EP27 生徒会室、臨界点
翌日。
生徒会室のドアを開けた瞬間、蓮は悟った。
(……やばい)
静かすぎる。
九条は資料に目を落としている。
いつも通りの、完璧な会長の顔。
柚葉は窓際。
腕を組み、外を見ている。
紬は机に肘をつき、ペンを回している。
笑顔。けれど目は冷たい。
三枝は、存在を消している。
「おはようございます」
蓮の声だけが浮いた。
「おはよう、如月くん」
九条は淡々と返す。
その直後。
「体調、大丈夫?」
紬が言う。
柔らかい声。
だが視線は、柚葉へ向いている。
「昨日、結構弱ってたよね?」
柚葉がゆっくり振り向く。
「……あなたが近づきすぎただけ」
静かな刃。
紬は微笑む。
「すこし、触れちゃっただけだよ?」
「ふーん」
柚葉が一歩、机に近づく。
「すごい偶然ね、あんな触れ方してたのに」
空気がぴり、と裂ける。
蓮が口を開く。
「やめ――」
「「蓮は黙ってて」」
二人同時。
室温が落ちる。
九条がページをめくる。
だが、同じ場所。
紬が立ち上がる。
「柚葉ちゃんさ」
わざとらしい呼び方。
「昔からそうだよね」
柚葉の眉が動く。
「何が」
「蓮のことになると、必死」
軽い声音。
だが狙いは深い。
柚葉の指先が白くなる。
「あなたに言われたくない」
紬は続ける。
「中学のとき、ほとんど話してなかったよね?」
沈黙。
「勉強や部活、張り切ってたもんね」
笑顔。
「追いつきたかったんでしょ?」
蓮が思わず立ち上がる。
「紬、やめろ」
冷たく言った。
その一瞬の反応。
紬の瞳が、揺れた。
柚葉は逃さない。
「ほら」
小さく笑う。
「そうやって、弱い顔する」
「……何それ」
「被害者みたいな顔」
一歩近づく。
「でも一番計算してるの、あなたでしょ?」
紬の笑みが消える。
「計算?」
声が低くなる。
柚葉は止まらない。
「じゃあ、なんで」
一瞬だけ、声が震える。
「一番きついとき、隣にいなかったの?」
――静止。
紬の表情が崩れる。
ほんの一瞬。
それだけで十分だった。
「そこまで」
低く、澄んだ声。
九条が立ち上がる。
空気が切り替わる。
「ここは戦場じゃないわ」
視線が二人を射抜く。
「如月くんは物じゃない」
はっきりと言い切る。
「奪う奪われるで語らないで」
沈黙。
柚葉と紬は、まだ互いを見ている。
火は消えない。
形を変えただけだ。
蓮は悟る。
(もう、元には戻らない)




