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EP7 選ばれた理由

昔から、私は「頭が良さそう」と言われてきた。


 理由は単純だ。

 背が高く、姿勢がよく、表情を崩さない。

 それだけで、人は勝手に「できる人間」だと決めつける。


 実際の私は、地頭がいいわけじゃない。


 覚えるのは遅いし、一度で理解できないことも多かった。

 それでも、周囲は期待する。

 ――九条さんなら分かるでしょ。

 ――生徒会長なんだから。


 期待に応えなければならない空気の中で、私は必死に努力するしかなかった。


 できるふりをして、賢い人の真似をして。

 そうして今の立場に立っている。


 だから、分かってしまったのかもしれない。


 あの日、校舎裏で見た――

 一学年下の後輩、如月蓮の目。


 成績優秀。

 部活でも結果を出している。

 幼馴染の一ノ瀬紬に想いを寄せている、という噂も耳にしていた。


 傍から見れば、順調な生徒。


 でも。


 彼の目は、違った。


 何かを失って、

 それでも泣くことすら許されないような――

 今にも壊れてしまいそうな、空虚な色をしていた。


 ああ、と私は思った。


 この人は今、

 「できる人間」でいる余裕すら、ない。


 胸の奥が、きゅっと締めつけられる。


 同情ではない。

 憐れみでもない。


 ただ、放っておけなかった。


 努力しても、届かなくて。

 評価されても、救われなくて。

 それでも前に進もうとしている人の目を、私は知っている。


 ――あれは、昔の私と同じだった。


 だから、声をかけた。


 理由なんて、後付けでいい。

 生徒会長としてでも、先輩としてでもない。


 ただ一人の人間として。


 あの時、彼の前に立った自分の選択を、

 私は今も、間違いだとは思っていない。


――あの目を、もう一度見たくない。


 生徒会室の窓から差し込む午後の光を背に、九条雅は静かに目を伏せた。


 机の上には、整然と並んだ書類。

 次期行事の企画案、予算表、推薦者リスト。


 その中に、ひとつだけ――

 如月蓮の名前があった。


 優秀。

 真面目。

 責任感が強い。


 評価欄には、そう書かれている。


 けれど、九条の脳裏に浮かぶのは、数字でも肩書きでもなかった。


 校舎裏で見た、あの目。

 必死に立っているのに、今にも崩れ落ちそうな――

 「誰にも見つけてもらえなかった人間」の目。


(……また、奪われるだけの場所に戻らせる気はない)


 九条はペンを取り、蓮の名前に静かに丸をつける。


 生徒会は、逃げ場じゃない。

 守られる場所でもない。


 けれど――

 自分の価値を、誰かに決めさせなくていい場所にはできる。


「如月蓮」


 小さく名前を口にする。


 彼はまだ、自分が何を失い、何を得ようとしているのか、きっと分かっていない。


 追いかける背中を失ったことが、

 終わりじゃなく、始まりだということも。


 だからこそ。


(私が、線を引く)


 努力を嘲る声から。

 才能を利用しようとする視線から。

 「誰かの下であること」に慣れさせようとする世界から。


 それは庇護じゃない。

 干渉でも、支配でもない。


 ――選ぶ権利を、渡すだけだ。


 九条は椅子から立ち上がり、扉へ向かう。


 明日、彼を呼ぼう。

 条件も、期待も、全部正直に伝える。


 それでも来るかどうかは、彼自身に決めさせる。


 あの目をした人間が、

 再び、自分を見失わないように。


「……今度は、私が君の目標になる」


 それは誰にも聞かせない、

 生徒会長・九条雅の――小さな決意だった。

また読みたい!!続きが気になる!って人はこれからもぜひ応援してください

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