知らない権利
「セロリみたいな人ってどういう人だと思う?」
「え、なんか、た、他人の人生にいい味を出すような脇役ポジション……とか」
「へ」予想外だった。完全に予想外の答えだ。なんだそれ。
「ん、どうして?」
「あ、いや、なんでもない」いい意味……じゃないよな普通に考えて。
そういえば、「ちょっと気になるアカウントがあって」と神尾嬢が切り出してきたのはどうしてだったんだろう。神尾嬢は僕が「振られたよー」なんてぼやく相手に選んだ知り合いの知り合いだ。名前は深雪。あんま色気はないけど優しい。彼女のほうが素敵だと思ってるけれど、こいつもなかなか美形だ。ただしハンサムだから男受けはよくないかもしれないな。
「これなんだけど」そうやって彼女の見せてきた小さな画面には、登録している人だけが書ける日記のようなサイトが写っていた。
え。
「これって彼女さんじゃない?」
「あれ、これってさ……………」ほぼ同時に声が出ていた。アイアム、と名乗る女の人。アイコンの服。彼女が『アイアムイマイって英語で書くと回文になるの』と楽しそうに話したのを思い出す。
どうやって、と尋ねると僕らに共通する友人の名前が上がった。その友人の日記も、まぁ面白かったが。
「これ、会員制だから見るためにはアカウントがいるんだ……作り方教える?」
いや、いい。見ないわけじゃないけど、そう答えておく。僕がそれと対面するときには、僕一人でいたいから。