マコちゃんを探せ? - 僕の人魚姫 より -
トムトムさんと春隣豆吉さんの共同企画「コンビニスイーツでI Love You」作品第一弾。
楓太君、お名前だけにて出演でござる。
トムトムさん、ありがとー。
「パパパパパ、、、、!!」
「マコちゃんにパパって呼んでもらえるなんて嬉しいなあ……」
「ずるいわ彼方君だけ。私のこともママって呼んで?」
「ちがーう!! 今度のCM撮り、パンを作ることになっちゃった!!」
「あら、パパじゃなくてパンなのね、彼方君、残念でした」
「……がっかりだよ、マコちゃん」
そういう問題じゃないのに!! パンだよ、パン!! 食べるパンなのっ!!
「私、こねたことないよ! 幼稚園で粘土こねたぐらいしか経験無いのにどうしよう?!」
「別に料理番組に出るわけじゃないんでしょ? カットごとの撮影だから作れなくても問題ないんじゃないのかしら? ようはそれらしく見えれば良いんだし?」
「……あ、そっか」
「でも、僕はマコちゃんが作ったパン食べたいなあ……」
彼方さんがポソッと呟いた。
「手作りのパン? お家でパンが焼けるんだ?」
「最近はお手軽に作れるようにはなったわね。彼方君は色々作ってくれるわよ?」
「彼方さんっっっっ、作り方、教えてっ!!」
「こういう拘り方は日和とそっくりだよね」
「なんだか若い頃の自分を見ているようで照れちゃうわ~」
今でも充分に若いじゃないかーとか彼方さんが言って、それに対して日和さんがいやーんとか言っている。あのう、もしもしー? ここ、事務所の中ですよ? 他の人の目もあるに……いつものことだから誰も気にしてないけどね。
「んー……じゃあ、教えている間は僕のこと、パパって呼んでくれるなら教えても良いよ?」
「彼方君だけなんてずるいわよ。私のこともママって呼んでくれなくちゃ彼方君は貸してあげない」
そんなわけで、今日は夕方から水嶋邸のキッチンで私はパン生地をこねこねしている最中です。
「でも悔しいんだよねえ……」
「何がですか?」
「マコちゃんがパンを作れるようになりたいのってCM撮りの為でもあるけど、覚えたら田宮君に食べさせてあげたい♪なーんて考えているわけでしょ?」
oh……しっかりとバレちゃってるよ。
「あら、ヤキモチ妬くなんて彼方君にしては珍しいこともあるものね」
カウンターの向こうからこちらを見物していた日和さんが笑った。
「そりゃそうだよ。娘が別の男のために手作り料理するところなんて見たくないよ。はい、そこで胡桃を入れて。しかも、こんなに一生懸命なんだよ? 鼻に粉がついていても服が白くなっても全然気にしてないし。ヤキモチ妬かない方がおかしいよ」
彼方さんがそう言いながら私の鼻を拭いてくれた。
「日和はどうなの、ヤキモチを妬きたくならないの?」
「私は、どっちかと言えは応援したい気持ちの方が大きいかな」
「やっぱり男親と女親の感じ方って違うんだね。こんど榊原さんと一緒に愚痴ってくることにするよ」
クリスマスに続いて試練なシーズンだよねえとぼやいている。
「そしてバレンタインとか……。男親って何だか寂しいもんだよね、はあ……」
「バレンタイン、山のようにチョコが来る人がなに言ってるんですか」
「だけどマコちゃんは田宮君にしかあげないんだろ?」
僕も欲しいのにとブツブツ。こんなところファンの人には見せられないね。あのイケメン俳優の水嶋彼方が娘からチョコレートをもらえないからって拗ねてるなんて。
「そんなことないですよ。いま収録中の朝ドラのスタッフさんとかにも配りますもん」
「そういう義理チョコはいやだ……」
なんだか物凄く我が儘だ……日和さんから本気チョコもらえればそれで良いじゃないって思うんだけど。
「あ、そう言えばマカロンのCMの件はどうなったの? 楓太君との再共演がどうのこうのって里美ちゃんが言っていたけれど」
「ああ、あれはお断りしましたよ?」
「あら。どうして? CMコンセプトを見せてもらったけど素敵じゃない?」
