人とスープの暖かみ
「ようこそ我が家へ!そう広くも華やかでもないが、まあ座ってな。メシならすぐできる」
「いや、悪いですよ。俺も何か手伝います」
「そうか?んー、じゃあ隣の小屋から、薪を何本かもってきてくれ」
「わかりました」
家に隣接する小屋の前に立ち、閂を抜いて扉を開ける。
日が傾いてきているのもあり中は薄暗く、木の匂いと、少しカビ臭い匂いが漂ってきた。
左手には薪が積み上げられており、右手には猟の道具である弓矢とナイフの予備の他、獣の毛皮などが置いてあった。奥にもまだ何か置いてある。
薪を適当に数本取り、片腕に抱えて小屋を出て、閂を差し直す。
サガが家の方に戻ると、ビンは水の入った鍋と、野菜と、先程貰った山菜と、薫製肉を取り出したところだった。
「戻ったか。そしたら薪はこっちに。んで、この具材、適当に切っといてくれるか?」
「任せてください」
包丁を手に取り、サガは手慣れた手付きでまず山菜を固い茎の辺りと葉の辺りとで切り分け、野菜を切り、薫製肉を小さめに切っていった。
ビンはその横で火を起こし、鍋の水を温め始めていた。
「お、もう切れたか。そしたらあとは煮るだけだから、座って待ってな」
言われた通り席に着き、夕食が出来上がるのを待つ。
ビンは鍋に薫製肉、茎と野菜、葉の順番で具材を入れた。
「ところで兄ちゃん、あんた明日からどうするつもりだい?」
「町の方へ行きたいのですが、一番近い町までは、どのくらいですか?」
「それがなぁ、馬でも丸二日はかかっちまう距離なんだ」
「それくらいなら大丈夫です」
サガがさらっと即答したのでビンは面食らう。
「おいおい、ちゃんと聞いてたか?馬で丸二日だぜ?」
「問題ないです。行けます」
「行けますってお前…森さえ抜ければあと平原だから危険は少ないとしても、一人で自分の足でってのは…」
「大丈夫です」
「いやだから、だな…」
サガの顔も声も本気なので、ビンの勢いが次第に下がってきた。
そうして静かになったところで、鍋がグツグツと煮え立つ音が聞こえてきた。
「おっといけねぇ、もう煮えてるな。取り敢えず話の続きはメシの後だ」
ビンは木のボウルに二人分のスープをよそい、パンとともにテーブルに置いた。
「さ、食った食った」
「いただきます」
サガからすれば、今朝まで食べていたものに比べれば貧相も良いところな食事だが、薫製肉の塩味だけで味付けされたスープは暖かく、とても美味しく感じられた。
食事を済ませ、食器を洗い終えたところで、またサガの明日に関する話題になる。
「そう言えば、地図を見たいんですが、持ってたりしますか?」
「地図ねぇ…確か村長なら持ってた筈だ。まだそう遅くもない。今から行くか」
そう言って再び二人家を出て、ビンの先導で村長の家へと向かう。
着いた家は他の家と比べるとそれなりに大きく作られていた。
「おーい、バンパの爺さん。夜にすまねえ、ビンだ」
「はいよ、今行くから待ってなさい」
ビンが扉を叩きながら中の者を呼ぶと、少ししわがれているが、ハッキリとした声が返ってきた。
少しして扉が開いて現れたのは、背は小さめだが足腰はしっかりしている、精悍な老人だった。
「やあビン。隣の方は…さっき外で騒がれてたお客さんかな?」
見た目に反し、物腰柔らかな態度と声だった。
「サガと言います。どうも」
自己紹介とともに軽く頭を下げる。
「村長のバンパだ。挨拶に行けなくてすまなかったね。さて、用件は何かな?」
「爺さん、地図持ってなかったか?」
「あぁ地図か。確かに持ってる。持ってくるから待ってなさい」
そう言ってバンパは奥へ消え、そう時間をかけずに地図を持って戻ってきた。
「貸してあげるから、家で見なさい。明日返してくれれば良い」
「ありがとうございます、バンパさん」
「ありがとよ、爺さん。今度また旨い肉を優先的に回してやるよ」
「ハッハッハ!そりゃ楽しみだ!」
そう快活に笑ったパンパと別れ、ビンの家に戻った二人は、早速地図を広げていた。
「この村は確かここ。最寄りの町は、北東に進んだこの辺りだな。ポツンとそびえる山が目印だ。それを囲むように町があるんだ。しかし、ホントに行くのか?しつこいようだが、馬で丸二日だぞ?」
「腕と足には自信があるんです。信じて下さい」
「いや、最悪それは良いとしても、兄ちゃん、無一文だろ?」
「え?あ...」
情報を求めて町へ行きたいという思いが先走りすぎて、全くお金のことを考えていなかった。
「ハハ、しょうがねぇなぁ」
そう言ってビンは部屋の角にあった引き出しの一つを開けると、そこから一つの革袋を取り出した。
中からはジャラジャラと音がする。
「俺のへそくりさ。貯めるだけ貯めて使ってねぇから持っていきな」
「いや、いやいやいや!流石に貰えませんよ。返せるようなものも、何も…」
「良いんだよそんなのは!兄ちゃんが今後も何処かで元気に生きてたら、ソイツがお返しだ!」
ビンは笑顔でそう言って、半ば押し付けるようにサガに革袋を渡した。
「その…はい。大事に使わせてもらいます」
「よし!それじゃ疲れてるだろ。あの部屋のベッドを使いな」
「ビンさんは?」
「小屋に予備のベッドがあるから気にすんな。じゃ、おやすみな」
「お休みなさい」
サガは部屋に入り扉を閉め、ベッドの近くの棚の上に革袋を置いた。
ベッドに寝転ぶと、どっと疲れが押し寄せてきた。
扉の向こうからは、ビンが小屋から予備のベッドをもってきているらしい音が聞こえてくる。
(いっぱいお世話になっちゃったな。良い村だよな。小さいけれど活気があって、村人もみんな親切で…しかし、俺は今どんな状況下にあるんだろう…最後の記憶は…ローグさんとルアスさんに絡まれて…そうだ、寝落ちちゃったんだっけ。その後…なんか…変…な…感覚…が…)
疲労に押し負け、サガの思考はそこで途絶えた。




