも好転しない。だったら、もう開き直るしかない。彼女に会う前の元カノに似てるから別に何とも思わずにキスできる。髪を撫でて、ほらね。ははは。
何も感じない。
『僕を愛してくれる人間を消費して生きていこう。』彼女の日記を読み終わり、ボタン一つの退会処理を終わらせた後、僕は口に出ていた言葉に苦笑した。誰かを好きになってもいつもいつも向こうから離れていく。だから、こうやって生きていくしかない。……そもそも、それしかなかったのかもしれない。
でも、神尾嬢に彼女の欲しい愛情のようなものを与えながらふっと思う。僕の好きを受け取っておいてどこかへ行ってしまった彼女も、いつか自分がセロリみたいな、僕みたいな人だと自覚するんじゃないかって。
駄文失礼いたしました。