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第五章 白の剣士―ホワイト・ブレーダー―

病院、わかってることだけど、ここに竹城が入院してる。

受付をすませ、いざ病室へ……。

「ニ○一、二、三……ここか」

二○四ここに竹城がいる……。

――けど、いまさらどんな顔していけばいいんだ? くそ……それが一番問題じゃないか!

「あ、あきら君?」

右から竹城の声……ずいぶん背が縮んだなと思ったら車いすに乗っていた。

「……よう、元気そうだ……な」


――病室内、竹城はベッドの上で、俺はその横の椅子に座っている。

「その、私の事は気にしなくてもいいの……」

やっぱり、こいつは優しいやつだ……。

「そのことなんだけど、もう大丈夫だ、ありがとな」

なぜか、「う、うん」といってうつむく竹城、何かまずいことでも言ったか?

「あ、そうそうこれ……お見舞いだ」

俺は、カバンの中から一つの箱を出す。

「なにそれ?」

「ん? まあな、この病院の近くのスイーツ店で買って来てさ……」

箱の中には、二つのケーキが入っている。

「……イチゴのショートケーキと、モンブラン二つあるけど両方食べるか?」

「……私、そんなに食いしん坊じゃないんだけど」

ムスッとした、竹城はショートケーキの方を指さしていた。

「ん、こっちだな? じゃあモンブランは俺が食うか」

小皿にケーキをのせ竹城に差し出す。

「ありがとう……じゃあいただきます……」

そういって、ショートケーキをパクつく竹城、俺は俺で、モンブランを食べる……。

「うん! なかなかおいしいのね!」

ぱぁっと、晴れたようにニコッとした笑顔……か、かわいかった、買って来て正解だったかな。

「ねえ? そのモンブランちょっと頂戴?」

「別にいいけど……」

俺は一口分のモンブランをフォークですくってやる。

「ん、あーん」

ただ、フォークですくって、フォークごと渡そうと思ってたのに……。

「……これやるのか?」

「……あーん」

意地でもやるらしい……。

「あ、あーん」

「あーん……はむっ! うん! モンブランもおいしい!」

い、いかん……俺は一体何をやってるんだ……。

「はっ! わわわ……私何をやってるの……」

無自覚でしたか、それならそれでいいか。

リンゴみたいに、顔を真っ赤にさせてから、毛布で全身を隠した……いや、足が隠れてなかった。

不意に悪戯心が湧いてきてた。

「俺ちょっと、自販機行って飲み物かってくるわ」

相手の警戒心をとくための、これは嘘。

「わ、わっかたわ……」

案の定、毛布を被ったまま返事をしてきた。

俺は、竹城の足の裏が正面になるように移動する。

うわぁ……足小っちゃいんだなぁー。

そーっと、手を伸ばし、足の裏をこしょぐる。

「うひゃぁ! ちょ、ちょっと何やってるの!」

俺は、蹴飛ばされる、おそらく『ブースト』状態で……てか、足の裏強かったのかよ。

「で、何でこんなことしたの?」

「……ご、ごめん……ちょっとした出来心で……」

かなりご立腹のようだ……って、あれ? いつの間にか俺大ピンチじゃん!

細い指をパキパキならす竹城。

「なあ知ってるか? 指ならすと太くなるって……」

「ふーん……じゃあ後どれだけ、太くなるんだろうね?」


この後、竹城のご機嫌を損ねた俺は、一日中パシリになるということで、和解した……半ば強引に丸め込まれたけど。

そんなこんなで時間は正午近くで、腹の虫が鳴き始める頃だ……さっきケーキ食べてただろって突っ込んだ奴は腹筋100回な。

「なあ、昼ごはんどうする?」

「そうね……どこかに食べに行きたいところだけど、そういうわけにはいかなし……コンビニでお弁当買って来てくれない?」

「病院の食事があるんじゃないのか?」

「あるけど、まずいからいらない……それとも、あきら君作ってくれる?」

どうやら、軽い脅迫らしい。

「ダッシュでコンビニ行ってきます……ところで、何が食べたいんだ?」

「おにぎり」

即決、そっちの方がありがたいんだけど……。

「具は何がいいんだ?」

「……梅? 鮭? エビマヨ? あータラコも捨てがたい! あれば焼きそば!」

……で、結局どれなんだ? しかも焼きそばが具なんて見たことないし!

