ショコラ怪談 - 雨があがる時 -
トムトムさんと春隣豆吉さんの共同企画「皆で初恋ショコラ」作品第六弾。
一弾目で出てきたカフェ西風の葉月さんが暗躍しているショコラ怪談です。
本編はまだ未発表。
「……」
自分の机の上に置かれたブツをまじまじと見つめていると、隊長が声をかけてきた。
「どうした、沢村」
「隊長、またショコラケーキが置かれています」
机の上に置かれたコンビニのレジ袋。中身が何かなんて確かめるまでもなくいつものブツ。
「おお、これで何個目だ」
「10個目です。とうとう大台です」
「ほおー……敵さんもなかなかだな。これまで一度も目撃されずか」
「警視庁には妖精さんか小人さんでもいるんですかね。パトロールから戻ってくると必ず甘いモノが待ってくれているというのはなかなかの至福ですが」
「妖怪かもしれんな、ほら、置いてけ~とかいうやつ」
「あれは置いていけであって、置いていくではないような気がします」
「そうか、違うのか」
「今日もありがたく頂きます」
何処のどなたか存じ上げませんが差し入れありがとう、妖精さんだか小人さんだかにお礼を言いながら今日も美味しくいただくつもりです。
私は沢村捺都。白バイのパトロール隊員です。十日ほど前パトロールから戻ると私が使っている机の上にショコラケーキが置かれているという怪奇現象が続いています。しかも何故かコンビニ限定商品の初恋ショコラ。そして今のところ目撃者なし。
当初、監視カメラでもつけてみようかという話にもなったのですが、200円足らずのモノが机の上に現れたからってカメラを設置するのも馬鹿馬鹿しいのでそこまでには至っていません。第一、この怪奇現象が起きているのが警視庁内ともなれば騒ぎ過ぎると色々と厄介なので関係者一同には緘口令が敷かれております、一応。
そしてブツですが、捨てるのは勿体ないので机を使っている私が美味しくいただいています。お陰でお腹すいたと騒がなくてすむのでお腹にもお財布にも非常にありがたいです。しかし10個の大台突入となると、そろそろ犯人を特定しないとという流れにもなってきました。こちらとしてもお礼も言いたいですしね、妖精さんか小人さんに。
「しかし初恋ショコラっていうのがアレだな。なんで他の商品ではないんだろうな」
「さあ……」
「お前、何処かでショコラケーキ好きーとか叫んでないか?」
「私のチョコケーキ好きは周知の事実なので心当たりがあり過ぎて特定出来ません」
「それは困ったな。そうだ、このレジ袋から指紋は取れんか? 鑑識の篠原に頼んでみるという手もあるぞ?」
「それは一度聞いてみたんですけどちょっと難しいとのことでした」
一番最初にショコラケーキが机の上に置かれた時に一応は鑑識さんを呼び現場検証をしてみたんです。結果は物の見事にカラ振りでしたが。隊長は暫く腕を組んで考え込み、やがてポンッと手を叩きました。
「よし、お前、明日からここで留守番」
「ちょっ」
「いい加減にホシを抑えろ」
いやそれは交通課の仕事ではないような気が。
「あの、専門の人に任せたいですけど」
「交通課のことは交通課で解決、それが俺のモットーだ」
そんなモットーいらね……。
「しかし盗むならともかく、置いていくのはどういう犯罪ですかね」
「不法投棄? 遺棄? どっちだろうな」
どっちも違うような気がするのは気のせいでしょうか?
「初恋ショコラ遺棄ですか……なんか現行犯逮捕はしたくない気分になってきました」
「ホシを捕まえるまで、お前はパトロール禁止」
「えー」
隊長、無茶過ぎる。
「パトロールに戻りたいならさっさとホシを捕まえろ」
「ぶぅぅぅ」
+
次の日は隊長から押し付けられた事務方の仕事を処理することになりました。ホシを上げるのが目的と言うよりも、隊長が自分の溜め込んだ仕事を私に押し付ける為に考えたとしか思えません。
「なんだ、今日は留守番をさせられているのか、君は」
いきなり後ろから声をかけられて、漫画みたいに椅子から飛び上がってしまいましたよ。その重低音の声はもしかして……。
「かかかか、柏木管理官、何してるんですか! ってかその手に持っているのは何ですか!」
「これか?」
見たことのあるロゴマークが入ったレジ袋。そ、それはっっっ!
