EP6 偽の勝利
王堂司は、自分が“勝った”と信じていた。
如月蓮から、一ノ瀬紬を奪った。
それだけで、十分だったはずだ。
教室でも、廊下でも、周囲の視線は自然と自分に集まる。
サッカー部キャプテン。
成績優秀な幼馴染を射止めた男。
――完璧だ。
そう思っていた。
……はずなのに。
「……なんで、あいつなんだよ」
放課後、人気のないグラウンドの隅で、王堂は吐き捨てるように呟いた。
如月蓮。
自分の影に隠れているだけの存在。
副キャプテンという肩書きも、結局は“補佐”。
紬を取った時、確かに優越感はあった。
あいつがどんな顔をしたか、想像するだけで気分がよかった。
――俺の方が上だ。
そう、はっきり証明できた気がした。
だからこそ。
最近の蓮の変化が、気に食わなかった。
前みたいに俯かない。
悔しそうな顔もしない。
それどころか。
「……九条生徒会長?」
その名前を聞いたとき、胸の奥がざわついた。
学校で美人だと有名な存在。
成績一位、生徒会長。
自分でも、手の届かない“上”の存在だと分かっている。
そんな相手と、蓮が関わっている。
しかも、生徒会に誘われたという噂まである。
「調子乗ってんじゃねーよ」
歯噛みする。
サッカーの実力でも、立場でも、
自分が“上”であるはずなのに。
それを、確実なものにするために。
王堂は、金を使った。
家の力。
大人の世界のやり方。
監督に近づき、部の運営資金の話を持ち出し、
気づけば立場は“部長”。
肩書きは、もう副ではない。
「これで、完全に俺の勝ちだ」
誰に言うでもなく、そう思った。
蓮に勝った。
紬を取った。
サッカー部でも頂点に立った。
なのに――
心の奥のざわつきは、消えなかった。
原因は分かっている。
九条雅。
あの生徒会長の存在が、どうしても引っかかる。
蓮が、あの人と並ぶ可能性。
それだけは、認められなかった。
そして、ふと。
王堂の頭に、軽い考えが浮かぶ。
「……紬を落とした俺ならさ」
口元が、歪んだ笑みに変わる。
「生徒会長も、いけるんじゃね?」
根拠はない。
実績もない。
ただ、奪うことで得た快感が、
次の“獲物”を探していただけだった。
それがどれほど危うい考えなのか、
王堂はまだ気づいていない。
勝ったはずの男は、
いつの間にか“失う恐怖”に支配され始めていた。
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