俺は無言で、病室を出た……。


サークルエーで、記憶に残っているだけ、おにぎりを一つずつ買っていく……あと、焼きそば弁当を買って帰ることにした

おにぎり100円セールでよかったぜ……お財布の中がってこれ以上はもう言うまい。

財布の中を確認しつつ、俺は病院に向かう……。

病院に向かう途中たった一人の幼い女の子――四歳か五歳くらい――が歩道の真ん中で泣いていた……。

みんな見て見ぬふり、俺だってそうするはずだった……どうせすぐ親が来るはずだと思ってたけど、どこかで見たことあるようなそんな気がしたから、何となくほっとけなかった。

「どうしたの? お父さんかお母さんは?」

女の子は、俺に気付いてないのか泣き止んでくれない……。

「ううっ……ぐす……おねえたぁん……どこぉ……うわぁあああん!」

……お姉ちゃん? なるほど! 通りで気になってるわけだ!

「ねぇ? 君のお姉ちゃんしかして、竹城怜って人?」

女の子は、竹城の名前を出すと、ピタッと泣き止んだ。

「ううっ……おにぃたん、おねぇたんのおともだちなの?」

やっぱりだったか、そしたら、このまま病院に連れて行けばいいか……。

「ああ、友達だよ! 一緒にお姉ちゃんの所まで連れてってあげるけどどうする?」

「うんいく!」

泣いていたのがウソのように、ぱあっと笑う竹城の妹。

うん、やっぱりこういう表情も似てるな。

「おにぃたんおにぃたん? おねぇたんって、どこにいるのぉ?」

え? そこからなのかよ……まさかとは思うけど、家出してきたのか?

「ええーっとね……お姉ちゃんは病院にいるんだよ」

「びょういんっていたいいたいのところ?」

「え、ああ、そうだなぁ……お姉ちゃんはお布団の上にいるから、今は大丈夫じゃないかな?」

そんなわけないだろ……きっとまだ痛いに決まってる。

こういう時って、自分で決心したことも、簡単に揺らぐんだな……気にしないと決めたのに、気にしなくても大丈夫って言われても、でもやっぱり、心奥底では、まだ気にしてたんだな……。

いや、気にしないで生きていくことなんてこれから先にもないんじゃないか?

「……たん? おにぃたん? おにぃたん!」

「へっ? あっ、ご、ごめん! どうしたの?」

「だいじょーぶ? おにぃたんすごいかおしてたよ?」

やっぱり、こういうことって、子どもにはわかるんだな……。

「大丈夫だよ!」

そこからは、このことに関しては何も考えないことにした。


「さ、着いたよ、お姉ちゃんはこの部屋の中にいるよ!」

「うん! おにぃたんありがとっ!」

扉を開けようとしているのだが、さすが病院の扉、この子には重たいらしい。

俺が、代わりに扉を開けてやる。

「あ、お帰りあきらく……って! 凛!? なんでここにいるの!」

「おねぇえたぁああん!」

勢いよく、けが人の竹城にダイブしていく竹城の妹。

少し痛そうな表情を見せる……。

「り、凛……また抜け出してきたの?」

やっぱり家出してきたのか……まあ、家は近いから問題はないと思うけど……。

それにしても、よくここの病院だって分かったな。

「それにしても、あきら君よく凛が私の妹だってわかったね? 一度も話したことないのに」

「え? まあ顔がよく似てたからな……特に笑った時の表情とかさ」

竹城がぼっと赤くなる……。

あ、あれ? おかしなこと言ったかな? いまいち竹城の沸点が分からん。

「おねぇたん? おねつあるの?」

心配そうに竹城の顔をのぞく凛ちゃん。

あ、そうか熱って可能性もなくはないか……。

「そういえば、竹城……おにぎりと焼きそばだ……あと、スポーツ飲料な」

「あ、あのね? り、凛もいることだし、わ、私の事を、そ、そのし、下の名前で呼んでくれると……嬉しいかなって……」

また顔が赤くなっていく竹城……本当に熱でもあるのか?

