表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/28

EP4 ターニングポイント

すみません、投稿が遅れてしまいました。


翌日から、紬はどこか落ち着きがなかった。


 昼休みも、放課後も、視線は無意識のうちに教室の後ろ――蓮の席へ向かってしまう。


 けれど、目が合うことはなかった。


 以前なら、少し視線を向けるだけで気づいていたはずの蓮は、今はまるで自分を避けるように、別の場所を見ている。


 胸の奥が、じわじわと不安に侵食されていく。


 そして放課後。


 蓮が一人で教室を出ていくのを見て、紬は衝動的に立ち上がった。


「……蓮!」


 廊下に響いた自分の声に、少し驚く。


 蓮は足を止め、振り返った。


 その表情は穏やかだった。けれど――どこか距離がある。


「話、あるんだけど」


「……うん」


 短い返事。


 校舎の隅、人目の少ない場所で向かい合う。


 少し沈黙してから、紬が口を開いた。


「最近さ……私のこと、避けてるよね」


 思っていたより、声が震えた。


「何か、私した?」


 蓮はすぐには答えなかった。


 その沈黙が、紬の胸を締めつける。


「……前みたいに話してくれないし、目も合わせてくれないし」


 言葉を探しながら、続ける。


「理由、分からなくて……」


 ようやく、蓮が口を開いた。


「……分からないままで、話しかけてきたんだ」


「え?」


 その一言に、胸がざわつく。


 蓮は視線を逸らし、淡々と言った。


「一昨日の放課後。校舎裏」


 ――校舎裏。


 心臓が、強く脈打つ。


「紬と、王堂が話してた」


 その瞬間、紬の中で何かが繋がった。


 血の気が、すっと引いていく。


「……まさか」


 小さく呟く。


「聞いてたよ」


 蓮の声は、静かだった。


「最初から、全部」


 言葉が、出なかった。


 あの時、誰もいないと思っていた。

 軽い気持ちで、冗談のつもりで――


「……ごめん」


 やっとの思いで、声を絞り出す。


「本当に、そんなつもりじゃなかった」


 指先が、かすかに震える。


「蓮のこと、馬鹿にしたわけじゃ……」


「分かってる」


 被せるように、蓮が言った。


 その優しさが、逆に胸を締めつけた。


「でもさ」


 蓮は遠くを見る。


「俺、あの時初めて気づいたんだ」


「……何に?」


「ずっと、紬の背中だけを見てたって」


 淡々とした声。


 責めるでも、怒るでもない。


「追いつくことしか考えてなかった。隣に立つことも、ちゃんと向き合うことも、してなかった」


 紬の喉が、詰まる。


「だから……もういいんだ」


 その意味を理解した瞬間、胸の奥が痛んだ。


 目の前にいるのに。


 話しているのに。


 ――見られていない。


 蓮の視線は、自分を通り越して、もっと先を向いていた。


「待って……」


 思わず伸ばした手は、宙を掴む。


「蓮、私――」


「じゃあ」


 蓮はそれ以上、言葉を聞こうとせず、軽く頭を下げた。


「今まで、ありがとう」


 それは、確かな別れの言葉だった。


 廊下に一人残された紬は、その場に立ち尽くす。


 胸の奥に広がるのは、後悔と、遅すぎた気づき。


 ――あの時、軽く口にした言葉が、どれほど大切なものを壊してしまったのか。


 今になって、ようやく理解していた。


――翌日。


 教室では、いつものように信が蓮の机に肘をついていた。


「なあ蓮。最近、お前なんか雰囲気変わったよな」


「そうか?」


「うん。なんていうか……前より前向いてる感じ」


 信は笑いながら言う。


「いいことあった?」


 蓮は少し考えてから、首を横に振った。


「悪いことも、あったよ」


「そっか」


 それ以上、深くは聞かない。


 そのとき。


 教室の扉が、静かに開いた。


 ざわり、と空気が変わる。


「……生徒会長?」


「九条先輩だ」


 視線の先に立っていたのは、九条雅だった。


 整った立ち姿と、落ち着いた表情。教室全体を一瞬で静かにさせる存在感。


 九条はまっすぐ、蓮のもとへ歩いてくる。


「如月蓮くん」


「……はい」


 周囲の視線が、一斉に集まる。


「放課後、少し時間もらえる?」


 ざわめきが広がる中、九条は穏やかに続けた。


「生徒会に、来ない?」


「……生徒会?」


え、マジで!?」


 思わず声を上げたのは信だった。


 教室中の視線が一斉に集まる中、蓮は言葉を失っていた。


 生徒会。

 九条雅。

 自分。


 頭の中で、それらがうまく結びつかない。


「……あの」


 しばらくして、蓮はようやく口を開いた。


「なんで、俺なんですか?」


 教室が、しんと静まり返る。


 九条は一瞬だけ驚いたように目を瞬かせ、それから小さく微笑んだ。


「いい質問」


 そう言って、腕を組む。


「成績だけなら、あなた以上の人はいる。要領のいい人も、自己主張が上手い人もね」


 蒼い瞳が、まっすぐ蓮を捉える。


「でも、あなたは違う」


 九条は静かに続けた。


「比べられる場所まで来るために、ちゃんと努力してきた人。評価されなくても、簡単に投げ出さなかった人」


 一拍置いて、


「そういう人は、生徒会に必要」


 蓮は思わず息をのむ。


「……俺なんかが、役に立ちますか」


 弱気な言葉が、ぽつりとこぼれた。


 九条は即答した。


「立つよ」


 迷いのない声だった。


「だから、誘ってる」


 教室のざわめきが、少しずつ戻ってくる。


 蓮は視線を落とし、握った拳を見つめた。


 追いかけるために走ってきた日々。

 傷ついた言葉。

 それでも、止まらなかった時間。


「……少し、考えてもいいですか」


 そう言うと、九条は満足そうに頷いた。


「もちろん」


 そして、去り際に一言。


「放課後、生徒会室で待ってる」


 扉が閉まり、教室に残された空気が、ゆっくりと動き出す。


 信が、肘でつついてきた。


「なあ蓮……人生、動き出してね?」


 蓮は小さく息を吐き、窓の外を見た。


 まだ、答えは出ていない。


 それでも――


 確かに、新しい選択肢が、そこにあった。

また読みたい!!続きが気になる!って人はこれからもぜひ応援してください

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