「毎日、メモ付きで私宛に届くのでな、指示通りこうやって届けているだけだが」
「メモ?!」
「交通課の君に届けてくれというメモ書きだ。いつも2個届けられてな、一つは私に差し入れらしい。しかし私が来るといつもパトロール中なので仕方ないから置いておいたのだが」
「そのメモよこせ、ください」
もう言葉遣いが滅茶苦茶になってしまいました。一課の管理官がどうやったら誰にも見つからずに交通課の部屋まで来るのか私には謎です。もしかして特殊能力でもあるのか、この人。
「誰が届け主か分からないのか?」
「分かっていたら10日も放置しませんよ」
「そうか。だがあいにくと今日のメモ書きはゴミ箱の中だ。まだ残っていれば良いんだが」
「ほんとに頼まれたんですか?」
「当たり前だ。これを私が自分で買って持ってくると思うか?」
眉と眉の間に皺がよってますよ、管理官。確かに金色のリボンで装飾された見るからに乙女な感じの商品をこの人が、しかもコンビニで買うなんて想像がつかない、というか考えたくありません。
「何やら失礼なことを考えているな、君は」
「しかし何の疑問も持たずに何で届けてるんですか、貴方も」
「君のことだ、使えるものは親でも使えを地で行っているものだと思っていたが」
私ってそんな無礼な人間だと思われていたんですか……。
「……ということはあのメモ書きに書いてあったことも君は知らないということだな」
なんか独り言で怖いこと言ってますよ、この人。なんなんですか、メモに書かれていたことっていうのは。
「ちなみに何と書いてあったんですか?」
「一枚目には確か……どちらが好きかお試し下さい、だったと思う」
目玉は何処いった?!な感じで目玉飛び出そうです。
「うぇあ……」
もう犯人は分かった気がしました。
「ちなみに二枚目は?」
「あー……お試しになりましたか?まだならこの機会に是非、だったかな。いや、それは三枚目だったか」
ちゃんと読んでいるんですね、けど意味が分かってないんですね? それってラッキーですよね、意味が分かったらきっと私、免職なんじゃないかと思います。お姉ちゃん、私をニートにするつもりなのか?!
「ととと、とにかくそれは頂いておきます。依頼主に関しては些か心当たりがあるので、管理官に御迷惑をかけないようにと言い聞かせておきますので」
今はご勘弁を。。。
「そうか、分かった。届く間は捨てるのも勿体ないので君に届けるようにしよう」
「すみませんっっ!」
レジ袋を恐縮しながら受け取りました。もう寿命が5年は縮まりました、きっと白髪も10本ぐらい生えたと思います。首にだけはなりたくないです! そんなことしたら祟って毎晩お姉ちゃんの枕元に立ってやるぞ!
「沢村君」
そんな私の心の叫びを聞いたのか柏木管理官は部屋のドアのところで立ち止まりました。ひぃぃぃ! もしかして厳重注意とかされるんでしょうかぁ!
「はいぃぃ!」
「私は四十過ぎの、君から見たらおっさんではあるが世間一般で何が流行っているかぐらい知っているぞ」
「は?!」
「むろん、その商品のCMもだ」
「ひっ」
ひぇぇぇぇぇ!! だ、駄目だ、絶対に首になるぅぅぅぅぅ!
+
「沢村ちゃん、魂抜けてるみたいです」
「一体なにがあったんだ? やはり妖怪だったのか?」
「まだ生きてるから白線で囲わないで下さいよ、篠原さん」