「それぐらいいいけどさ……飯要らないのか?」

「そ、そんなことぐらいってなによ……」

小さな声で、ぶつぶつと何かを言ったみたいだけど、なんて言ったのかは、俺には分からなかった。

「何か言ったか?」

「別に何も! それより早く頂戴!」

熱があるのかと思いきや、今度は怒り出すし……本当に表情の変化が激しい奴。

「そうだ、凛はお腹すいてる?」

怜の質問に答えるように、凛ちゃんのお腹が「くぅ〜」と、なった。

それがおかしくて、俺も怜もぷっと吹き出してしまう。

怜は、コンビニの袋の中からおにぎりを取り出し、怜と凛ちゃんとで、分けていた。

まぁ、俺は焼きそばでいいか。

「凛? お姉ちゃんと、焼きそば食べる?」

なんでも、仲良く半分ずつ……って、俺の食べる分が無いじゃないか!

「お、俺の食べる分は……?」

怜は知らん顔をする。

「食べて来たんじゃないの?」

な、何をおっしゃいますか! たった30分程度の間のどこに俺が一人だけ食う時間があったんだよ……。

そもそも、この病院からさっきのコンビニまで5分はかかるんだぞ、5分で飯を買うとしても、そこに凛ちゃんというハプニング発生だろ? この中のどこに飯を食う時間があったんだよ?

「ま、まだ食べてないんですけど……」

しかし、あんなことは言えるはずもなく、結局こうなるのが俺なのだ。

「はぁ、しょうがないわね……下に食堂があるからそこで食べてこればいいじゃない。どうやらこの病院お見舞いに来た人でも、食堂を利用していいみたいだし」

「……ここで食べさせてくれないのかよ!」

思わず突っ込んでしまった……。

きょとんとした表情で俺と怜を交互に見る凛ちゃん。

「え? ここで食べるの……べ、別にいいけど……その凛もいるし……」

また顔が赤くなる怜……やっぱり熱か?

「何か問題でもあるか? 俺はここでたべたいんだよ……」

「で、いいのか? ダメなのか? どっちなんだ怜?」

「……い、いい……けど……、ご飯どうするの?」

そこは、わけてくれないんですかい!

「少し分けてくれると嬉しいかなーって……」


その後はなんとか、飯を分けてもらい、一緒に昼食を食べた……というか、買って来たの俺だよな?

そして、今は病室に怜と俺だけ……凛ちゃんは、飯を食った後、怜が親を呼んで連れ

帰ってもらった。

その時に、よほど気に入られたのか「また遊ぼうね」と言われた……。

いつ遊んだかは分からないけど、俺は「いいよ」と返事をしてやった。

「あきら君って随分、凛に気に入られてたね?」

「気に入られることをした覚えがないけどな……」

自覚なし、俺がしたことと言えば、ここに連れて来てやったことぐらいだし……。

むしろ俺は小さい子に怖がられやすい方なんだけど……凛ちゃんは俺の事怖くなかったのかな?

しばらく、怜と凛ちゃんの事を話していた。

もちろん、そんなも会話が続くわけもなく会話の内容がだんだん尽きて、ちょくちょく無言になることが多かった。

すると意外な訪問者が現れた……。

「ややや! 怜ちゃん大丈夫ですか?」

ここは病院だというのに騒がしいやつ。

俺の幼なじみ高野友梨香たかのゆりかだった。

「お前ここで何やってるんだよ?」

「何って、ボクは怜ちゃんのお見舞いに来たんだよ!」

本当に意外過ぎた……。

「お前……昼から俺の後をつけて来たな?」

「……ば、ばれてたかぁ……あはは」

友梨香は病室に入るなり、小さな花束を怜に差し出した。

「早く退院できるといいね……傷大丈夫?」

やっぱり何か引っかかる……。

「一週間すれば、ほとんど大丈夫なんだって、わざわざ、お見舞いありがとうね!」

「そうだ! 友梨香、来てもらったところ悪いんだけど、怜が女子トイレにポーチか何かを忘れて来たんだってさ……俺じゃいけないし、代わりに友梨香行って来てくれないか?」