彼方さんと日和さんは事務所の責任者でもあるから、一応、全てのオファーの企画書に目を通していて、あまりにもその役者さんとかけ離れた役柄とか問題になりそうなキャスティングだったりするとやんわりとお断りしていたりしている。だけど基本的に仕事を受けるかどうかは本人に任されていて、その点が前の事務所とは大きく違うところ。
「素敵だからお断りしたんです。ほら、マコは同じ会社の初恋ショコラにも出させてもらっているじゃないですか。あっちのCMも物語が素敵だから今年もお仕事したいなって考えていて、それは調整してもらってるんですね。それなのに、バレンタインまで出ちゃったら、メーカー専属みたいになっちゃうでしょ? そういう固定化は避けたいなーって。それに田宮さんがいるのに浮気しているみたいでちょっとイヤかもです」
「あー……それで別会社のCMでも想われているだけの女の子を演じたのか」
「ですです。私のハートはあくまでも田宮さんのものだから、他の子との恋は演技でも出来ませーんということで。プロとしては失格ですよね。でも、これはマコの我が侭なんです」
ここだけは譲れなかったの。所詮は演技なんだから気にすること無いって言われればそれまでなんだけど、なんだか演じるだけでも田宮さん以外の人に恋するのはイヤなんだ、私。初恋ショコラは凄く気に入ったからまた出たいと思うけど、他のは限りなくNGなの。
「そういうところも日和に似ているよね。本気で演技するってとこ」
「その代わりにってことで、このパンのCMを引き受けたんですよ? 担当者さんが死にそうな顔してたので。ただ、初回バージョンだけ後姿だけでも使わせて欲しいって言われたので撮りましたけど」
最初はスタッフさんにカツラをかぶせてなんて話していたから、それは幾らなんでも楓太君に失礼じゃない?って思ってOKしたのね。ただあくまでもマコってことは秘密。誰でもない一般人で、誰も彼女のことは知らないってことになっている。
ただ、コアなファンっていうのは誰にでもついているわけで、その映像が流れた時にあの後ろ姿の女の子はマコちゃんじゃないかって某大型掲示板に書かれたらしい。だけどチラッとだけだし顔も殆ど見えないものだから、結局は分からずじまいで放映終了ってことになったみたい。
そしてその頃に田宮さんからも電話がかかってきたのには驚いちゃった。
『ね、あの後ろ姿の女の子ってマコさんだよね?』
「いきなり何ですかー、こんばんはも元気だったも無しでー」
ちょっと拗ねた口調で可愛く(当社比)反論しても、こういう時の田宮さんって全くぶれないんだよ。
『あのマカロンのCMだよ。そうでしょ?』
「えー、私、ショコラ以外はあそこのCMでお仕事してませんよー?」
うん、嘘じゃない。お仕事じゃないもの。たまったま誰かが撮った映像を使い回しただけ……ってことになってる。
『ふーん……』
「あ、疑ってるー?」
『マコさんこそ、僕のマコさんに対する思いを軽く見てるでしょ? 俺、惚れた女の子が映っていれば直ぐに分かる自信があるから』
それはそれで凄く嬉しい言葉なんだけど、やっばり秘密は秘密。ここで私がばらしちゃったりしたら事務所にも楓太君にも迷惑がかかる。だからひたすらお口にチャック。
「そんなこと言っても私は出てないんですよーだ」
『分かった。そういうことにしておいてあげるよ』
「それだけで電話してきたんですか、お仕事中なのにぃ」
『ん? 違う違う。バレンタイン、ちゃんと休みがとれたよって知らせる為。それとマコさんの声が聞きたかったから』
「……私も田宮さんの声が聞けて嬉しいですよ?」
『ほんとに?』
「うん」
『次に会う時、どこに行きたいか決めておいてくれる?』
「私が決めても良いの?」
『良いよ。前回は僕が行きたいって言ってたイベントに付き合ってくれたから、今度は俺がマコさんに付き合う』
「わかりました、何か楽しい場所、考えておきますね?」
『頼むね』
それから仕事中に会ったこととか面白かったことなどを報告しあって電話を切った。実は次に行きたいところ、決めてるんだ。バレンタインデーに田宮さんに贈ろうって決めているプレゼントがちょうど完成する日だし。どんな顔して受け取ってくれるかな、喜んでくれるかな? 今からドキドキしちゃう。
セリフでしか出てこなくてゴメン