怜の方を向いて「あわせろ」と口パクで言うと、伝わったのか、小さく頷いた。

「そ、そういう話をしてたところでちょうど友梨香ちゃんが来てくれたんだ!」

しばらく、考える友梨香……。

「よし、任せて! じゃあとってくるね!」

そう言うと、友梨香はさっさと出て行く。

……もしも、この違和感の正体が当たっていれば、ここは危なくなるだろうな。

「ね、ねぇ? あきら君さっきのはどういう意味?」

それにしても、怜は、よく乗ってくれたな……。

「そうだな、俺の仮設から言えば……白の剣士の正体がわかったかもしれない」

怜は、力なくうなだれた……。

「私も……そんな気がしたの」

やるべきことは一つ……友梨香が本当に『白の剣士』なのかを確認することだ。

ただ疑問なことがある……なんで友梨香は怜がここにいるって知ってるんだ? もしも生徒会メンバーと関係のない人が来るとしたら、トミカのはずなのに……。

「この階のトイレにはなかったよー……」

意外と早かったな……さすが陸上部だ。

「ごめん、怜が持って帰ってきたのを忘れてたみたいだ」

「まじですかい! もう、しっかり確認はしなきゃだめだよ!」

――どうするべきだろうか、ここでやる気はなさそうだし……その裏をかかれてここでやられるのもなんだし……。

「なぁ……なんで、ここに怜がいるって知ってるんだ? ……白の剣士!」

誰も声を出さない、怜ですら俺がいま言うとは思っていなかったのだろう。

沈黙、静寂……それを突き破る『白の剣士』。

「くっくく……あっはははは! ばれちゃったね! そうだよボクが『白の剣士』って呼ばれてる張本人さ! ボクは止められない『あの人達』の計画は成功するんだ!」

あの人達!? って今はそんなことを考えてる場合じゃないな。

すると友梨香は、病室を飛び出した。

友梨香を追いかけたいところだが、こんなところで戦うわけには行かない……。

それに三回も負けてる相手だ、俺が勝てる保証なんてないし。

「……友梨香」

突然、俺の袖が何かに引っ張られ、ベッドの方に倒れ込んだ。

原因は怜だった。

体勢が悪い……。

俺の、顔の直ぐそばに、怜の顔があった……。

「ど、どうしたんだよ」

黙り込む怜、有無を言わさず聞こえる息づかい……。

どうかしてしまいそうだった……。

「目つむって……」

「へ?」

真っ赤になりながら、その息づかいは細かくなっていく。

「いいから! 目をつむるの!」

「お、おう……」

何がしたいんだろ?

「本当に閉じてる?」

「閉じてる!」

何秒ぐらい待っただろうか……俺の頬に温かく柔らかい『何か』が当たってすぐ離れた……。

『何か』は、考えれば、すぐ答えはでた……唇だった……。

自分でも顔が暑くなってることは分かる。

「……な、な」

戸惑っている俺の言いたいことを察したのか、目をそらしながら怜の口が開く。

「そ、その……なんというか……お、おまじない……」

……それを聞いて安心した。

そのおまじないは、俺の迷いをかき消してくれた気がした。

「……えっと、ありがとうな! それじゃ行ってくる!」

俺は病室を勢いよく飛び出した。


さて、あいつが行きそうな場所に心当たりなんか無いし、どうしようか……。

突然、頭に何かが当たった、それは丸まった紙だった。

「何なんだよ……てか誰だ? こんな悪戯をするのは……」

辺りを見回しても、俺に危害を与えるような人はいなかった。

ふと気になって、丸まった紙を広げてみるとそこには、地図が記してあった。

一体どうなってるんだよ?

根拠なんてない……ただ、行くあてもない、だから俺はこの地図の示す場所に向かうことにした。

地図はどうやら、廃ビルが連なる地域、通称:無触地むしょくち――誰もその場所に触れないためそう呼ばれている――の場所を示していた……。

ここから随分と遠いんだけどな……まあ使うか。

「『コール・アクセル』!」


もう少しで無触地に着くところで誰かに呼び止められた、その声の主はもちろん知っている、友梨香だ。

「おーい、どこ行くのさ! ボクはここだよ!」

逃げたくせに、よく呼び止めれたものだな……。

地図の場所から近くも遠くもないような場所に友梨香はいた……。

ふと気になり地図に目を落とす。

……じゃあ、この地図は一体?

「あき? ボクが白の剣士なんだよ、ボクがあきを殺そうとしたんだよ? でも、怜ちゃんがあそこであきを庇うのは予想外だったなぁ……でも、あきも相当ショックだったみたいだね?」

相変わらずよくしゃべる……話がまとまってるのかそうでないのかがよくわからない……。

「何が言いたい? 俺は確かにショックだったな……しかも、二回とも女子に襲われ、女子に助けてもらってる……一男子として、こんな情けないことはない」

「三度目の正直? あはは!  あきには無理だよ! ボクは最強なんだから!」

「どうしたんだよ……お前らしくもない」

「ボクらしくない? じゃあ、あきはボクの何を知ってるんだい? ってこんなこと言って気づくようじゃ、ボクだって苦労しないか……」

何のことだ? 常々女子は訳の分からないことをぶつぶつと……。

「あきはもっと人の気持ちに敏感になるべきだよ! それじゃあ、一生苦労すると思うよ?」

「そんななことをどっかの誰かさんからも聞いたことがあるんだけど……俺ってそんなに鈍感なのか?」

「はぁ、自覚症状なしか……まったく、あきらしいね!」

「俺らしい? じゃあお前は俺の何を知ってるんだ?」

さて、これで振り出しだ……。

「ボクは、あきの中学生までの事だったら何でも知ってるし、高校のことだってこれから全部知るつもりだし……それにこれからだって同じだよ……」

――どこのヤンデレだよ……。

「そろそろ、あきを解放してあげなくちゃね? それじゃ、準備はいいかい?」

「解放? 何のことかはさっぱりだが……お前を捕まえてやるさ……」

「じゃ、行くよ? もちろん本気でね! 『起動アクト剣士ブレーダー』」

右手に『影』の剣が出現する……。

『影』の剣……そうか、剣士だから剣を中心にして戦うんだよな、なら剣を壊してやれば、俺の方が有利になるって話だ。

今まで見てきた白の剣士とは比べ物にならないほどの速度で切りかかる友梨香。

それでも、俺のアクセルの方が速度的には上だろう……けど、間合いを取るわけにはいかなかった、理由は簡単、あの剣が飛んでくる可能性だってある。

「逃げないの? 斬っちゃうよ?」

「『コール・スパークマスター』! 電刃鏡光」

俺の右手に『影』の剣が出現し、それで、友梨香の剣を受け止める!

「誰が逃げるって?」

鍔の無い鍔迫り合い……その向こうでくすっと笑う友梨香。

「それでも『マスター』を使い続ければ、簡単にガス欠を起こすよね? じゃあ僕の勝ちだよ……なにせ、『アート』は任意の持続効果だからね?」

そんなことぐらい、会長から聞いてる! だから『能力』ごと破壊する!

「攻略法でもあるっていうの? 残念だけどその作戦に行くまでに、あきは負けてるよ……」

右手だけだったはずの『影』が左手にも現れた、さらに『実態』となっていく……。

両剣とも、まがまがしいバスターソードへと変貌した……。

「いくよ『対剣乱舞』!」

「『デュアル:アクセル・ブースト』!」

「あはははは! 剣を捨ててボクに勝てるの?」

一回転し友梨香の剣が動き出す。

右の切り上げ、左の突き、右のなぎ払い、左の切り上げ、両剣での切落とし、全てをかわし、反撃に出ようと友梨香との間合いをゼロまで詰める。

でも、それは相手の攻撃を有利にすることになり、右から斜め切り上げをかわすことが出来なくなって吹っ飛ばされた……。

腕の切り傷からにじみ出る血……どうやら、かすっただけだったのかもしれない。

どういうことか、その場に立ったままの友梨香。

「なんだ? とどめをさす絶好のチャンスだったじゃないのか?」

しばらくの間友梨香は無言だった……。

「とどめ? まだ早いよ、彼はまだ来ないんだもの……」

「彼? 誰だそいつ……」

「あきが知る必要なんてないよ……それじゃ、続けようか」

俺に向かって二本の剣を投げつけてくる……。

それを俺は簡単に弾き破壊する……。

「なんだ? 苦肉の策にしては、早すぎないか?」

「苦肉? 何を言ってるの?」

すると、砕けた二本のバスターソードは消えてなくなり、塵となって無に返る。

「ボクは、あきを倒すことを命じられてるんだ……倒すって言うのがどういう形なのかはボクには分からないけどさ、全部彼が決めてくれるよ……」

さっきから言う彼って……一体誰なんだよ、きっと聞いてもさっきと同じ答えが返ってくるに違いない。

「さて、おしゃべりもこれまでかな……あんまりしゃべると彼に怒られちゃうからね」

「お前……本当に友梨香なのか……?」

「何を言ってるんだい? やっぱりボクの事何も知らないじゃないか……」

今度は右手に日本刀、左手には忍者等が『実態』となり、さらに空中に左手と同様に忍者刀がいくつも出現する……。

って、何だよ! その技は……。

「……『空刃連撃翔くうじんれんげきしょう』」

空中に浮いた忍者刀を左右の刀で打ち始め、ものすごい勢いで俺に向かってくる。

これがナイフだったら素手でも撃ち落とせたけれど……忍者刀となると話は別で、連続でやっていてもいずれ速度的に追いつかなくなるだろうし……あいつはどうやら剣・刀系なら無限に錬成できるらしいからな。

だから俺が取るべき行動はただ一つ……一か八かの賭け!

「……『デュアル:アクセル・スパーク』! 雷刃鏡明・疾風はやて

で、出来た! って喜んでる場合じゃないな。

槍型の雷刃鏡明は回すだけでも回避になり、それを俺が直接回す必要なんてない! 今の俺は『雷使い』なんだからな。

「いけ! 『支配ロード・する電撃スパーク』」

回転する、槍は、俺に向かって飛んでくる忍者刀を撃ち落とす。

行ける! 今の俺なら、『白の剣士』の『能力』を壊せる!

「ふーん……あきも意外とやるようになったね、だけど、そろそろガス欠じゃない?」

……そういえば、このぐらいの時間で前はガス欠を起こしったけ? だけど、今はまだ余裕な感じなのが自分でもよくわかる……ふ、おまもりか全くその通りだよ。

思い出すとまた、鼓動が速くなった……。

結局、俺が強くなるには女の子が必要なわけだ……つくづく、情けない男子だな。

「誰が、ガス欠だって? 俺はまだいけるぜ!」

「あっそう……何か特別な接触でもした?」

「何で俺の『発動条件』を知ってるんだよ? あ、その彼ってやつから聞いたのか」

「そうだよ、あきにしては珍しく直感が働いたね?」

俺ってそんなに第六感が鈍いのか? 自分では普通なつもりだったのに……。

「また、おしゃべりだったね……どうやら、彼も着いたみたいだし再開しようか」

「……彼ってやつはここにいるのか?」

後でその彼ってやつから色々と聞きださなければいけないみたいだな……でも、今は目の前の友梨香に集中しなくちゃいけない。

「まあね……それじゃ、行くよ?」

そういうと、友梨香は高くジャンプした。

「『螺旋刃激衝らせんじんげきしょう』!」

体を回転させながら日本刀と忍者刀を交差させて落下してくる……その場から逃げようとすると、地面から無数のやいばが生えてきた。

「ちっ! 『デュアル:ブースト・スパーク』! 雷刃鏡明・轟雷!」

大剣の轟雷で螺旋刃激衝を防ぐ……がいつまでたっても、友梨香の回転が止まらなかった……。

轟雷がどこまで持つかによって、俺が生きるか死ぬかが決まるな……。

なんて思ってる場合か! そんなこと考えたってろくなことないじゃないか!

螺旋刃激衝を受けてる状態で俺は、轟雷を傾け、友梨香の攻撃を受け流し、そのまま無数の刃へと突っ込んでいく。

「この!」

「っ! 『コール・アクセル』!」

ここで一気にたたみかけるしかなさそうだ!

「行くぞ、『高速拳弐ノ型・猛撃』!」

高めの跳躍からのキックはかわされたが高速拳を叩きこむことに成功! 最後に一瞬、相手の視界から消え、そこから思いっきり蹴飛ばす。

友梨香は5メートルぐらい飛ばされた。

「ぐあっ! ん、ぐぅ、ぐあ……」

やばい! やり過ぎたかもしれない……。

「お、おい……大丈夫か?」

俺は慌て友梨香に近づく……罠だとも知らずに。

脚に突き刺さる一本の刃……。

「ぐ、ぐあああ! こ、このやろう……」

「だめだよ? 敵なんだから無防備に近づいちゃ……」

「そんなこと知るか! 例え今は敵だとしても、幼なじみなことには変わりはないだろうがっ!」

「蹴飛ばしたくせに……」

「勝負だからな……」

「はぁ……」と、友梨香が長めのため息をすると、出現していた刃はすべて散り散りになった……。

「別に終わった訳じゃないんだから! どっちかって言うと、今からがフィナーレなんだよ!」

「奇遇だな! 俺もそのつもりだ!」

「「行くぞ」」

「最後だよ! ボクの力となれ『リリィ・ホーク』」

友梨香の両手には、一振りの大剣……それは真っ白で、切っ先がとてつもなく鋭利刀身の真ん中には一つの光る玉が入っていて、鍔は翼のように左右それぞれ3本ずつに広げたような見事というべきなのか、すごいという言葉しか出なかった。

「今度は、俺の番だ! 『デュアル・ブースト』……高速拳ラッシュ零ノ型・無心ぶしん

普通の高速拳なら何らかの構があるが、無心は別で一切構えがない……というよりも、構える必要が皆無なのだ。

「なめてるの?」

「さあな? ま、試してみろよ」

おそらく、俺が予想するに、あの刀身にある光を放つ玉こそが『能力』の元だ……あの剣を壊せば、友梨香の能力は消滅する!

お互いの距離はさほど離れていない、友梨香が大剣を一振りすれば簡単に届くぐらいの距離で、客観的に見れば俺が確実に不利な状況だ、だけど、俺には確実な勝算がある! アクセルで、加速し、ブーストでその威力を高める……無心ならば、刃物だって怖くはない!

リリィ・ホークを地面に付きさし、大剣を軸にして、友梨香の体がメリーゴーランドのごとく回転し始め、ほぼ無限の回し蹴りになっている。

無心はそれの威力ですら『無』にする、つまり無心は受け流しなんだ!

両腕で回し蹴りを受け、後転するようにして受け身を取り、足を突き上げる!

受け取った力を利用した蹴り上げの威力は通常の2倍近くにはなるだろうな……。

友梨香は俺が蹴り上げることに気づき大剣を抜き、ガードに入る。

「俺はそれを待ってたんだ! 終わりだ白の剣士!」

大剣の光る玉を狙って、思いっきり蹴り上げる……。

大剣の玉は砕け、リリィ・ホークも砕ける……。

「そ、そんな! ボクの『リリィ・ホーク』が!」

「これで、終わっただろ? お前の能力も消えた……俺の勝ちだ」

返事はすぐに返ってこなかった。

「っぷ……あはは! やっぱり騙されてたんだ!」

「ど、どういうことだ……あれが能力の元だったんじゃなかったのか?」

「『リリィ・ホーク』!」

再び友梨香の両手にほとんど変わらない大剣が握られていた。

ただし、さっきまで刀身に会った光る玉はなくなっていた。

ま、まさかダミー……完全にやられたな。

突然、太陽の光が反射した……それは、友梨香の腕からだった……。

なんで気づかなかったんだ? いつもはしてないはずの腕輪に……。

あれだったのか……。

「『デュアル:アクセル・スパーク』 雷刃鏡明・閃光!」

短剣型の雷刃鏡明が両手に出現した。

「それで、ボクの『リリィ・ホーク』を超えられる?」

「超えてやるさ……」

友梨香の大剣の一撃を防げなくても、かわすことなんて簡単な話だ。

アクセルだし、速度で負けることなんてありえないんだ!

「いくぞ! 『紫電閃舞しでんせんぶ』!」

リリィ・ホークの連続突きを舞うようにかわし、すり抜ける……。

腕輪が目の前に……そして、俺が狙ってることに気付いてない様子だった。

大剣を横なぎに振り、反撃しようとしてる。

けど、その前に俺の閃光が腕輪を破壊した……。

そのまま行けば、俺はリリィ・ホークに首をはねられていたが、すれすれでリリィ・ホークは砕け散った……。

俺の目の前を友梨香の腕が空振りして、そのままバランスを崩し倒れる。

「……あはは、気づかれちゃってたみたいだね」

「お前あんまりアクセサリーとかつけなかっただろ? あれは、お前に不自然だったんだよ」

「……………あき」

手を出すと、ふり払われた。

「だめだよ、ボクはあきの手を取ることはできないから……」

「そんなこと気にするなよ、俺とお前は幼なじみなんだから」

もう一度、手を差し出す。

「ボクは……」

「意地張るなよ……」

「そうだね……」

友梨香が手をのせ、俺は友梨香の手を引く勢いをつけすぎたらしい。

結果から言うと、キスをしてしまった……というか、最後は完全に友梨香が意図的にやったのだが……。

「ど、どういうことだよ……」

友梨香はケロッとした顔で、何事もなかったかのように平然と俺から離れていく。

「……最後なんだから」

ぼそっと友梨香が言う……。

「え? なんて言った?」

少し間が空いて友梨香が言った。

「別に何も!」

友梨香の顔は普通だったけれど、耳だけは真っ赤になっていた。


「おいおい……本当にただの幼なじみなのか?」

出てきたのはトミカだった。

なぜだろう……友梨香が何度も言っていた『彼』という言葉が気になっていた……。

「友梨香……まさかトミカがさっきまで言ってた『彼』なのか?」

「ああ、そうだ……俺が高野を使ってお前を襲わせた……」

友梨香が答える前にトミカが答えた。

……例えば、友梨香とトミカに何かしらの接点があったとして、俺がトミカに連絡すれば、それは敵に情報を垂れ流し他のと同じで、友梨香が怜の見舞いに来ても辻褄が合うじゃないか。

でも、そ接点って一体……。

「なんで! なんでだよ! なんでトミカに襲われる必要があったんだよ!」

「俺がそんなこと知るか! すべて、あの人が決めたんだ……俺がその人の手となり足となり動くだけだ!」

それじゃ、ただの言いなりじゃないかよ、奴隷じゃないかよ……。

「じゃあ、俺の事を最初っから狙っていたのか?」

「ああ、高校に入学する前からな……」

なんだよ! なんなんだよ! 友達じゃなかったのかよ……。

「入学する前から? じゃあ、俺が鈴峰に行くことも知ってたのかよ! 誰なんだよそいつ……誰なんだ!」

自分自身驚いている……大声を上げ、叫び、怒っていたことを……。

けれど、トミカは平然と返答した。

「今、お前が知る必要もないし……お前はどうせ、あの人の研究の一部でしかないんだからな……それでも、知りたいなら……夏休みに開催される『大会』に出ればいい」

「大会? 何の大会なんだ?」

「決まっているだろ……『能力者』のための大会だよ、それと……高野! お前はもう用済みだそうだ……『あとは好きにしろ』とのことだ」

「結局、ボクにも誰かは教えてくれないんだね?」

トミカは踵を返し去ろうとしていた……。

「当然だ……使えない駒に何を教える必要がある? それと、お前が使っていた『人工能力』は試作品だからな……どんなことが起きるか分からないぞ、十分に気を付けるんだな」


結局トミカは敵側だったということしかわからなかった。



それから、一週間後……。

怜は無事に退院することができ、1学期も残すところあとわずかとなった。


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